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「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」の報告

2月4日に「八ツ場あしたの会」の総会があり、嶋津の方から「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」を報告しました。

報告の要点を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

当日使ったスライドは八ツ場ダム問題と全国のダム問題20230204 -4をご覧ください。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」は次の5点で構成されています。

Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること

Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。

Ⅲ 水道等の需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。

Ⅳ ダム問題の経過

Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし

 

八ツ場ダム問題と全国のダム問題

Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること(スライド№2~5)

1 吾妻渓谷の変貌(スライド№3)

2 八ツ場ダム湖の浮遊性藻類の増殖による水質悪化(スライド№3)

3 夏期には貯水位が大きく下がり、観光地としての魅力が乏しくなる八ツ場ダム湖(スライド№4)

写真1 国交省のフォトモンタージュ(打越代替地から見た八ツ場ダム湖)

写真2 2022年7月の八ツ場ダム貯水池の横壁地区の岸壁(湖岸の岩肌が28m以上も剥き出し)

4 八ツ場ダムは堆砂が急速に進行し、長野原町中心部で氾濫の危険性をつくり出す。(スライド№5)

5 ダム湖周辺での地すべり発生の危険性(スライド№5)

 

Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。(スライド№6~19)

1 八ツ場ダムの緊急放流の危険性(スライド№7~8)

2019年10月の台風19号で、八ツ場ダムが本格運用されていれば、緊急放流を行う事態になっていました。

2 ダムの緊急放流の恐さ(スライド№9~13)

ダムは計画を超えた洪水に対しては洪水調節機能を喪失し、流入洪水をそのまま放流します(緊急放流)。

ダム下流の河道はダムの洪水調節効果を前提とした流下能力しか確保しない計画になっているので、ダムが洪水調節機能を失えば、氾濫の危険性が高まります。

しかも、ダムは洪水調節機能を失うと、放流量を急激に増やすため、ダム下流の住民に対して避難する時間をも奪ってしまいます。

3 ダムの効果が小さかった2015年9月の鬼怒川水害(スライド№14~18)

4 治水対策としての八ツ場ダムの問題点(スライド№19)

ダムの治水効果は下流へ行くほど、減衰していくので、八ツ場ダムの治水効果は利根川の中下流部ではかなり減衰すると考えられ、八ツ場ダムは利根川の治水対策としてほとんど意味を持ちません。

地球温暖化に伴って短時間強雨の頻度が増す中、八ツ場ダムに近い距離にあるダム下流の吾妻川では、むしろ、八ツ場ダムの緊急放流による氾濫を恐れなければなりません。

 

Ⅲ 水道等の水需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。(スライド№20~25)

1 八ツ場ダムの利水予定者と参画量(スライド№21)

2 水道用水の需要は縮小の一途(スライド№22~23)

全国の水道の水需要は2000年代になってからは確実な減少傾向となり、その傾向は今後も続いていきます。(減少要因:人口減、節水機器の普及、漏水の減少等)

3 群馬県の例「前橋市等の自己水源(地下水)の削減と水道料金の値上げ」(スライド№24)

4 石木ダム建設の主目的「佐世保市水道の水源確保」の虚構(スライド№25)

 

Ⅳ ダム問題の経過(スライド№26~45)

1 ダムの建設基数の経過(スライド№27)

2 ダム事業見直しの経過(スライド№28~33)

○1996年からダム事業が徐々に中止

○田中康夫・長野県知事の脱ダム宣言

○淀川水系流域委員会の提言(2005年1月)

3 2009年9月からのダム見直しの結(スライド№34~39)

2009年9月に発足した民主党政権は早速、ダム見直しを明言したものの、私たちの期待を裏切る結果になりました。

4 八ツ場ダムの検証結果 事業継続  2011年12月 (スライド№40~41)

八ツ場ダム事業推進の真の目的は約6500億円という超巨額の公費を投入することにあった。

5 ダムの検証状況 (2018年10月1日現在)(スライド№42~44)

中止ダムのほとんどはダム事業者の意向によって中止になったのであって、適切な検証が行われた結果によるものではありませんでした。

6 中止になったダムの建設再開を求める動き(スライド№45)

 

Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし(スライド№46~54)

1 国交省の「流域治水の推進」のまやかし(スライド№47)

流域治水には治水対策としてありうるものがほとんど盛り込まれています。治水ダムの建設・再生、遊水地整備もしっかり入っており、「流域の推進」が従前のダム事業推進の隠れ蓑にもなっています。球磨川がその典型例です。

