水源連:Japan River Keeper Alliance

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9.28 大集会『公共事業を糾す』予告と報告

2023年9月21日
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1:集会概要

予告

高度成長期の重厚長大な土建型の開発が限界を迎えるなか、インフラの老朽化対策は一向に進まず、辺野古新基地建設やダム建設、リニアなど不要不急の大型事業は相変わらずに続いています。政官財利権と結びつく構造は不変であり、特に最近は、人権侵害も顧みず問答無用な独裁政治で強行する姿勢が顕著になっています。

公共事業改革市民会議では、人権無視で強行する事業の暴走をストップさせ、「公共事業」を本来あるべき姿に変えていくため、院内大集会を企画しました。

ZOOM配信も致します。下のチラシ右下のQRコードを読み取ってお入りください。

 

報告

集会参加者は130名(会場:80名、ZOOM50名)でした。
日本環境会議理事長の寺西俊一先生のご講演、各地の報告を行い、ご参加頂いた4名の国会議員からのメッセージなどと合わせて総括し、集会宣言という形で採択しました。
本集会では、不要不急の公共事業が今なお続き、人権侵害を顧みずに強行される事態に対して、強い警笛を鳴らしました。コモンの復権が急務であることを確認し、「公共事業チェック議員の会」再始動への強い期待を確認しました。

2:水源連関係からの2つの報告(予告と報告)

水源連関係事業は、石木ダム問題と川辺川ダム問題の2つが、各々10分間枠で報告されます。

  • 石木ダム建設事業

長崎県が「地元の了解なしではダムは造らない」と覚書きを交わした上で予備調査を開始した1972年からこれまでの51年、地元住民を苦しめ続けている石木ダム。土地収用法を適用した長崎県・佐世保市によって、13世帯約50人が地権を奪われ、明渡しを拒否して生活を継続、「覚書を守れ、(石木ダムの必要性についてゼロからの)話合いに応じよ」と現地工事現場での抗議・要請行動に明け暮れています。
9/28の集会で現地から駆けつけて報告するつもりでしたが、起業者による工事強行が厳しさを増し、現場を離れることが出来ない状況になっているため、現地からのZOOM参加となります。
皆様には現地報告から、この厳しい状況を実感され、起業者側への抗議・要請をなされるよう、期待いたします。

要請先:皆様への呼びかけ・お願い

石木ダム問題については、下記pdf版とホームページをご覧ください。

  • 川辺川ダム建設事業

「2020年の球磨川流域豪雨災害から河川法の根本的問題を問う」より

川辺川ダムがあれば : 作り話でしか正当化できない川辺川ダム建設
マスコミは豪雨災害発生の翌日から「川辺川ダムがあれば」の大宣伝を始めた。そして国と県は検証と称して、川辺川ダム建設に必要な事象づくりに取り組んだ。これが治水の専門家集団のやることかと思うような作り話をヘドロだらけで復旧に取り組んでいる住民に向けて繰り返し垂れ流した。その典型が「川辺川ダムがあれば人吉市街地の氾濫は6 割カット出来た」とか、「流水型ダムで命も清流も守れる」とか、「川辺川ダムで本流の水位をさげれば支流の氾濫は防ぐことが出来た」という作り話である。

 9月28日の集会では、2020年7月球磨川大氾濫を「待ってました!」とばかりに「川辺川ダム必要」を連呼し続けている熊本県と国土交通省のゴマカシを徹底的に暴き、現在のダム治水では気候変動に伴う線状降水帯停滞に伴う集中豪雨には対応できない、と警鐘を鳴らします。

川辺川ダム問題については、下記pdf版とホームページをご覧ください。

3:集会全容(報告)

石木ダム共有地権者、起業者(長崎県と佐世保市)に『覚書』履行を再要請

6月30日、石木ダム共有地権者は起業者(長崎県と佐世保市)に『覚書』履行を再要請しました。 上記に関して、石木川まもり隊のブログに掲載されている「共有地権者、県と佐世保市へ再要請」から引用しながら、報告いたします。

