水源連:Japan River Keeper Alliance

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水害訴訟(鬼怒川、小田川(真備町)、野村ダム)2022年6月19日現在の状況

2022年6月19日
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水害の行政責任を問う裁判が各地で進められています。その情報をまとめて掲載します。

 

○ 鬼怒川水害訴訟(茨城県)

2015年9月の関東・東北豪雨では鬼怒川下流部で堤防が決壊し、無堤地区で大規模な溢水があって、その氾濫が茨城県常総市の鬼怒川左岸側のほぼ全域におよび、凄まじい被害をもたらしました。

堤防決壊箇所も大規模溢水箇所もその危険性が極めて高いことを国土交通省は認識していながら、放置してきており、国土交通省の責任はきわめて重大です。そこで、国家賠償法により、被災者22世帯の方が国に対して損害賠償を求める裁判を2018年に起こしました。今年2月に結審し、7月22日に判決日を迎えることになりました。

当初から本裁判に関わってきたものの印象として、この裁判は弁護士の皆様の頑張りで、住民側が勝つ要素が十分にある裁判であると思っています。

本裁判の経過、訴訟資料、報道記事は鬼怒川裁判のHP https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000053#case_tab

に掲載されています。

裁判所へ国民の声を届けることも必要です、

「7月22日(金) に判決日を迎える鬼怒川水害訴訟 水戸地裁へ要請はがきを!」https://suigenren.jp/news/2022/05/29/16273/

をお読みの上、本訴訟へのバックアップをお願いします。

 

○ 真備水害訴訟(岡山県)

2018年7月の西日本豪雨では岡山県倉敷市真備町で51名の方が亡くなりました。高梁川支流・小田川とその支川の氾濫によるものでした。

その経緯は、「高梁川支流・小田川(岡山県真備町)の氾濫防止事業を半世紀も先送りした国土交通省」 https://suigenren.jp/news/2022/04/25/16311/

をお読みください。

真備水害弁護団のHPもあります。http://mabisuigai.starfree.jp/index.html

そのHPに原告側の意見書「真備水害における河川管理者の責任について」(令和 3 年 9 月 20 日 中村文彦)が掲載されています。

https://drive.google.com/file/d/1I4PY7rfYn6EyDg70v8wXgsD_1VKGuof5/view

「かかる真備水害は想定外の大洪水ではなく、事前に予期できたものであり、適切な河川改修が実施されていれば、未然に防ぐことができた。また、住民から要望のあった樹木伐採を適正に行っていれば、大きく被害軽減が可能であった。」という主旨で書かれていて、小田川の付け替え、河川改修、樹木伐採を遅らせてきたことの責任を厳しく問うています

中村氏は近畿地方整備局水災害予報センター長であった人で、原告側の立場で意見書を出されたことに感銘を受けました。

なお、小田川氾濫の根源となった小田川付け替え事業の先送り問題ですが、現在、その工事が進行中です。

小田川合流点付替え事業進捗状況 – mlit.go.jp  https://www.cgr.mlit.go.jp/takaoda/shinchoku/tsukekae.html 」

を見ると、2018年の水害後に付け替え工事が開始され、2023年度完成予定で、進められつつあります。来年度には工事が終わる予定ですが、あまりにも遅すぎます。

もっと早く着手していれば、2018年7月の西日本豪雨の小田川氾濫を回避することができました。

 

○ 野村ダム緊急放流による水害訴訟(愛媛県)

西日本豪雨では愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムが緊急放流を行い、深刻な洪水被害を引き起こしました。

野村ダムの下流では、ダムの放流により、5人が死亡し、約650戸が浸水しました。鹿野川ダムの下流でもダムの放流により、3人が死亡し、約4600戸が浸水しました。

2018年7月の西日本豪雨による肱川の氾濫で浸水被害が拡大して犠牲者が出たのは野村ダム等の操作や西予市の避難指示の遅れが原因として、遺族や被災者ら13人が国と西予市に損害賠償を求める裁判を起こしています。

前にもお知らせしましたが、

この原告団がインターネットで裁判費用を募るクラウドファンディング(CF)を行っています。

このクラウドファンディングについては「野村ダム緊急放流による水害訴訟」https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000061#case_tab をご覧ください。皆様の支援をお願いします。