2 球磨川流域治水プロジェクト(スライド№48~49)

本プロジェクトは流水型ダム(川辺川ダム)の整備、市房ダム再開発、遊水池整備などに、約4336億円という凄まじい超巨額の公費を球磨川に投じていくことになっています。

また、川辺川ダムはすでに約2200億円の事業費が使われていますので、現段階の川辺川ダムの総事業費は約4900億円にもなる見通しです。

このように、球磨川では2020年7月大水害への対応が必要ということで、球磨川流域治水プロジェクトの名のもとに、凄まじい規模の公費が投じられようとしています。

3 流水型川辺川ダムへの疑問(1)2020年7月球磨川豪雨の再来に対応できない川辺川ダム(スライド№50~51)

川辺川ダムがあっても、2020年7月球磨川水害の死者を救うことができませんでした。球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、支流の氾濫によるものでしたから、川辺川ダムがあっても命を守ることができませんでした。

4 流水型川辺川ダムへの疑問(2)自然に優しくない流水型川辺川ダム(スライド№52~54)

「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されています。既設の流水型ダム5基の実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっています。

 

5 国の流域治水関連法と流域治水プロジェクト(スライド№55)

国交省は2021年5月に「流域治水関連法」をつくり、全国の河川で「流域治水プロジェクト」を進めつつあります。このプロジェクトは施策がとにかく盛沢山で、ダム建設、遊水池整備、霞堤の保全、堤防整備、雨水貯留施設の整備など、治水に関して考えられるものは何でも入っているというもので、実際にどこまで実現性があり、有効に機能するものであるかは分かりません。それは、基本的には従前の河川・ダム事業を「流域治水プロジェクト」の名のもとに続け、河川予算を獲得していくものであって、そこには「脱ダム」の精神が見られません。

その典型例が「球磨川流域治水プロジェクト」です。このプロジェクトは流水型川辺川ダムの建設等に球磨川に超巨額の公費を投入することを目的にしています。そのプロジェクトで流域の人々の安全が確保されるかというと、実際はそうではなく、更に球磨川の自然も大きな影響を受けるものになっています。

 

 

中止になったダムの建設再開を求める動き

2023年2月2日
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中止になったダムの建設再開を求める動きが出てきています。天竜川水系の戸草ダム、利根川水系の戸倉ダムです。

それらの記事を掲載します。戸倉ダムの記事は2021年11月の記事です。

戸草ダム、戸倉ダムの諸元を下記に記しておきます。

その動きのバックにゼネコンや建設官僚がいると思います。

国交省は当時の反対運動を担った人たちの高齢化を見定め、土建業を中心にした人たちを核にダム建設を進めようとしています。いつの時代でも自分たちの利益に繋がる公共事業を誘致しようと必死です。

国交省がダムなどの公共事業を復活させようと考える理由は、最近の河川環境の自然保護団体の弱体化を見抜いているように見えます。どんなところに国家予算を使うべきかを弱い立場の国民が真剣に考えなければとんでもない社会になると思います。

 

戸草ダム建設再開を 三峰川期成同盟会が要望

(長野日報2023年2月1日 6時00分)http://www.nagano-np.co.jp/articles/104871

(写真)阿部知事に要望書を手渡した伊那市の白鳥市長

天竜川の治水対策実現を目的に上下伊那地域の市町村でつくる三峰川総合開発事業促進期成同盟会(会長・白鳥孝伊那市長)は1月31日、阿部守一知事に、戸草ダム建設再開を含めた河川整備メニューの見直しを早期に行うよう国に求めてほしいと要望した。要望活動は冒頭を除き非公開。白鳥市長によると、知事からは「流域の市町村と思いは同じ」との趣旨の発言があり、同盟会と共に国へ働きかける姿勢と受け止めたという。

要望書では、三峰川合流点から本川上流の流下能力向上と諏訪湖の放流量増加、三峰川での洪水調節が一体となった治水対策により天竜川流域全体の安全度が向上すると主張。総合的な治水対策につながる戸草ダムの建設、ゼロカーボンに向けた水力発電などの利水の検討、諏訪地域を含めた流域全体の連携調整を望んだ。