6月6日長崎県知事宛て要請と、6月7日佐世保市長宛要請 に対する双方の回答

  • 長崎県からの回答(6月22日付)20230622 長崎県回答

    覚書は重要と認識しているので理解を得る努力は今後も続けるが、事業の必要性について議論する段階ではない。いずれの方とも議論に応じることはできない

  • 佐世保市からの回答(6月16日付)20230616 佐世保市回答

    覚書や石木ダム不要についての話し合いは致しかねる。

回答対応⇒再要請

あなた方との意見交換はしませんよとの意思表示。門前払いです。佐世保市に至っては、覚書についての見解も示さず、地元の方への対応をどう考えているかも触れず、全く中身のない回答でした。 こんな回答では、「そうですか。わかりました」と言うわけにはいかないですよね~ということで、この日、大石知事と宮島市長あての要請書を再度提出することになりました。 長崎県知事と佐世保市長へへの下記再要請書を6月30日にそれぞれの担当者に手渡しました。

後日、上記質問に欠落していた重要なテーマを、それぞれに追加質問と要請として7月5日に送付しました。

石木ダム共有地権者、起業者(長崎県と佐世保市)に『覚書』履行を要請

2023年6月6~7日、「石木ダム建設絶対反対同盟を支援する会」(共有地権者の会)は、「石木ダム建設現場において、起業者が強制収用地に立ち入って工事を進めているが、その行為は1972年に地元の皆さんと知事が締結した覚書第4条違反であるから、強制収用地に立ち入るときは事前に被収用者と協議すること」を、長崎県と佐世保市に要請しました。起業者に対しては、要請書への回答期限を6月20日と通告しています。

この件につきましては、石木ダム共有地権者、長崎県と佐世保市に『覚書』履行を要請 : 石木川まもり隊 (ishikigawa.jp) に詳しく報告されています。
以下、 石木川まもり隊 のご協力を得て、転載いたします。

石木ダム共有地権者、長崎県と佐世保市に『覚書』履行を要請

あまり知られていないが、石木ダム建設予定地には共有地が2ヶ所存在する。
半世紀にわたりダム建設に反対し、ふるさとを守り続けている川原住民を支えたいと思う人たちが、1つは2009年に、もう1つは2013年に住民の方の山林の一部を共同で所有することにした。

その共有地権者の中の84名が長崎県知事と佐世保市長へ要請書を提出した。代表の遠藤保男氏が横浜から来県し、6月6日に県庁、7日に佐世保市役所を訪れ、担当者に手渡した。その要請書はこちら。
石木ダム事業起業者への要請:長崎県へ
石木ダム事業起業者への要請:佐世保市へ

その趣旨は「覚書の遵守」、つまり「石木ダムの必要性について川原住民との話し合い」を実行するようにということ。

8日の朝日新聞の記事がこの要請の目的をしっかり伝えているので、一部抜粋させていただくと、

覚書は1972年7月、県が石木ダムの予備調査を始める前に住民側と結んだ。「建設の必要性が生じたときは、協議の上、書面による同意を受けた後着手するものとする」と明記。久保勘一知事(当時)と、住民の代表3人が署名押印した。ただ、県は3年後の75年、事業に着手。2021年9月に本体工事を始めた。 

6日に県庁を訪れた共有地権者らが県に指摘したのが、この覚書の「不履行」だった。

「石木ダム建設絶対反対同盟を支援する会」の遠藤保男代表は「同意していないのに収用地での工事が強行されている」と指摘。地権者の松本美智恵さんは「県と地元の対立の原点がこの覚書の反故だ」と語った。 

覚書は、住民らがダム関連工事の差し止めを求めた訴訟で論点の一つになったことがある。21年の二審・福岡高裁判決は、覚書があるにもかかわらず、地元の理解が得られていないと指摘。「今後も理解を得るよう努力することが求められる」と見解を示し、県に合意形成の必要性を説いた。 

事業主体の県はどう考えているのか。県土木部の担当者は取材に対し「覚書は今も有効で、履行している」と述べ、覚書に違反する手続きはとっていないとの認識を示した。長年、説明会の開催や戸別訪問などで事業への理解と協力を得る努力を続けてきたとしている。 

 「覚書は今も有効で、履行している」?!