原告の方々にとって全国からの声が何よりも励みになりますので、皆様の声を届けてください。

この裁判の重要な争点となっているのは、野村ダム、鹿野川ダムの操作規則が1996年にそれまでの大規模洪水を対象にしたものから、中小規模洪水を対象にしたものに改定されたことです。

(訴状https://www.call4.jp/file/pdf/202010/5309d01694e6e2cae0ed62a962af532d.pdf  9~10ページ)

中小規模の洪水を対象とするように変えたのは、ダム下流域は堤防未整備区間が多いので、ダムの調節で中小洪水の氾濫を抑えようと、国土交通省が考えたからです。ダム優先の河川行政で河道整備が後回しになり、その弥縫策として採用されたのがダム放流ルールの改定でした。(「肱川のダム放流「中小規模の洪水対応」適切だったか」 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33702510S8A800C1000000/  日経xTECH 2018年8月2日 )

しかし、大規模洪水が来た2018年西日本豪雨ではそのことが大きく災いしてしまいした。

改定前の大規模洪水対象の操作規則(旧ルール)ならば、氾濫を小さくすることができたのに、中小規模洪水対象の操作規則であったため、氾濫被害を極めて深刻なものにしてしまいました。

国土交通省のデータを使って、野村ダムについて嶋津が数年前に試算した結果を下図に示します。

旧ルールであったならば、(1000㎥/秒以上で氾濫したとすると)ダム直下の氾濫の始まりが6時30分頃から8時頃へと、約1時間半も遅くなり、氾濫水の総量は1/3程度になり、氾濫ピーク流量は1800㎥/秒から1400㎥/秒程度へと、400㎥/秒程度小さくなっていました。

旧ルールでも氾濫があったとしても、旧ルールであったならば、氾濫の被害が大幅に軽減されていました。人の命も救えたように思います。

しかし、国土交通省はダム優先の河川行政が深刻な洪水被害を引き起こしたことへの反省が全くなく、相変わらず、肱川でダム優先の河川行政を続けています。

既報の通り、この問題を明らかにする住民側の集会が7月16日に愛媛県大洲市で開かれます。シンポ「今なら止められる! 山鳥坂ダム建設と野村ダム改造」 https://yamba-net.org/57838/ をご覧ください。

佐世保市水道の古いダムを改修するために石木ダムが必要という話の虚構

2022年6月5日
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佐世保市水道の古いダムを改修するためにも石木ダムが必要だという話がネット上でも見られるようになりました。

例えば、次のツィッターがそうです。

佐世保市北部のダム現況|星野夕陽|note  https://note.com/choidamnet/n/n81e9ce58978c

「佐世保市北部の水道用ダム、山の田ダム、転石ダム、菰田ダム、相当ダム、川谷ダムが非常に古くて、改修したいけど水に余裕がない、石木ダムが重要だ」という主張です。

しかし、この主張は佐世保市水道の現状を踏まえない誤った主張であって、石木ダム推進の世論を拡げていくために書かれたものです。

そこで、その誤りを指摘しておくことにします。

佐世保市の水道水源を整理した表を下記に示します。

上表において河川慣行水利権と湧水は許可水利権ではないということで、佐世保市は保有水源から除外しています。しかし、これらの水源は渇水時も安定取水が可能であって、実際に2007年度渇水でも許可水利権と同程度の取水がされていました。また、長崎市水道は河川慣行水利権(矢上水源12,000㎥/日)も水源として計上していますので、佐世保市による保有水源からの慣行水利権の除外は恣意的なものです。

上表の数字は取水量ベースなので、給水量と比較するためには利用量率〈1-浄水場ロス率〉を乗じなければなりません。佐世保市は現在の保有水源をなるべく小さくするために、利用量率を90%としていますが、実際は下図の通り、95%以上あります。

なお、下図の通り、佐世保市も2004年度予測では95%を使っていました。

佐世保市の一日最大給水量は下図の通り、減少傾向が続き、2021年度は69901㎥/日になりました。利用量率を実績を踏まえて95%とすれば、取水量ベースで73580㎥/日です(69901÷0.95)。現在の保有水源の計は100500㎥/日ですから、2.5万㎥/日以上の余裕があります。