白鳥市長によると、知事からは「戸草ダムを含めより効率的・効果的な治水対策が検討され、河川整備計画の変更を経て政策が進むよう流域全体の市町村と共に努力していきたい」とのコメントがあったといい、白鳥市長は「(これまでの要望活動の中でも)大きな一歩」「知事がそういう思いでいてくれることは心強い」と述べた。

国交省では現在、天竜川水系の整備計画について見直しを検討中。同盟会ではこの計画に戸草ダムを位置付けたい意向で、2月6日に国土交通省中部地方整備局(名古屋市)、7日に国交省本省(東京都)への訪問を計画している。

戸草ダムは多目的ダムとして伊那市長谷の美和ダム上流部に計画され、1988年に国が事業着手したが、2000年に当時の田中康夫知事がダム事業の見直しを発表し、県は工業用水の取水や発電の利水事業から撤退。建設計画が止まっている。

 

県に戸草ダム建設再開を要望 三峰川開発期成同盟会

(中日新聞(2023年2月1日 05時05分) https://www.chunichi.co.jp/article/628136

上伊那・飯田下伊那地域の天竜川流域の市町村でつくる「三峰川(みぶがわ)総合開発事業促進期成同盟会」は三十一日、国が計画したものの県が利水事業の構想を撤回したことなどから二〇一二年に建設中止が決まった多目的ダム「戸草ダム」(伊那市)について、建設再開を視野に入れた河川整備計画づくりを国に求めることなどを県に要望した。

有識者でつくる「天竜川水系流域委員会」は昨年三月、国が〇九年につくった天竜川水系河川整備計画を点検し、気候変動の影響で増す降雨量を考慮した目標流量や、それに応じた河川整備メニューの見直しを提言。国は同十一月、河川整備計画の上位計画にあたる「天竜川水系河川整備基本方針」の改定を先行して進める方針を示した。

期成同盟会は、戸草ダムの建設再開を含む河川整備メニューの早期見直しを国の関係機関に求めるよう県に要請することを決めた。水力発電などの利水事業の検討も改めて求めることにした。

この日、期成同盟会長の白鳥孝伊那市長、副会長の伊藤祐三駒ケ根市長、白鳥政徳箕輪町長らが県庁を訪問。阿部守一知事に要望書を提出した。

提出後、白鳥市長らと阿部知事は非公開で懇談。終了後に取材に応じた白鳥市長によると、阿部知事は「具体的な治水対策については戸草ダム(の建設)も含めてより効率的、効果的な対策が検討され、河川整備計画の変更をへて政策が進むよう、天竜川の流域全体の市町村とともに努力していきたい」と応じた。白鳥市長は「大きな一歩」と歓迎した。

(大久保謙司)

 

梅澤志洋片品村長インタビュー 戸倉ダム建設計画再開へ

(群馬建設新聞2021/11/18)https://www.nikoukei.co.jp/news/detail/447914

片品村長選挙が10月19日告示され、無投票で2期目の再選を果たした梅澤志洋村長。「より一層の責任を感じる」と気持ちを引き締めるとともに、感謝と謙虚の気持ちが大切だと語る。2期目は新型コロナ感染症対策を念頭に置きつつ、さまざまなシステムや公共施設のランニングコストを見直し、未来に向けた財政基盤を作り上げたいと意気込む。戸倉ダム建設計画再開への動きも見せる中、今後の見通しや運営について聞いた。

-2期目を迎えた抱負は

梅澤 無投票での再選となり、より一層の責任を感じている。従来のさまざまなシステムを見直し村の特徴に合わせ、残すものは残し必要なものは刷新するという考えで、2022年度を迎えるまでに検討を行う。

また、ランニングコストを抑えながら公共施設を運営し、未来に向け安定した財政の基盤を築き上げたいと考えている。効率よく資金を動かしていき、将来に向けた貯蓄を作っていきたい。

-最重要課題は

梅澤 新型コロナ感染症対策の収束が最も重要。村民の安全・安心を守るためにも、感染症の収束に向けて全力を注ぐ。次に経済、特に観光や農林業振興をより強く進めていく。観光に関しては、これからを見据え民間の力を借りながら進めていく。

-国土強靱化について

梅澤 19年に大きな被害をもたらした台風19号において、同年10月から試験湛水を開始していた八ッ場ダムが治水面で大きな話題となった。また、熊本県で建設凍結されていた川辺川ダムが、集中豪雨の被害により計画容認に変更されるなど、ダムに対する考え方も変化が出てきている。当初は利水対策として計画されていた戸倉ダムだが、今後は治水に向けた取り組みとして考える必要がある。そのため、国土強靱化や防災を兼ねて戸倉ダムの建設事業再開を実現したい。