なんと不可解な回答だろう。

「覚書を履行している」のが本当なら、住民がダム建設に同意した文書が存在するはずで、それを提示して欲しい。

それが存在しないならダム建設は諦めているはず。しかし、現実は同意文書もなく、ダム建設は進めている。

どうして「履行している」などと言えるのだろう?

一方、「覚書は今も有効」とのこと。よかった!

では、これからも覚書について、私たちはしっかり県に問い続け、履行を求め続けよう。(*’▽’*)

マスコミ各社のオンライン記事はこちら。

NBC長崎放送:石木ダム建設反対の市民団体 知事との話し合いを要請
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/nbc/530101?display=1

KTNテレビ長崎:石木ダム建設は必要ない」市民団体が話し合いの場を要請
https://www.ktn.co.jp/news/detail.php?id=20230607008

朝日新聞:石木ダム「地元の了解なしにつくらない」半世紀前の「覚書」はいま https://digital.asahi.com/articles/ASR6774P6R67TOLB00C.html?iref=pc_photo_gallery_bottom

毎日新聞:「知事と話し合う場を」石木ダム反対、市民団体が要請書 https://mainichi.jp/articles/20230607/ddl/k42/040/379000c

オマケの写真と呟き。ここは水道局庁舎内。要請のための会場確保を待っているところ。

1週間前に代表本人から要請書を提出に行くので会場を確保しておいて欲しいと電話で依頼していたにもかかわらず、会議室はみな埋まっていて確保できなかったとのことで、その会議が終わるまで約1時間も待たされた。

遠来の代表はじめ参加者の多くが70代前後の高齢者ばかり。宮島市長は就任会見で、「対話を重視した市政をつくりたい」と語っていたはずだが???

投稿:サンルダムをめぐる問題について 

2023年4月6日
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投稿者

前川光司 北海道大学名誉教授・元天塩川流域委員
出羽 寛 旭川大学名誉教授・元天塩川流域委員

本文

北海道天塩川水系の支流サンル川のサンルダム建設計画は、天塩川流域委員会で治水対策と自然環境保全対策を巡る20回(2003年〜2006年)にわたる議論をが続けられた。

私たちは天塩川流域委員会に参加、ダムによらない治水対策の可能性とサクラマスやカワシンジュガイ等のサンル川の自然の保全について主張し続けた。

しかし、流域委員会は2006年12月に治水対策に基本的問題を残したまま流域委員会の多数意見としてダム建設を容認、2013年に本体基礎工事が始まり、2018年にサンルダムは完成、試験湛水を経て、2019年から本格運用が始まった。

流域委員会終了後の2007年に北海道開発局旭川建設部は「天塩川魚類生息環境に関する専門家会議(以下専門家会議)」を設置し現在まで続いている。この委員会は、天塩川のサクラマス、カワシンジュガイ等水生生物の保全対策およびサンルダムに設置された高さ40m、長さ400mの階段式魚道と7kmのバイパス水路がサクラマスの遡上、スモルト(サクラマス幼魚)の降下に十分に機能するかどうかについて継続して調査、検討が現在までが行われてきた。

私たちはダムの本格運用が始まった2009年以来、旭川開発建設部と専門家会議に対して、サクラマス、カワシンジュガイ資源の保全と魚道の機能について質問状の提出と回答のやりとりを行ってきた。

以下の文章はこの間の経過について、北海道新聞夕刊文化欄に3回に分けて(2022年12月10日、12月17日、12月24日)に寄稿した「サンルダムとサ クラマス」の原稿です。新聞記事とは一部違い、写真も多く使っています。

