水源連の最新ニュース
地球温暖化による水害の頻発と激甚化、忘れてはならない国の河川行政の誤り
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地球温暖化の影響で近年は水害が頻発し、激化してきている問題を取り上げた記事を掲載します。
確かに地球温暖化の影響で水害が頻発し、激甚化してきているように思います。
しかし、近年の凄まじい水害の発生は国の河川行政のあり方に根本的な問題があることに起因するところが少なくありません。
2015年の茨城・鬼怒川水害は国が上流ダムの建設に固執して下流の堤防整備を怠ってきたこと、2018年の岡山・真備水害は国が小田川の付け替え工事を半世紀も遅らせてきたこと、2018年の愛媛・肱川水害は国が肱川の河道整備の遅れを弥縫するため、野村ダムの放流ルールを改悪してしまったこと、2020年の熊本・球磨川水害は国が川辺川ダム事業の復活に固執して本来実施すべき河道整備をずっと怠ってきたことの影響が大きいと思います。
近年の水害の激化を単に自然現象の変化の問題としてとらえるではなく、国の河川行政のあり方に根本的な問題があることを洞察する必要があると思います。
水害が温暖化で激甚化 一人一人が生活スタイル見直し、2100年の天気予報変えよう
(徳島新聞2022/09/01)https://nordot.app/937802121617899520?c=39546741839462401
台風11号で浸水した住宅街から住民を救助する救急隊員=2014年8月、那賀町和食郷
「全国の気温を観測する約900カ所のうち140カ所で40度を超えました」「日本の南の海上に最大瞬間風速90メートルの台風があります。家屋が倒壊するような風が吹くスーパー台風です」―。
今から78年後の2100年夏、天気予報のキャスターが発する言葉だ。地球温暖化対策が実らず、平均気温が最大4.8度上昇した未来を描き出している。環境省が制作し、ウェブサイトで公開している動画「2100年未来の天気予報」を見てほしい。
風速90メートルの台風とはどれほどの威力なのか。実は既に同規模の台風は生まれている。13年にフィリピン中部を襲った台風30号は、最大風速65メートル、最大瞬間風速90メートル。暴風雨に加えて高潮が街を襲い、多くの住宅が倒壊。死者・行方不明者は7千人を超えた。
19年9月に千葉市付近に上陸した房総半島台風(台風15号)は、千葉で最大風速35.9メートル、最大瞬間風速57.5メートルを観測し、いずれも同地点の観測史上1位を更新した。この風速でも死者が9人出て、千葉県を中心に多くの建物が被害に遭った。屋根がブルーシートに覆われた家屋が連なる写真を覚えている人も多いだろう。停電が続いた地域では熱中症と見られる死者も相次いだ。
気象庁によると、日本の平均気温は100年当たり1.28度上昇している。海水温が上昇すると台風は巨大化し、気温が上がるほど大気中に含まれる水蒸気量は増え、豪雨を降らせる。
18年7月の西日本豪雨は平成に入って以降で初めて100人を超える死者を出し、「平成最悪の水害」となった。徳島県内でも三好市や那賀町で土砂災害が相次ぎ、三好市山城町では今も避難生活を送る被災者がいる。気象庁は18年8月、個別の豪雨について初めて「地球温暖化に伴う気温の上昇と水蒸気量の増加」が一因との見解を公表した。
激甚化した水害は毎年のように日本、そして世界を襲っている。世界は今、50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル社会」の実現を目指している。一人一人が生活スタイルを見直せば、まだ2100年の天気予報は変えられる。
今日は「防災の日」。いつ起きてもおかしくない水害に、どう対応すべきか。雨雲の動きが分かるアプリをスマートフォンに入れておく、ハザードマップを確認する、備蓄品を買う―。それぞれがまず一歩、備えを進めたい。
ここ10年の主な水害
【2012年7月 九州北部豪雨】
熊本、福岡、大分の3県を中心に、1時間に100ミリ前後の猛烈な雨が観測された。河川の氾濫や土砂災害が発生し、3県の死者・行方不明者32人。
【2013年10月 台風26号】
伊豆諸島の伊豆大島では記録的な大雨が降り、土石流が発生した。伊豆大島などで43人の死者・行方不明者が出た。
【2014年8月 台風11号】
高知県安芸市付近に上陸し、四国を縦断。徳島県内では那賀川が氾濫し、那賀町鷲敷地区と阿南市加茂谷地区で大規模な浸水被害が発生、山間部では土砂災害が相次いだ。