-戸倉ダム建設計画の再開に向けて

梅澤 戸倉ダムは八ッ場ダムの90%程度の貯水量が見込まれている。また、計画当時の総工費として1230億円が掲げられており、すでに関係工事などで24%に当たる約299億円を投資している。加えて、ダム予定地の大部分を現在の水資源機構が所有しているため、新たな土地買収が少ないなど計画再開に向けたメリットも多い。そして、議会、役場、戸倉の地元住民から反対する意見は全く聞こえない。

計画再開に向け慎重な意見も出ているが、片品方面の利水・治水を見ると利根川合流までの間、薗原ダム以外に大きなダムがない。いろいろな災害が想定される昨今において、下流域となる首都圏の安全を確保するため、戸倉ダムが必要だといっても過言ではない。

9月27日には議会から「戸倉ダム建設の調査・研究について」の提言を受けており、今後は戸倉ダム建設実現に向けて国や県に話を進めていく。

-村営住宅解体が行われるが

梅澤 須賀川地内にある村営住宅は、21年度内に1棟を除いて解体を行うことが決定している。合わせて、新たな村営住宅建設に向けた土地購入を見通している。

活性化の一つである移住促進については、2拠点生活から始めてもらえればと考えている。最初から意気込んで村に移住するよりも、関係人口を増やしていくことが大切。今後は、空き家を村でリフォームして貸し出すといったことや、土地も村で斡旋できるようにしていきたい。

-交通網について

梅澤 国道120号の年間通行と国道401号の福島県への開通は、20年以上に渡り要望し続けており、今後も訴えていきたいと考えている。また、村道や林道の整備はもちろんのこと、熟している森林整備についても手を付けていかなければならない。

一方で、現在計画されている利根町から片品村に繋がる(仮)立沢バイパスには期待をしたいところ。椎坂トンネルができて、沼田市からのアクセスが格段に向上したように、(仮)立沢バイパスが開通すれば大きな効果が期待できるだろう。

 

ウィキペディア

戸草ダム

河川   天竜川水系三峰川(みぶがわ)

位置:長野県伊那市

ダム型式 重力式コンクリートダム

堤高   140.0 m

堤頂長 300.0 m

堤体積 1,330.000 m³

流域面積      137.9 km²

湛水面積      140.0 ha

総貯水容量    61,000,000 m³

有効貯水容量  41,000,000 m³

利用目的      洪水調節・不特定利水・

工業用水・発電

事業主体      国土交通省中部地方整備局

電気事業者    長野県企業局

着手 1984年/中止

 

ダム便覧

戸倉ダム

河川   利根川水系片品川

位置:群馬県利根郡片品村

目的/型式    洪水調節・農地防災;不特定用水・河川維持用水;上水道用水/重力式コンクリート

堤高/堤頂長/堤体積 158m/530m/320千m3

流域面積/湛水面積   72K㎡/200ha

総貯水容量/有効貯水容量    92000千m3/87000千m3

ダム事業者    水資源開発公団

着手 1982年/中止

 

黒部川…去年の連携排砂にかわる放流「周辺環境への大きな影響見られず」 黒部川河口域漁業者らの被害は続く

2023年1月27日
カテゴリー:

1月26日、黒部川の出し平ダム(1985年完成)と宇奈月ダム(2001年完成)の土砂を下流に流し出すための連携排砂に関する黒部川ダム排砂評価委員会が開かれました。

そのニュースを掲載します。

連携排砂は、去年の夏は雨が少なかったため、実施できなかったが、9月に堆積した土砂の腐敗が進むのを防ぐための放流が行われました。

委員会では、この放流によって川の水質や生物への影響を与えるデータに大きな変動はなく、周辺環境への大きな影響はみられなかったと結論付けました。

評価委員会の案内は、「黒部川におけるダムの排砂について」 国土交通省黒部河川事務所  https://www.hrr.mlit.go.jp/kurobe/index.html に掲載されています。

黒部川のダム排砂については長い経過があります。下記の関連資料1,2,3もお読みください。

関西電力の「出し平ダム」から排出されたヘドロ等の有機物が海底に堆積し、黒部川河口以東の海域においてヒラメやワカメが獲れなくなったとして、同海域で操業する漁業者らが、排砂の差止めや損害賠償等を求めた訴訟を起こしました。