出羽 寛 記

        「サンルダムとサクラマス」

(上)建設の経過

近年、洪水氾濫が多発し、市民生活に大きな被害をもたらしている。その対策として造られた大型ダムは洪水氾濫に一定の効果を持っているが、川の生き物、特に川と海を行き来する魚類に大きなダメージを与える。こうしたことからダムを見直そうという動きも進んでいる。

例えば米国では、市民や研究者の意見を取り入れて、2006年から2014年まで、年ごとに数を増やしながら1000を超えるダムが撤去された(A・クィーン著「太平洋サケ・マスの生態と行動(二版)」2018年)。一方、日本ではダム建設が白紙撤回されていた熊本県・球磨川支流の川辺川で、再びダム建設(穴あき)の方向で見直すという。2020年の大きな水害があったことを踏まえての見直しであるにしても、専門家や住民の意見を取り入れた慎重な議論が必要ではないか。

北海道でも、再論議が必要だと私たちが考えるダムの一つが、上川管内下川町の山峡に位置するサンルダムである。

天塩川水系の中でも際立って自然が豊かなサンル川に建設されたこの多目的ダムは、完成して5年がたち、元の自然は様変わりした(写真)。水の中の枯死した河畔林は異様な姿になった。さらに回遊魚サクラマスの、サンルダム上流への遡上数が減っているようなのだ。私たちがもっとも危惧していたことだ。

サンルダムは1987年に計画され(天塩川水系工事実施基本計画)、88年に建設を前提とした調査に入った。生物の保全や生態学を専門とする私たち二人は、97年施行の改正河川法で設置が義務化された開発局の天塩川流域委員会(2003~06年)に参加した。この法律は洪水や利水対策のほか、旧河川法にはなかった生物と環境の保全や流域委員会などの住民参加が盛り込まれていた。何より洪水・利水対策と環境保全が「対等」に位置付けられたことで、一歩進んだ側面を持っていた、と思う。全国的にみれば、同じころ粘り強い議論の末に住民や専門家の意見が大幅に取り入れられた例も見られていた。

私たちは、主に二つの理由でサンル川でのダム建設は慎重であるべきだと問い続けた。①自然が残されているサンル川の場合、ダムではなく、堤防の整備や河道掘削等の河川改修と遊水池によって治水を考えるべきではないか、②サンル川にすむサクラマスやアメマスと、彼らに寄生する絶滅危惧種カワシンジュガイ類を守るのに、魚道で十分なのか。この2点であった。

サンル川の豊かな自然が守られてきたのは、天塩川の他の支流とは異なり、ダムをはじめとする河川工作物がほとんどないからだ。さらに、魚道に疑問を呈したのは、北海道で、大型ダムに作られた回遊魚遡上のための魚道が、どれも有効に働いていないことが分かっていたからであった。魚道は、場合によっては万全ではないのだ。

委員会では4年間にわたって計20回、粘り強い議論が行われた。それでも不十分だと私たちは主張し続けた。しかし、治水対策に基本的な問題を残したまま(注1)06年12月に流域委員会の多数意見として、条件をつけてダム建設を容認するに至った。その条件とは、魚道が本当に有効なのか、その目途が立つまではサクラマス親魚とスモルトがそれぞれ遡上と降下ができる流路(河道)を維持することであった。 その後、公共事業の見直しを目玉政策に掲げた民主党政権下でサンルダムも見直し対象になるなど紆余曲折を経て、13年にダム建設工事が始まった。

 

注1: 治水対策については、開発局の資料からダム建設以外の河川改修によって、天塩川流域の氾濫面積は昭和から平成になって大きく減少していた。このことをベースに、筆者の一人出羽は、堤防整備や河道掘削、遊水池によって流域委員会の治水対策の目的である洪水時の目標流量を安全に流す具体的な方策を提案した。今後も検証が必要。