古いダム(山の田ダム、転石ダム、菰田ダム、相当ダム、川谷ダム)の改修で、ダムの休止が仮に必要であったとしても、保有水源が最大の川谷ダムでも水源量は13300㎥/日ですから、現在の余裕水源の範囲で順次、改修を進めていけばよいのであって、その改修のために石木ダムが必要だというのは、根拠のない話です。

すなわち、佐世保市水道は水需要の減少傾向が続いてきていて、十分な余裕水源を抱えるようになったのですから、その余裕水源の範囲で古いダムの改修を順次進めていけばよいということです。

佐世保市水道の古いダムを改修するために石木ダムが必要という主張は、石木ダム推進の世論を拡げていくためにつくられた話でしかありません。

 

市房ダム、早めに警戒情報 緊急放流に備え避難促す(ダムがあるために下流住民は緊急避難)

2022年5月30日
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熊本県は球磨川上流の県営市房ダムについて、降雨によってダムの貯水容量が半分ほどになった段階で新たに警戒情報を出し、緊急放流せざるを得なくなる事態に備えて、下流域の住民に早めの避難行動を促す運用を6月から始めると発表しました。

2020年7月球磨川水害では市房ダムは緊急放流を行う直前の状態に陥り、下流住民に恐怖を感じさせました。

下流を水害から守るために設置されたはずのダムによって、下流住民はダムからの緊急放流に備えて避難行動をしなければならないのですから、まったくおかしな話です。

ダムがなければ、ダムを前提としない河川改修が行われてきたはずですが、ダムがあるためにそれが行われないため、下流住民は危険にさらされるのです。

ダムを前提とした河川行政に終止符を打つべきです。

市房ダムは球磨川の環境にも大きな影響を与えています。下記の写真は15年以上前の写真ですが、市房ダム下流の球磨川の河床を撮影したものです。市房ダムによって土砂の供給が遮られたため、市房ダム下流の河床は侵食が進んで、軟岩が露出しており、河川環境が悪化しています。

今回の球磨川河川整備計画原案では市房ダムは再開発することになっていますが、緊急放流問題と環境問題から考えて、市房ダムはむしろ撤去を検討すべきものです。

下記の熊本放送の記事に登場する、市房ダム管理所の塚本貴光 所長(当時)が記した当時のメモが熊本県の歴史公文書になっています。

「寸前で回避された緊急放流、緊迫の所長メモが歴史公文書に」https://suigenren.jp/news/2021/07/04/14774/

(読売新聞2021/06/29 08:59)https://www.yomiuri.co.jp/national/20210629-OYT1T50092

なお、現在の市房ダムは貯水容量4020万㎥、発電容量2880万㎥、洪水調節容量630~1830万㎥のダムです。

(静岡新聞2020.12.24)

 

市房ダム、早めに警戒情報 緊急放流に備え避難促す 6月から

(熊本日日新聞  2022年05月24日 18:51) https://kumanichi.com/articles/666726

下流域の住民に注意を促すため、早い段階で警戒情報を出す運用を始める県営市房ダム=24日、水上村

熊本県は24日、球磨川上流の県営市房ダム(水上村)について、降雨によってダムの貯水容量が半分ほどになった段階で新たに警戒情報を出す運用を、6月1日に始めると発表した。2020年7月豪雨の教訓を踏まえ、緊急放流せざるを得なくなる事態に備えて、下流域の住民に早めの避難行動を促したい考えだ。

市房ダムは20年7月4日に発生した豪雨災害で、未明の午前2時10分に「水をためる洪水調節を始めた」と関係市町村などに通知。その後も水位の上昇で満杯に近づいたが、午前6時半に河川からの流入量をそのまま下流に流す緊急放流(異常洪水時防災操作)の予告情報を出すまで、約4時間にわたって新たな情報発信がなかった。