【2014年8月 広島土砂災害】
広島市の一部地域への記録的集中豪雨で土石流が発生し、77人が犠牲になった(災害関連死を含む)。新興住宅地での土砂災害とあって、都市計画の在り方なども問われた。このときの豪雨による全国の死者・行方不明者は91人。
【2015年9月 関東・東北豪雨】
茨城県常総市の鬼怒川で堤防が決壊、広範囲に氾濫した。死者・行方不明者20人。
【2016年8月 台風7,9,10,11号】
北海道、岩手県で記録的豪雨。死者・行方不明者31人。岩手県岩泉町の高齢者施設で9人が犠牲になった。
【2017年7月 九州北部豪雨】
福岡、大分両県で大規模な土砂災害が相次いだほか、河川が氾濫した。死者・行方不明者は両県で44人。
【2018年6、7月 西日本豪雨】
死者・行方不明者は271人に上った。平成に入ってから初の死者が100人を超える水害。7月5日から8日にかけ、東海地方から九州までの広範囲で16の線状降水帯が形成されている。徳島県内では三好市と那賀町で土砂崩れによる孤立世帯が出た。
【2018年9月 台風21号】
非常に強い勢力を保ったまま、徳島県南部に上陸し、近畿地方を縦断。近畿地方を中心に14人が犠牲となり、関西国際空港の滑走路が浸水するなどの高潮被害が出た。
【2019年9月 房総半島台風】
千葉市付近に上陸。千葉市では最大風速35.9m/s、最大瞬間風速57.5m/sを観測し、いずれも観測史上1位を更新した。東京都と千葉県で死者9人が出た。千葉県内を中心に4000棟を超える住宅が全半壊。停電や断水が続いた地域もあり、熱中症とみられる症状で亡くなる人も相次いだ。
【2019年10月 東日本台風】
関東・東北地方を中心に河川の氾濫と土砂災害が発生し、107人の死者・行方不明者が出た。
【2020年7月 熊本豪雨】
熊本県内の死者(災害関連死含む)・行方不明者は69人。球磨村の特別養護老人ホームの入所者14人も犠牲になった。球磨川の13カ所で氾濫が発生。その後、白紙撤回されていた川辺川ダム整備計画が復活した。このときの豪雨による全国の死者・行方不明者は86人。
【2021年9月 徳島県南部の大雨】
徳島県南部上空に線状降水帯が形成され、海陽町では観測史上最大となる1時間に120ミリの猛烈な雨を観測。住宅の浸水被害などが出た。
流水型川辺川ダムの環境影響の検討委員会の資料
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8月24日、流水型川辺川ダムの環境影響の検討委員会が開かれました。
その検討委員会の資料が下記の通り、川辺川ダム砂防事務所のHPに掲載されました。
かなり分厚い資料です。委託費がふんだんにあるから、このような資料もつくれるのでしょうね。
流水型川辺川ダムは既存の流水型ダムと比べて桁違いに大きい流水型ダムですから、今後の環境影響を予測できるはずがありません。そして、既設の流水型ダム(たとえば最上小国川ダム)では環境への影響が深刻な問題になってきています。
検討委員会のニュース記事も掲載します。
九州地方整備局 川辺川ダム砂防事務所 https://www.qsr.mlit.go.jp/kawabe/
流水型ダム環境保全対策検討委員会 https://www.qsr.mlit.go.jp/kawabe/
第4回 流水型ダム環境保全対策検討委員会8月24日(水)開催資料
https://www.qsr.mlit.go.jp/kawabe/kankyou2/daiyonkai.html
説明資料2-1
【配慮レポートに対するご意見と事業者見解(案)】 https://www.qsr.mlit.go.jp/kawabe/kankyou2/siryou405.pdf
説明資料2-2
【流水型ダムによる環境影響の最小化に向けた検討状況】 https://www.qsr.mlit.go.jp/kawabe/kankyou2/siryou406.pdf
説明資料2-3
【環境影響評価にあたっての調査、予測及び評価手法等】 https://www.qsr.mlit.go.jp/kawabe/kankyou2/siryou407.pdf
説明資料3
【今後のスケジュールについて】 https://www.qsr.mlit.go.jp/kawabe/kankyou2/siryou408.pdf
【参考資料1】(1) (2)
【参考資料2】