写真1 サンルダム 堤高46m、堤長350m、総貯水容量57,200,000㎡、洪水調節容量35,000,000㎡


写真2 河畔林が水没、枯死、無惨な光景になった湛水域


写真3 高さ約30m、126段のヘアピン状の階段式魚道

写真4 バイパス水路(7kmの魚道)左側は湛水域、右は管理用道路
開発局はサクラマス、スモルトがム湖を通らず全て魚道で遡上、降下する計画をたてたがダム湖への迷入が生じている。

(中)魚道の有効性

開発局は流域委員会設置前から、サンル川上流部を含む天塩川上流部のサクラマス産卵床数(回帰数・遡上数が推定できる)とカワシンジュガイ類の分布調査を行っていた(注1)。委員会終了後も「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議」を立ち上げ、調査を継続するとともに、ダム建設後は魚道を通過するサクラマスなどを、ビデオカメラを使って数えるなど、その有効性調査を進めている(注2)。

この調査では、サクラマスが魚道を利用して上流に移動し、産卵していることが確認された。このことから魚道が「機能」しているとして18年、ダム本体の試験湛水が始まった。

この間、私たちは直接的あるいは間接的に魚道が十分機能を発揮機能するまでは、遡上、降下のための流路を開けておくべきだと言ってきた。サンル川の自然の保全と治水の両方を目指すダム建設で、魚道が機能しないうちに流路を閉じてダムを「完成」させれば、サンル川の自然にダメージを与える可能性があると考えたからだ。しかし、サクラマスが魚道を利用して上流に移動し、産卵していることが確認されたことから、開発局は、魚道が「機能」し「有効」であるとして、18年、ダム本体を完成させ湛水が始まった。

前川は1976年、サンル川の魚類相調査をしたことがある。下川町史編纂の資料つくりとして、上川管内下川町からの依頼であった。今思えば、ダム建設計画が関係していたのかもしれない。それはともかく、再びサンル川に入ったのは、約20年後。名寄市史資料を得るためであった。幸運にもサンル川は76年当時と変わらす、ヤマメ(サクラマスの子)が際立って多い川であった。

ほぼ手つかずのこの川で、絶滅危惧種カワシンジュガイが多いのも、サクラマスが多いことの反映だった。だから、サンル川の生態系や生物多様性はサクラマスを核として成り立っていると考えられる(注1)。こうして、サクラマス(アメマスも)資源を建設前の状態近くに保全することが、サクラマスそのものとサンル川流域の生物多様性の維持に必要だと、私たちは主張したのであった。

ダム建設を進める前提として、サクラマスやアメマスなどの魚類資源を守るために造った魚道が有効かどうかを評価することが不可欠であったことは前回述べたとおりだ。この魚道は今までに見たこともないほど巨大なのだ。ダム堤体を避け、落差約30mの急斜面をヘアピン状に造られた階段式魚道が走り、その上流に続く人工(バイパス)水路が7キロメートル先でサンル川上流につながっているのだ。バイパス水路との合流点にはスモルト(降海期の未成魚)をバイパス水路へ誘導し、ダム湖への迷入を防ぐ分水施設もある。

この魚道による開発局の調査によって、サクラマスは階段式魚道とバイパス水路を超えて産卵場所のある上流にまで達し、産卵したこと、さらにバイパス水路を使ってスモルトも降下したことが確かめられた。開発局はこれをもって、魚道が「機能」していると判断したと推察される。しかし、ダム直下まで上がってきたサクラマスが魚道を溯上できた割合、上流のスモルトがダムを降下できた割合を、調査・分析しなければ魚道が有効に機能したとは判断できないのではないか。

注1: サクラマス(ヤマメ)=写真=およびアメマスは、ともに遡河回遊魚。サクラマス(環境省準絶滅危惧種)は日本列島および極東地方に分布する。降海期の稚魚をスモルト(銀毛)と呼ぶ。海で1年過ごしたのち、春に川へ遡上する。生まれた川への回帰率は高いとされる(母川回帰)。オスのうち、成長の良い個体は降海せず、河川に残留し成熟する(ヤマメ)。サンル川に多数生息する環境省絶滅危惧種カワシンジュガイ2種(カワシンジュガイとコガタカワシンジュガイ)は、それぞれサクラマスとアメマスに寄生する。この魚が減少すれば、カワシンジュガイ類も減少する。