緊急放流は寸前に回避されたものの、予告情報が出た時点で下流の人吉市などでは既に球磨川の氾濫で浸水被害が発生しており、住民から「(さらに水かさが増える)緊急放流に恐怖を感じた」との声が相次いだ。

県によると、新たな運用では20年豪雨と同規模の流入量になった場合、緊急放流の予告情報の約1時間前に警戒情報を出す。県河川課は「河川の水位や土砂災害などの情報と合わせて避難に役立ててほしい」と呼びかけている。

市房ダムは1960年に完成。これまでに梅雨や台風などの大雨に伴い71年、82年、95年の3回、緊急放流をしている。(髙宗亮輔)

 

市房ダム、放流前に早めの発信 熊本豪雨教訓、「貯留能力の半分」も

(西日本新聞2022/5/25 11:30 ) https://www.nishinippon.co.jp/item/n/928626/

熊本県は6月1日から、球磨川上流の県営市房ダム(水上村)の防災情報を拡充し、緊急放流予告に至る前に、避難判断のきっかけにしてもらおうと「貯留能力の半分情報」の発信を新たに始める。2020年の熊本豪雨時は、緊急放流の予告の段階で既に浸水が始まっており、逃げ遅れた人たちが恐怖を感じたことを教訓とした。県によると、全国でも珍しい試み。

市房ダムの防災情報の提供は主に(1)予備放流開始(2)洪水調節開始(3)緊急放流2時間前(4)同1時間前-の4段階。県は「熊本豪雨で避難行動を支援する役割を十分に果たせなかった」との反省を踏まえ、貯留能力の半分に達した時点で住民に伝え、避難の準備や開始の判断材料としてもらう考え。

20年7月4日の豪雨時、市房ダムは午前2時10分に洪水調節開始を通知。緊急放流2時間前通知は午前6時半、1時間前通知は同7時20分だった。同8時45分に緊急放流の「見合わせ」、同10時半に「行わない」と通知。最終的に緊急放流は回避した。

一方、球磨川の氾濫発生情報が出された時刻は、球磨村渡地区で同5時55分、人吉市で同7時50分。先行して支流が氾濫し、地元消防の記録では同6時40分以降、人吉市では「逃げ遅れ」「車両水没」「床上浸水」の119番が増えた。

県河川課によると、市房ダムはこれまでに豪雨や台風で3回緊急放流している。熊本豪雨時に「半分情報」があれば発信は同5時半ごろ。過去99回の洪水の3割が「半分情報」を出す基準に達しているという。 (古川努)

 

早期避難につなげる 熊本県の市房ダムで新たな情報発信 2020年豪雨を教訓に

(RKK熊本放送2022年05月24日18時45分)  https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/rkk/region/rkk-53196

球磨川(くまがわ)の上流にある市房(いちふさ)ダム。2020年7月の豪雨で緊急放流の予告が出された際、川は既に一部で氾濫していました。
そこで、今後住民の早期避難につなげられるよう、今回新たな情報発信の基準が設けられました。
その基準は「貯留能力の半分まで水がたまった」というもので 2020年7月の豪雨で言えば、球磨川が氾濫する30分ほど前のタイミングで出されます。

市房ダム

当時 市房ダムの管理事務所は、氾濫の4時間ほど前、ダムへの水の流入が一気に増えだした時に流域の自治体に通知を出しました。

熊本県市房ダム管理所 塚本 貴光 所長(当時)
「異常洪水時防水操作(緊急放流)に入る可能性がある。時間はまだ未定」

塚本 貴光 所長(当時)

ただ、次の通知は基準がなかったため、球磨川が氾濫した30分後に「緊急放流の予告」というタイミングでした。

緊急放流の通知前に球磨川は氾濫していた

これでは流域住民の早期避難につながらないと、今回ダムを管理する県が新たな基準を設けました。

新基準を設ける

また、当時 球磨川が氾濫した後に「緊急放流」という言葉が出てきたため、恐怖を感じた住民がいたことも基準を設けた背景とされています。
この情報発信は6月から始まります。

 

「皆さんと同じような普通の暮らしをしたい」石木ダム強制測量から40年【長崎・川棚】

2022年5月29日
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石木ダム問題の40年間を振り返った長崎放送のニュース記事を掲載します。