【参考資料3】
流水型ダム 放流設備の検討例示される【熊本】
(テレビ熊本2022年8月25日 木曜 午後0:00) https://www.fnn.jp/articles/-/407879
(映像)
川辺川に建設予定の流水型ダムによる環境影響の最小化について考える検討委員会が24日開かれ、流水型ダムの放流設備の検討例が示されました。
検討委員会では、国がダムの形状について平常時に水を流す門と洪水調節を行う門の
数の違いによる検討例を提示。
また環境影響の調査方法などを記した「方法レポート」の原案では、ダム完成後の水質や生物、植物などへの影響調査や予測の方法が示されました。
委員からは、調査する生物や植物の追加を求める意見などが挙がりました。
流水型ダムについては、環境アセス法と同等の環境影響評価を行うことになっていて、今回の議論を踏まえてレポートがまとめられます。
茨木の安威川ダム、試験湛水始まる 23年度の運用目指す
残念な情報ですが、大阪府の安威(あい)川ダム(茨木市)は本体工事が完了し、9月5日に試験湛水が始まりました。その記事を掲載します。
試験湛水開始は、安威川ダム建設事務所のHPに掲載されています。https://www.pref.osaka.lg.jp/aigawa/sikentansui/index.html 事務所に聞いたところ、試験湛水は2023年4月末頃に終わる予定とのことです。
安威川ダムは大阪の市街地に建設される特異なダムで、総貯水容量が1,800万㎥もあり、補助ダムとしてはかなり大きいダムです。他のダムと同様に、工期の延長と事業費の増額が繰り返されてきていて、工期は当初の2008年度完成が2023年度まで延期され、事業費は当初の836億円から1676億円へと、約2倍になりました。
安威川ダムは大阪府営水道が撤退したので、環境容量という必要性が希薄な用途の容量を入れて、1,800万㎥という総貯水容量を維持してきています(洪水調節容量1,400万㎥、流水の正常な機能の維持容量146万㎥、環境容量94万㎥、堆砂容量160万㎥)。
洪水以外の目的は必要性が希薄で、安威川ダムの建設目的は洪水調節にありますが、その洪水調節の目的も虚構の上に成り立っています。
安威川ダムの治水問題で最も重要な問題は、100年に1回の降雨による洪水への対応で安威川ダムが必要とされているものの、実際には1/100の降雨があると、安威川ダムがあっても、安威川・神崎川流域の大半のところが氾濫してしまうことです(安威川は下流の神崎川につながっていて、一連の川です)。
この無意味なダムを中止させるために、江菅洋一さんら、大阪府民が裁判で闘いました。嶋津もこの裁判に証人として参加しました。しかし、残念ながら、一審、二審とも敗訴になりました。
安威川ダムの虚構については「大阪府の安威川ダムは無意味で愚かなダム事業」https://suigenren.jp/news/2018/02/24/9712/ をお読みください。
大阪府/安威川ダム試験湛水開始/来年度にも供用
( 建設通信新聞2022-09-07)https://www.kensetsunews.com/archives/734667
施工中の安威川ダム
大阪府は、北摂地域の治水施設として供用を目指す安威川ダムについて、5日から試験湛水を開始した。今後は試験湛水の計画に基づき、貯水可能な最高水位(サーチャージ水位)まで水を貯めた後、最低水位まで下降させる。順調に進めば2023年5月ごろにも試験を終え、同年度中に供用を開始する見込みだ。
試験湛水はダムの本格運用の前に、実際に水を貯めてダム本体や貯水池周辺の安全性を確認するもの。今回は大雨の際の洪水も貯留しながら、約8カ月をかけてサーチャージ水位(125m)まで水を溜め、その後は約1カ月間で常時満水時(99.4m)と最低水位(90.2m)の普段の水位まで下降させる。湛水面積は洪水時が81ha、平常時が34ha。
試験は大阪府が実施するが、これに付随した堤体挙動解析や計測監視、供用後のダム管理に向けた計測監視計画案の作成などの業務はニュージェックが担当する。
安威川ダムは、1967年7月に死傷者61人の被害をもたらした北摂豪雨災害を契機に計画された、堤体積222.5万m3の中央コア型ロックフィル形式の治水ダム。大阪府茨木市大字生保、大門寺地先に多目的ダムとして建設している。規模は堤高76.5m、堤頂長337.5m、総貯水容量1800万m3、有効貯水容量1640m3で、全体事業費は1676億円に及ぶ。