2008年11月26日、富山地裁は、関西電力に対し、黒部川河口東の海域で操業するワカメ栽培組合に対して約2,730万円を支払うよう命じる判決を言い渡し、一部勝訴しましたが、ヒラメ等の漁獲減少(=刺し網漁業者の損害)と排砂との因果関係は認めませんでした。(関連資料3)

2011年4月4日、名古屋高裁金沢支部で和解が成立しましたが、原告側が賠償請求を取り下げるかわりに、関電側が排砂の方法について漁業者の意見を聞くことで双方が折り合うというもので、漁業者らの実質敗訴でした。(関連資料2)

1月26日の黒部川ダム排砂評価委員会の結論は国交省の筋書きどおりのものであって、今後も黒部川河口域で操業する漁業者らの被害が続いていくことになります。

 

 

黒部川…去年の連携排砂にかわる放流「周辺環境への大きな影響見られず」排砂評価委員会

(富山テレビ 2023年1月26日 木曜 午後8:32)  https://www.fnn.jp/articles/-/477051

黒部川の2つのダムに堆積した土砂の腐敗を防ぐために行われた去年の放流で、周辺環境への大きな影響はみられなかったと結論づけられました。

海洋地質学などの専門家でつくる黒部川ダム排砂評価委員会で26日、まとめられたものです。

黒部川の出し平ダムと宇奈月ダムの土砂を下流に流し出すための連携排砂は、去年の夏は雨が少なかったため実施できませんでした。

そのため堆積した土砂の腐敗が進むのを防ごうと、土砂を排出するための専用のゲートを開けて新しい水を送り込む放流が行われました。
委員会では、この放流によって川の水質や生物への影響を与えるデータに大きな変動はなく、周辺環境への大きな影響はみられなかったと結論付けました。

連携排砂を行う国土交通省と関西電力は、この評価を踏まえ、今後はより自然に近い形での連携排砂を目指したいとしています。

(映像より)

宇奈月ダム

黒部川の出し平ダムと宇奈月ダム

 

 

関連資料1 黒部川の出し平ダム、宇奈月ダムからの土砂流出が大幅増 連携排砂 (八ツ場あしたの会HP https://yamba-net.org/19665/ より)

2017年1月18日  関連ニュース

富山湾に流れ込む黒部川は、有名な黒部ダムの下流に関西電力の出し平ダム(1985年完成)や国土交通省の宇奈月ダム(2001年完成)があります。
黒部川上流は地質がもろく、ダム計画の想定を超えて各ダムに土砂がたまってきています。ダムにたまる土砂は、ダムの貯水量を減らし、海岸浸食の原因ともなりますので、出し平ダムと宇奈月ダムでは、連携排砂という方法でダムにたまった土砂を下流に流す試みが続けられています。しかし、ダムにたまった土砂はヘドロ化し、富山湾の生態系に深刻なダメージを与えたとして、過去には漁民が裁判に訴える事態も起こりました。

 

関連資料2 出し平ダム排砂訴訟、漁業者と関電和解 https://blog.goo.ne.jp/kurobegawa/e/c5a4c0c3d2a6d47471e46e427ea76675

2011-04-09

4月4日、名古屋高裁金沢支部で和解が成立しました。

「黒部川の出し平ダムの排砂で漁業被害を受けたとして、河口周辺の漁業者らが、関西電力に排砂の差し止めや約6億2400万円の損害賠償などを求めた訴訟の控訴審は4日、名古屋高裁金沢支部で和解が成立した。原告側が賠償請求を取り下げるかわりに、関電側が排砂の方法について漁業者の意見を聞くことで双方が折り合った。漁業者らにとっては、勝訴の展望が開けないなかで苦渋の決断となった」

「原告団の代表・佐藤宗雄さん(62)は「最後まで立証したかったが、裁判所のハードルを越えるのは難しかった」と残念がった。それでも、「少しでも海が良くなれば、という一心でやってきた。声を上げるのは、死ぬまでやっていきたい」と語った。」

「関電側は「今後も、関係者の意見や要望を反映し、排砂方法の改善や環境調査の充実を進め、自然に近い形で排砂を実施していきたい」とするコメントを発表した。」

「同支部は昨年11月の結審後、双方に和解を勧告していた。原告側によると、話し合いは当初不調に終わったが、同支部が「海の中のことで立証が困難だ」との見解を示したため、双方が歩み寄る形になったという。」

○所感

正直な感想は、何これ?です。

同日、県漁業協同組合連合会を相手取った控訴審も和解が成立し、2つの控訴審がセットで和解しました。このようなケースは非常に特異で、このことからも排砂問題には色々な関係者が絡みあっていることがわかります。

しかし、この和解内容(実質敗訴)を読むと不思議なのは、関電側の歩み寄りがどこに出ているのかわからないことです。朝日の記者は原告側によると人の言葉を掲載しているが、はたして納得して書いているのでしょうか。

もう少し情報がほしいです!