なかなかの力作で、素晴らしい記事だと思います。31枚の写真で経過も知ることができます。

この記事を読んで、事業者に対して心底からの怒りが込み上げてきます。

40年間という本当に長い間、地元の人たちは、必要性が乏しい石木ダム事業によって苦しめられ続けてきました。

無意味な石木ダムは、何としても事業を中止させなければなりません。

 

「皆さんと同じような普通の暮らしをしたい」石木ダム強制測量から40年【長崎・川棚】

(長崎放送2022/5/24(火) 12:41) https://news.yahoo.co.jp/articles/0b9f624e3e295c40d3414b2c2cdd653342f7a681

長崎県川棚町に計画されている石木ダム事業で、40年前に県が行った機動隊を伴う現地測量は反対住民と行政との間に大きな溝を作る結果となりました。

今も続く反対運動の起点ともなった強制測量について振り返ります。

【写真を見る】「皆さんと同じような普通の暮らしをしたい」石木ダム強制測量から40年【長崎・川棚】

(31枚の写真を見ることができます。https://newsdig.tbs.co.jp/articles/gallery/52729?station=nbc )

今年3月、石木ダム建設予定地を訪問した大石 賢吾 知事。 ダム反対派の住民に就任の挨拶するためでした。

大石 知事「ダム建設では皆様に本当に大変な思いをさせてしまっていることに、私も知事として心苦しく思っております」

 

「話し合いをせずに強制執行した」刻まれた県に対する”不信感”

なぜ知事が心苦しく思うのか。

それは住民によるダム反対運動を激化させた要因が県の側にもあるからです。

「強制測量、阻止~」 強制測量が始まったのは1982年5月21日。 その1週間前に知事と話し合いをしたばかりでした。

「帰れ、帰れ」 県はおよそ150人の機動隊員を動員。ダムの測量を目指す県職員はバスの中にいました。

機動隊員「どきなさい、諸君の行為は違法行為だ」 道路に座り込み、行く手を阻む住民。 激しいもみ合いが続きながらも、県の測量班がじわじわとダム予定地に近づきます。 県職員「押していけ、押していけ」 反対住民との話し合いが進まず、業を煮やした県側の強硬策でした。

測量用の杭を打ち込む音「カンカンカンカン」 岩下 和雄さん(当時35)「県の方が自分たちから話し合いを言い出しておいて、話し合いをせずに強制執行してきたわけだから、県の方が話し合いを断ってしまったわけです。私達じゃなくて」 抗議活動に参加した岩下すみ子さんは、当時33歳。佐世保から嫁いで10年目でした。

今も反対派の櫓が残るこの道を歩いて現場に向かいました。

岩下 すみ子 さん「(当時の)写真を見てわかるごと、悲壮感溢れてますよね。何しろ初めてのことでしょ」 機動隊と向き合うのはこの日が初めてでしたが、強気の姿勢は崩しませんでした。 (当時の音声)「私たちを妨害しないでください」

岩下 すみ子 さん「怖かったですよ、みんな。どういうことが起きるんだろうかっていうような恐ろしさがありましたね」

自分たちの住む土地に県職員を入れないためのギリギリの抵抗が ”道路での座り込み” でした。

岩下 すみ子さん「人が途絶えないようにずっと並んでいましたね。排除されても排除されても、またやってくるっていう感じですね。私たちがね」 のべ7日間続いた強制測量。 抜き打ちだったうえ、年寄り・子どもにも容赦のない対応。 行政への不信感は一気に高まり、負の歴史として住民の心に深く刻みこまれました。

岩下 すみ子さん「かわいそうやったですね。子供たちにも小さい時から大変な思いをさせたねと思いますね。今思えばね」

ダム反対を訴える住民の中で最高齢の松本マツさん95歳です。

反対運動の拠点の1つ『団結小屋』に今も通い、ダム反対の意思を示しています。

松本マツさん「みんなは山でも頑張りよらすけん、(私も)頑張らんばねと思って、来れる間ですね。気持ちだけでもしっかりしていかんばねと思って」

40年前の強制測量の際には体を張って闘った松本さん。その時の痛みは今も忘れていません。

松本さん「機動隊って荒かもんね、いっぱい(人が)並んどるとに、踏みつけたごとして通って行きよったですもんね」

団結小屋の窓からは、県が去年からはじめた本体関連工事の現場が見えます。

徐々に削られていく山の姿を見て、怒りがこみ上げてくるといいます。

松本さん「コンクリート塀(堰堤)ばはめるとかねと思って、でもどこさん出ていくですね」

 