本体施工は大林組・前田建設工業・奥村組・日本国土開発JVが担当した。14年3月に本体工事に着手後は18年6月には基礎掘削を、22年1月に堤体の盛り立てを終え、ことし8月にダム本体の工事が完了した。
100年に一度起こり得る規模の大雨(時間雨量80mm程度、日雨量250mm程度)でも下流の河川を氾濫させない機能を持つ。洪水調節は人による操作を行わず、貯水位に応じて洪水吐きから自然に流れる「自然調節方式」を採用している。
茨木の安威川ダム、試験湛水始まる 23年度の運用目指す
(朝日新聞2022年9月6日 10時15分)https://digital.asahi.com/articles/ASQ9575TGQ95OXIE02K.html
球磨川水系河川整備計画への県知事と各市町村長の意見
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8月9日、流水型川辺川ダムの建設をメインとする球磨川水系河川整備計画が策定されました。
この計画策定に対して蒲島郁夫・熊本県知事は「異存はない」と回答しました。(知事回答の文面を下記に転載)
川辺川ダム計画は潮谷義子・熊本県前知事が中止に向けて長年取り組んできたダム計画で、中止が県民の願いとなっていました。それを受けて、2008 年9月、蒲島郁夫・現知事がやむなく、県議会で建設反対を表明したものであり、ダム中止は蒲島氏の本意ではありませんでした。
蒲島氏は、2020年球磨川水害のあと、12年前の白紙撤回から方針転換し、2020年11月に新たな流水型のダム建設を国に求めると表明し、今回、上記の回答を行いました。
川辺川ダム計画は2009年に中止とされたものの、特定多目的ダム法に基づく廃止手続きは取られておらず、法的には生き残っていて、国交省はダム事業復活の機会をずっと伺ってきました。2020年球磨川水害がその復活の機会となってしまいましたが、当時、仮に川辺川ダムがあっても、亡くなった方の大半はその命を救うことができなかったことが明らかになっています。
この球磨川水系河川整備計画に対して球磨川流域の各市町村長がどのような意見を述べたかですが、次の「熊本県知事意見」の中に市町村長の意見も入っていますので、ご覧ください。
球磨川水系河川整備計画[国管理区間](令和4年8月9日策定)
熊本県知事意見 http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/site_files/file/river/kasenseibi/tiji_iken.pdf
流域市町村長のうち、川辺川ダムのダムサイト予定地「相良村」、川辺川ダムの水没予定地「五木村」、2020年7月の熊本豪雨で大勢の死者が出た「球磨村」と「人吉市」の各首長の意見を下記に転記しておきます。
相良村長、五木村長、球磨村長は川辺川ダム計画への賛意を示していないように読み取れます。
それに対して、人吉市長は川辺川ダム計画の推進を強く求めています。
かつて、2008年に蒲島郁夫熊本県知事が川辺川ダム計画の白紙撤回を表明したのは、球磨川流域で川辺川ダムの恩恵を最も受けるとされる人吉市の田中信孝市長がダム反対を表明したことが大きな要因になりました。
当時の田中市長と比べると、今の松岡隼人市長は全く逆方向を向いています。
2020年7月の熊本豪雨で、人吉市で多くの死者が出たのは、球磨川の本川よりも支川が早く氾濫したことによるものであり、当時、仮に川辺川ダムがあっても、その命を救うことができませんでした。
その重要な事実を踏まえずに、松岡市長は安易に川辺川ダム計画の推進を強く求めているのです。
熊本県知事
相良村長
五木村長
球磨村長
人吉市長
流水型川辺川ダムの建設をメインとする球磨川河川整備計画の策定と流域住民の抗議行動
九州地方整備局と熊本県は8月9日、流水型川辺川ダムの建設をメインとする球磨川水系河川整備計画を策定しました。
河川整備計画の内容は九州地方整備局のホームページ http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/site_files/file/news/r4/20220809kisya.pdf に掲載されています。
河川整備計画の主な治水事業の位置図を次に示します。