注2: 専門家会議の他にモニタリング委員会を置いて、ダムによる自然環境の変化などを調査(モニタリング=環境への影響調査全般、動植物への影響などの分析)をおこなっている。モニタリング部会の任期は5年、主に陸上生物が対象になっている。


写真5 サクラマス親魚(左オス、右メス)    撮影 山田直佳さん

写真5 幼魚(ヤマメ) 撮影 山田直佳さん

(下)今後の方向

私たちは、ダム建設開始前後から、サンル川の魚道の機能とその有効性とはサクラマスの上流域への遡上数をダム建設以前の数を維持することであると言い続けた。このことが、サンル川の豊かな自然を守るために第一義的に必要なことと考えるからだ。もし魚道(階段式魚道とバイパス水路)によるサクラマス親魚遡上に障害が起きれば、上流部の産卵数が加速度的に減少し、結果としてヤマメ、カワシンジュガイ類や他生物の生息に影響を与えてしまう。実際、サンル川の調査から、上流へのサクラマス遡上数が増えれば翌年には稚魚の数も増えるし、その逆も起こることが分かっている(「2021年度天塩川魚類生息環境に関する専門家会議年次報告」より)。さらにスモルトの降下障害が起きれば、翌年戻ってくる親魚の回帰数にも影響するかもしれない。けれども、受け取った8度の回答に、天塩川本流の他の魚道のない支流の改善策についての説明はあるが(注1)、サンル川の魚道の機能の有効性を判断するのに必要な、サクラマス遡上の成功や失敗の割合に対する言及はない。またスモルトが湛水湖へ迷入することもわかっているものの、バイパスを通過するスモルトの降下成功率など、具体的な調査・解析はない。

とりわけ気になるのは、2018年のダム建設直後、サンル川産卵床数は一度大きく増加した後、3年続けて減少し、直近の2021年には2007年以降の記録上、最少近くまで減少していることだ(グラフ)。ダムと魚道の影響(遡上と降下障害)が心配されるけれど、減少した原因を特定することは、今のところできない。

サンルダム魚道に遡上障害を示す間接的証拠がある。ダム提体直下の支流である一の沢川の産卵床数の割合が、ダムがなかった時と比べて増えていることである(表)。例えばピリカダム(後尻別川 桧山管内)で、サクラマスが階段式魚道とバイパス水路を上らず、その直下で産卵するサクラマスが多く見られたように、サンル川でも帰ってきたサクラマスが、魚道を上れないか、魚道の入り口を見つけられず、「仕方なく」一の沢川と提体下流で産卵した個体が増えたと考えるのが、今のところ最も合理的なようである。

魚道の遡上障害が強く疑われるにもかかわらす、詳しい調査・分析はなく、魚道は「機能」しており「有効}であるとされた。魚道の機能に不備があれば「順応的管理」のもとに対応するという。順応的管理とは、目標を設定し、計画がその目標を達成しているかをモニタリングにより検証しながら、その結果に合わせて、合意形成に基づいて柔軟に対応して行く手段である。

問題なのは、魚道に対して明確な目標がないことだ(注2)。目標がなければ有効性の科学的な検証や手法の改善など順応的な対応ができないだろう。せっかくの長期調査が台無しになってしまうし、ダムの遡上障害に対する検証がないのも、この目標がないことが原因の一つになっていると思う。サンルダム魚道は、その規模・予算を含めてたいへん意欲的ではあるけれども、まだ実験の途上であり、結論を導くのは早すぎると私たちは考える。

サンル川のサクラマス資源と生物多様性を保全するにはどうすればよいか。繰り返しになるが、サクラマス(ヤマメ)、カワシンジュガイの生息状況をダム建設以前の状態に維持することを目標に調査を継続し、科学的に分析しながら、その目標に向けて努力することが必要ではないか。「サンルダム完成」とはこの目標が達成したと考えられる時であろう。