「普通の暮らしがしたい」反対活動を続けて40年

岩下さんも毎日、石木ダム関連の工事現場で座り込みを続けています。強制測量から40年、住民らはずっと反対運動を続けているのです。

岩下すみ子さん「私たちも普通の暮らしができてないですもんね、皆さんと同じような普通の暮らしをしたいと思いますね」

ダム予定地内にある住民らの土地・建物は、3年前、県に強制収用されました。

しかし住民らは補償金の受け取りを拒否。立ち退くことなく、そのまま住み続けています。

岩下すみ子「もう強制、強制で権力をかざしたような、こういう事業のあり方っていうのはね、考え直して欲しいですね。考え直す時期が来てると思います」

こうした中、今年、12年ぶりに新しい知事が誕生しました。

就任後、すでに2回、現地を訪れています。

住民「ここからずっとですよ、ホタルだらけ。ホタル川なんです」

大石知事「子供たちにもホタルが思い出ですね」

選挙の際は、石木ダム推進の立場を明らかにしていた大石知事ですが、先月は反対住民とともに水没予定地域を視察しました。

これまでの知事には見られなかった行動だけに、周囲には “戸惑い” とともに “期待感” も広がっています。

大石知事「まずはしっかりと、この地域で川原の皆様方が守られていらっしゃるもの…それをまずしっかりと見て感じてですね。そこを拝見したうえでしっかりとお話し合いをさせていただきたいと思ってますので」

岩下すみ子さん「ここをそんなにまでして強制的に奪ってまでもダムが必要かっていうことですよね。何回も話し合いを続けるとおっしゃったから、それに期待したいと思います」

住民と行政との亀裂を生んだ強制測量から40年を迎えた今年、住民が望む「ダムの必要性」に立ち返っての話し合いが実現するのか。

今後の動向が注目されます。

 

※今回の記事のため、大石 長崎県知事へ取材を申し込みましたが「今は住民との関係を構築している途中の大事な時期なので、今回の取材は遠慮させてほしい」として、考えを個別に聞くことはできませんでした。

治水問題のパンフレット「ダム依存は危ない」

2022年5月25日
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2018年7月の西日本豪雨では、野村ダム・鹿野川ダムの放流が愛媛県・肱川の大氾濫を引き起こし、多くの家々を水没させ、人命をも奪いました。
ダム建設に河川予算を集中し、河川改修を疎かにする歪んだ河川行政が引き起こした大水害でした。

また、2015年9月の鬼怒川水害では上流に巨大ダムが4基もありましたが、その洪水調節効果は下流部では大きく減衰し、大氾濫が起きました。
鬼怒川の氾濫もダム建設ばかりに力を入れ、下流部の無堤防地区を放置し、決壊の危険がある堤防の改善を怠ってきたことによるものです。

このようにダム建設に傾注する現河川行政の危うさを訴えるため、パンフレット「ダム依存は危ない」を八ッ場あしたの会、鬼怒川水害検討会議、水源開発問題全国連絡会の3団体でつくりました.。

パンフレット「ダム依存は危ない」をご覧ください。

A4で4ページの範囲に収める必要がありましたので、進めるべき治水対策は二つに絞って記述しました。
堤防の決壊を防ぐ安価な耐越水堤防工法の普及と、氾濫の危険性のある地域の建築規制・立地規制(滋賀県「流域治水の推進に関する条例」)です。

進めるべき治水対策はほかにもありますが、それらはパンフレットの第二弾で取り上げたいと思います。

活用していただければ幸いです。

追伸 今回のパンフレットは第一弾です。次は都市部の住民にとって身近な問題である内水氾濫問題なども取り上げたパンフレットを作ることを予定しています。

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