多くの方が 公聴会や意見書で球磨川水系河川整備計画原案の根本的な問題点を指摘したけれども、ほとんど変わることなく、流水型川辺川ダムの建設をメインとする球磨川水系河川整備計画があっという間につくられてしまいました。
公聴会・パブリックコメントは河川管理者が市民の意見を計画に反映したことにするためのセレモニーにすぎませんでした。
この策定に対して、流域の市民団体が8月10日、国土交通省、熊本県に抗議文を提出しました。
抗議文提出の記事と整備計画策定の記事を掲載します。
必要性が希薄で、環境に多大な影響を与える流水型川辺川ダムの計画が進められていくことは腹立たしい限りです。私たちはこれからも球磨川水系河川整備計画の問題を指摘し、流水型川辺川ダムの建設を阻止するための行動を続けていかなければなりません。
ダムの完成予定が2035年度ですので、反撃の余地はまだまだあると思っています。
流水型ダム整備含む熊本・球磨川の河川計画 反対市民団体ら抗議文
(西日本新聞2022/8/11 11:30)https://www.nishinippon.co.jp/item/n/971071/
流水型ダム建設を盛り込んだ河川整備計画への抗議文を手渡す市民団体のメンバー
抗議文を手渡す豪雨被災者の住民有志(右)
球磨川の支流川辺川への流水型ダム整備を含んだ河川整備計画の策定を受け、ダム建設に反対する市民団体が10日、国土交通省や熊本県に対する抗議文を提出した。人吉市の豪雨被災者ら住民有志も同日、県庁に提出した抗議文で「ダム反対の民意を無視する暴挙だ」などと訴えた。
国交省八代河川国道事務所では「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」(中島康代表)など6団体が斉藤鉄夫国交相と蒲島郁夫知事に宛てた抗議文を提出。河川整備計画を断固拒否するとした上で「ダム計画の中止を勝ち取るまで闘い続ける」と強調した。
中島代表(81)は「流域の意見が計画に反映されていると思えない。民主主義の根幹に関わる問題だ」と憤った。抗議文を受け取った同事務所の寺師浩二事務副所長は「意見や文書は担当部署に伝える」と述べるにとどめた。
一方、人吉市で被災した住民有志5人は、蒲島氏が整備計画案に「異存なし」と回答したことへの抗議文を提出。同市や球磨郡の住民計93人分の署名も添え、整備計画の撤回を求めた。
豪雨で自宅が全壊した同市の林通親さん(73)は「(策定手続きが)こんなに早く進められて納得いかない。被災者の声を聞くべきだ」。同市の関根喜美子さん(75)は「災害では命だけでなく住まいや財産全てを失う。住民の声を聞いて計画をゼロから考え直してほしい」と声を上げた。 (梅沢平、鶴善行)
計画策定「住民無視の暴挙」 国、県に抗議文提出
(人吉新聞20220810) https://hitoyoshi-sharepla.com/news.php?news=5573
川辺川への流水型ダム建設を含む球磨川水系河川整備計画を9日に策定、公表した国土交通省、熊本県に対し、市民団体の「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」(中島康代表)は10日、「住民無視」の同ダム建設に反対するとともに、流域住民への丁寧な説明を求める抗議文を提出した。
抗議文によると、同計画原案に寄せられた住民意見の7割が流水型ダムに反対したことを無視した異挙であり、国交省、県ともに「丁寧に説明しながら事業を進める」という姿勢に反する。流域住民の多くは過去の体験からダムに強い拒否感情、疑問がある中で住民無視の計画は到底受け入れられないと訴えている。
国交省八代河川国道事務所に中島代表ら賛同する団体の9人が訪れ、寺師浩二副所長に抗議文を手渡した。
中島代表は「住民の意見が全く反映しておらす、丁寧な説明をするというが、何度も行っている抗議活動に対する回答は一度もない」、瀬戸石ダム周辺に喜らす男性は「荒瀬ダム、瀬戸石ダムを建設する際、国交省は今回と同じことを言っていたが、全くのうそだった」「穴あきダムがある清流の河川はない。命も清流も守れない」と抗議した。
寺師副所長は「窓口として受け取り、上司に適切に伝え、対応していく」と詳細な回答を控えた。
豪雨災害から2年…熊本・球磨川水系の治水策本格始動へ
(西日本新聞2022/8/10 6:00) https://www.nishinippon.co.jp/item/n/970447/
川辺川への流水型ダム建設で10年に1回程度の大雨で水没することが想定される熊本県五木村の旧中心部=9日午後