今後、サンルダムの見直しが必要な場合や、自然豊かな北海道の川の、治水のあり方や方向について検討する際、魚道を含むサンルダム建設の経緯や問題点が役立つような事後評価が行われることを期待したい。そのためにもより広く研究者や地元住民の意見や希望を取り入れながら、このダムと魚道が検証されることが望まれる。私たち二人も、しばらくは注視したいと思う。

 

注1:   開発局はサンル川以外の天塩川の支流に造られた治山ダムに魚道の設置を進めており、設置後サクラマスの天塩川上流へのサクラマス遡上数は増加しつつある。今後の維持・管理が期待される。

注2: 開発局はダム(魚道)の環境への影響を「最小限」にすると言ってきた(平成20年度年次報告中間とりまとめ)。しかし、どこまでを最小とするかが不明であり、「最小」の影響で自然がどの程度守られるのかもわかっていない。

グラフ サンル川の産卵床数の経年変化
2017年は9月の増水などにより過少に評価されている。ダム完成の18年に多かった理由の一つは日本海側サクラマス資源が増えてことが挙げられる(長谷川ら、水産学会誌、22年度)。その後3年間続けて減少しているが、「年次報告書」によるとサンル川以外の支流では増加傾向にあることから、減少要因としてダムや魚道による直接的、間接的影響が疑われる。

      表 サンルダム上流・下流と一の沢川の産卵床数の割合
ダム設置後、一の沢川の産卵床数の割合が増加しており、魚道を上がれない、見つけられないといった俎上阻害が考えられる。

熊本県白川・立野ダムの試験湛水、11月以降実施方針 国交省

2023年2月11日
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残念な情報ですが、熊本県民がダム建設反対運動を進めていた熊本県の白川の立野(たての)ダムの工事が進み、試験湛水の時期を11月以降とする方針となりました。その記事、ニュースと関連情報をお送りします。

立野ダムは流水型ダムとして造られつつありますが、立野ダム工事事務所の立野ダム本体工事進捗状況の写真(下記【参考1】)をみると、流水型ダムといっても、「自然に優しい」という話はまゆつばものであることがよくわかります。

立野ダムは見直しの対象でしたが、2012年12月に継続が決まりました(下記【参考2】を参照)。その後、事業費が増額され、1270億円になりました(下記【参考3】を参照)。

立野ダムの諸元は下記【参考4】の通りです

この立野ダムに対して、熊本県民の反対運動が展開されましたが(下記【参考5】を参照)、まことに残念ながら、2023年度完成の予定となりました。

 

立野ダム試験湛水、11月以降実施方針 国交省

(熊本日日新聞  2023年2月9日 10:23)https://kumanichi.com/articles/942343

国土交通省が立野ダムの試験湛水計画について説明した「立野ダム試験湛水検討委員会」の初会合=8日、熊本市中央区

国土交通省九州地方整備局は8日、2023年度の完成に向けて建設中の国営立野ダム(南阿蘇村、大津町)に関し、試験湛水[たんすい]の時期を11月以降とする方針を明らかにした。同日、熊本市中央区のホテルであった「立野ダム試験湛水検討委員会」の初会合で示した。

試験湛水は、最高水位まで水をため、ダム本体や基礎地盤、貯水池周辺の安全性などを確認するダム建設の最終工程。立野ダムは通常時は水をためない「穴あきダム」のため、穴をふさいで水位を上げ、最高水位に達した後に放流する。

試験湛水で国の天然記念物「阿蘇北向谷原始林」の一部が冠水するとの予測があり、整備局は水位の下降速度をできるだけ上げて、原始林への影響を減らす考えを説明した。11月1日にため始めれば水位を元に下げるまでの日数が最長で20日程度となるシミュレーションも示し、試験湛水が可能な期間の中では最も短くなるとした。

検討委はダム工学や河川工学、生物の専門家6人で構成し、国の計画に助言する。8日は京都大防災研究所水資源環境研究センターの角哲也教授を委員長に選出。角氏は「阿蘇、白川の特性を吟味して試験湛水に臨みたい」と述べた。(臼杵大介)