国土交通省九州地方整備局と熊本県は9日、2020年7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川水系の河川整備計画を策定したと発表した。発災から2年超。河川法に基づく整備計画には支流川辺川への新たな流水型ダム整備も盛り込まれ、河道掘削や宅地かさ上げ工事などを含めた、今後約30年間の治水策が本格的に動き出す。
流水型ダムは、旧川辺川ダム計画と同じ同県相良村に建設予定。高さ107・5メートル、総貯水量約1億3千万トンで、治水専用ダムとしては国内最大となる。今後は環境に与える影響調査を進め、27年度に着工。完成は35年度を見込む。
整備計画では、遊水地の整備や河道掘削などにより、同県人吉市の地点で洪水時の最大流量を毎秒7600トンに設定。「50年に1度」の洪水を安全に下流に流すことを目標に掲げる。
蒲島郁夫知事は流水型ダムについて「命と環境の両立が図れているか確認する仕組みを立ち上げる。(ダム建設の影響を受ける)五木村、相良村の振興にも全力で取り組みたい」とのコメントを出した。
球磨川水系では、08年の旧川辺川ダム計画「白紙撤回」後の治水策がまとまらず、全国109の1級水系で唯一、整備計画が策定されていなかった。今回の整備計画を巡っては、蒲島氏が今年7月下旬、国が示した案に「異存なし」と回答。流域市町村からも変更を求める意見はなかったが、五木村と相良村はダムへの賛否を明言していない。
ダム建設に反対する市民団体「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」の中島康代表は「説明会やパブリックコメント(意見公募)での住民の意見が反映されていない。ダム頼みの治水策は危険であり、改めて検証するべきだ」と訴えた。 (鶴善行、松本紗菜子)
流水型ダム、環境への影響どう低減
球磨川水系河川整備計画の柱は、環境への影響を最小限に抑えることを目指す支流川辺川への新たな「流水型ダム」の整備だ。旧ダム計画を白紙撤回しながら、今回計画を容認している熊本県の蒲島郁夫知事は「命と清流を守る」として環境への配慮を求めているが、実効性を確保できるかが問われている。
新ダムの特徴は、放流口に開閉式のゲートがあり、平常時は「流水型」として運用し、豪雨時はゲート操作により放流量を制御し「貯水型」としての機能を兼ね備えられる点だ。平常時はダムの下部に設けた穴から川の水を流すことになっており、魚類や土砂の移動は確保されやくなる。そのため、土砂の堆積などによる生態系や水質などへの影響は小さいとされる。
球磨川の治水策を検討する学識者懇談会委員を務める熊本大の大本照憲特任教授(河川工学)は「平常時は生態系への影響が小さく、貯水容量も大きいため安全性を確保するには効果的だが、有事の際は下流に土砂を押し流すことになる」と指摘。その上で「今後は実験を重ねた上で、治水効果と生態系維持とのバランスがとれる形にすべきだ」と話した。 (松本紗菜子)
流水型ダム決定「球磨川治水本格的に」国が意義
(読売新聞2022/08/10 05:00)https://www.yomiuri.co.jp/local/kumamoto/news/20220809-OYTNT50163/
(写真)計画について記者会見で説明する宗所長(中央)ら
国土交通省が九州豪雨で氾濫した球磨川の河川整備計画を策定した9日、担当者が県庁で記者会見を開き、「遊水地や 引堤(ひきてい)などの治水対策に本格着手できる」と意義を語った。支流・川辺川への流水型ダム建設を含め、「丁寧に説明し、住民の理解を深めたい」と強調した。振興策を示すよう求める声も上がった。(内村大作)
ダム本体の工事は2027年度に着手し、35年度の完成を目指す。着工前に環境影響評価(環境アセスメント)や設計を進め、用地買収や漁業権を巡る漁協との補償交渉にも取り組む。
計画には、気候変動による降雨量の増大を踏まえ、関係者が協力して流域全体で被害を軽減させる「流域治水」の観点を盛り込んだ。会見した国交省八代河川国道事務所の宗琢万所長らは、支流や森林などにも目を向けたとする特徴を説明した。
国は計画策定を受け、球磨村や人吉市などで進める遊水地の用地取得に取り組む。球磨村神瀬地区などが対象となる宅地かさ上げは盛り土の工事に本格着手する。県も管理区間の整備計画を公表し、支流の治水対策を進めるとした。
蒲島知事は「流水型ダムが命と環境の両立が図れるか確認する仕組みを出来るだけ早くつくる」との談話を出した。
水没予定地がある五木村の岡本精二議長は「計画ができたというだけで、村も議会もダムを容認したわけではない。村づくりが先決で、国、県には今後の振興の形を早く示してほしい」と注文した。
◆反対市民団体が批判
球磨川の河川整備計画を巡り、ダム建設に反対する市民団体「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」(熊本市)の中島康代表は「計画案に対する説明会はなく、多くの反対の意見も聞き入れていない。水害の被害者にも失礼だ」と批判した。
団体は5日、蒲島知事が国の計画案に「異存なし」と回答したことについて、撤回を求める抗議文を提出していた。他に5団体が賛同した。
抗議文では、整備計画の原案の段階で国、県が行った意見公募や公聴会で、約7割が建設反対の意見だったと分析。「豪雨災害を経た後でも流域の民意は圧倒的にダム反対」とした。
川辺川のダム整備計画策定 国交省と熊本県
(毎日新聞 2022/8/10 西部朝刊 )https://mainichi.jp/articles/20220810/ddp/041/040/008000c
国土交通省と熊本県は9日、2020年7月豪雨で氾濫した球磨川水系の河川整備計画を策定した。治水対策として、支流の川辺川に流水型ダムを建設するのが柱。今後、遊水地の整備や河川工事を含め、本格的な作業に移る。
流水型ダムは35年度に完成予定で、水路を設け、平時は水を流して増水時だけためる仕組み。環境負荷が少ないとされる。蒲島郁夫知事は「命と環境の両立が図られているか確認する仕組みをできるだけ早く立ち上げる」とコメントした。
整備計画は、今後約30年間にわたる河川整備の目標や、河川工事の場所などを明記。流水型ダムによる「緑の流域治水」を進めるとしている。県は順次、宅地かさ上げや河川整備の現地測量に向けた住民説明会を開催する予定。国交省は用地取得などを進める。
流水型ダム盛り込んだ河川整備計画、国と熊本県決定 球磨川水系
(熊本日日新聞 2022年8月9日 13:13) https://kumanichi.com/articles/754010
国が流水型ダムの建設を計画している川辺川の峡谷。中央右は下流側の排水路トンネル=2月14日、相良村四浦(高見伸、小型無人機で撮影)
国土交通省九州地方整備局と熊本県は9日、2020年7月豪雨災害で氾濫した球磨川水系の河川整備計画を策定し、治水対策の柱として支流・川辺川への流水型ダム建設を盛り込んだ。河川整備計画の期間はおおむね30年。人吉市で「50年に1度」の大雨でも洪水被害が出ないようにすることを掲げた。
ダム以外に、遊水地の整備や河道掘削といった河川工事も本格的に進める。蒲島郁夫知事は「命と環境を守る『緑の流域治水』を推進し、流水型ダムは命と環境の両立が図られるか確認する仕組みを早く立ち上げる」とコメント。ダムの影響が及ぶ五木村と相良村の振興に全力で取り組む姿勢を改めて強調した。
流水型ダムは旧川辺川ダム計画と同位置の相良村四浦の峡谷に建設。高さ107・5メートル、総貯水量約1億3千万トンで、国内最大の治水専用ダムとなる。
35年に完成予定で、普段は水をためず、洪水時は下部のゲートを閉めて水をためて水位が上がれば中段のゲートを操作し放流量を調節する。河川整備計画では20年7月豪雨の実績の1・4倍の雨が降った場合、流入量を下流へ流す異常洪水時防災操作に移行する可能性があることを言及。環境への影響については「最小化を目指す」とした。
計画は人吉市の基準点で「50年に1度」の大雨を安全に流すことを目標にしており、既存の市房ダム(水上村)の再開発や複数の遊水地整備、河道掘削を進め、対応可能な流量を現状の約2倍の毎秒7600トンに引き上げるとした。
家屋への浸水を防ぐ輪中堤整備や宅地かさ上げは、球磨川中流域にある球磨村、芦北町、八代市坂本町の計6地区で実施。五木村を含む14支川でも取り組む。水田の貯留機能向上や森林整備など、流域全体で氾濫を防ぐ施策も進める。
河川整備計画は、全国に109ある1級水系のうち球磨川水系だけが未策定だった。策定を巡っては、ダムに反対する住民らが疑問を挟んでいた一方で、河川法が定める意見聴取で蒲島知事は被災地の復旧・復興を重視する県の方向と一致するとして計画案に同意。球磨川流域12市町村も変更を求める意見は出さなかった。(髙宗亮輔)
川辺川下流から見た流水型ダムの建設予定地=2021年12月、相良村四浦(小山智史)