 

立野ダム試験湛水検討委員会が初会合 国が計画案示す【熊本】

(テレビ熊本2023年2月8日 水曜 午後9:00)https://www.fnn.jp/articles/-/483405

白川上流に現在、建設中の国が直轄する初の流水型ダムである立野ダムについて運用開始を前に試験的に水を貯める『試験湛水』の検討委員会の初会合が8日、熊本市で開かれました。

建設中の立野ダムは、ことし4月にはダム本体の設置が完了する予定です。

運用開始を前に試験的に水を貯める、いわゆる『試験湛水』は貯水時のダムや周辺の安全性などを調べるために行われますが、一方、水位が上がることで群生する植物などへの影響が懸念されます。

検討委員会で国土交通省は環境への影響を配慮し、「可能な限り『試験湛水』の期間を短縮したい」と話し、過去20年間のシミュレーションによる計画案を示しました。

案では11月1日から実施した場合、湛水日数は平均14日で最長でも20日と期間も短く、ばらつきも少ないとし、群生する植物も8割から9割の成育が維持されるとしています。

委員からは「植物への影響はしっかりと調査しデータを取ってほしい」「国交省が示した樹木への影響のデータは根拠が弱い。今後のためにもデータの収集が必要」などの意見が挙がりました。

今回の意見を踏まえて再度協議し、11月ごろには『試験湛水』を行う予定です。

 

 

【参考1】立野ダム工事事務所 国土交通省 九州地方整備局 http://www.qsr.mlit.go.jp/tateno/site_files/file/dam/2302_dasetu_sinntyokujyokyo.pdf

【参考2】立野ダム本体工事可能に 国交相、事業継続決定(熊本日日新聞2012年12月07日)http://kumanichi.com/news/local/main/20121207002.shtml

羽田雄一郎国土交通相は6日、民主政権のダム事業見直し対象になっていた立野ダム建設事業(南阿蘇村、大津町)について、事業主体の同省九州地方整備局(九地整)が「ダム案が最も有利」とした検証結果を妥当として、事業の継続を決定した。

同ダム建設を容認した国交相の最終判断を受け、同事業は、約2年間凍結されていた本体工事の着手が可能になる。

同ダムをめぐっては、九地整が河道掘削や遊水地など治水策の代替5案をコスト、安全度などで評価・比較し、「ダム案が最も有利」とする検討結果をことし9月に提示。

外部の事業評価監視委員会も、流域7市町村の意向や「ダム案に異存はない」とした蒲島郁夫知事の意見を踏まえ、九地整の「継続」方針を了承していた。

国交相は、国の有識者会議の意見も参考にした上で、「総合評価でダム案が優位であり、事業継続は妥当。検証手続きも国の基準に沿って適切だった」と結論づけた。

同ダム事業には、環境への影響などから見直しを求める意見も強く、九地整が「ダム案が有利」とする検討結果を示した地元公聴会でも、市民団体などから反対、疑問の声が相次いだ。

立野ダムは白川に建設する洪水調整専用の穴あきダムで、1983年に事業着手。総事業費917億円で、残事業は491億円。(渡辺哲也)

 

【参考3】事業費の増額 2022年6月

【参考4】立野ダムの諸元

【参考5】立野ダム容認に抗議文 https://suigenren.jp/news/2012/12/19/3541/

2012年12月18日、「立野ダムによらない自然と生活を守る会」が国交省の「立野ダム事業継続発表」に対して、国交省と熊本県・熊本市へ抗議文を提出しました。

抗議文など国交省記者クラブに配付した資料「国交省記者会配布書類」をご覧ください。 https://suigenren.jp/wp-content/uploads/2012/12/b6e65638486be16d4c77baa07ef444911.pdf

「白川流域の安全を守るために立野ダムより 河川改修を進めましょう」

「世界の阿蘇に立野ダムはいりません!」

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