 

関連資料3 黒部川排砂被害訴訟 報告  http://www.kogai-net.com/sokai-document/document38/38-200/38-2a2/

黒部川排砂被害訴訟弁護団
弁護士 坂本義夫

第1  一審判決
2008年11月26日、富山地裁は、関西電力株式会社に対し、黒部川河口東の海域で操業するワカメ栽培組合に対して約2,730万円を支払うよう命じる判決を言い渡した。
第2  事件の概要
1  本件は、関西電力が黒部川上流部に建設した「出し平ダム」から排出されたヘドロ等の有機物が海底に堆積し、黒部川河口以東の海域においてヒラメやワカメが獲れなくなったとして、同海域で操業する漁業者らが、排砂の差止めや損害賠償等を求めた訴訟である。
2  出し平ダムは、ダム湖底の土砂を排出(排砂)する機能を備えた全国的にも珍しいダムである。関西電力は、91年12月から08年7月までほぼ毎年のように計16回の排砂を行い、これまでに、東京ドーム5.5杯分にものぼる合計679万立方メートル(ただし関西電力発表値であり、実際はもっと多い)の土砂・ヘドロその他の有機物を排出してきた。なお、01年からは、国交省が下流に建設した排砂ゲート付の「宇奈月ダム」と連携して排砂を行っている。排出された有機物は、東向きの海流にのって黒部川河口以東の海域(被害海域)に流れて堆積し、海底を泥質化させた。
3  被害海域は、水深30~40メートル以内の遠浅が黒部川河口から北へ1~1.5キロメートル、東へ約15キロメートルにわたって帯のように続く場所であり、かつては全域にわたって砂地の好漁場であった。遠浅の先は急激に落ち込む谷となり、漁業者らはこれを「ヒラメの通り道」と呼んでいる。
排砂による泥質化の影響を特に受けたのは、ヒラメなどの底物を対象魚とする「刺し網」漁業とワカメ養殖であった。刺し網漁業者はヒラメ、クルマエビ等の漁獲が激減して減収を余儀なくされ、ワカメ栽培組合は壊滅的打撃を受けて98年以降操業を休止している。

4  刺し網漁業者13名とワカメ栽培組合は、02年12月4日、関西電力を被告として、排砂の差止めと海底のヘドロ等の除去、損害賠償を求める訴訟を富山地裁に提起した。
富山地裁は04年8月、排砂と漁業被害との因果関係を調査するため、公害等調整委員会(公調委)に原因裁定を嘱託した。これを受け公調委は07年3月、①刺し網漁業(魚類)の不漁は出し平ダムの排砂の影響によるものとは認められないが、②養殖ワカメの不漁は出し平ダムの排砂がワカメの生育環境を悪化させたことによるものである、とする原因裁定を行った。
富山地裁は、公調委の裁定を是認する形で前述の判決をし、ワカメ栽培組合の損害賠償請求の一部は認めたが、排砂差止め・ヘドロ除去の請求と刺し網漁業者の損害賠償請求を棄却した。

5  なお、本件訴訟と表裏の関係にあり争点の1つにもなった重要問題として、富山県漁業協同組合連合会(県漁連)による関西電力からの漁業被害補償金受領問題がある。県漁連は、初回排砂直後の92年から数年間にわたり関西電力との間で漁業被害補償にかかる交渉を行って合意を得、96年に一時金として29億8,000万円!を受領し、95年以降毎年7,000万円の年金を関西電力から受領している(一時金と年金の総額は、08年までで39億6,000万円!)。
このうち、漁業被害の補償に回されたのはわずか4億8,000万円にすぎず、県漁連は、その余の34億8,000万円について、「富山県全体の漁業振興対策費であり、排砂の被害補償金ではない」として、被害漁業者に支払おうとしない。そこで本件の原告らは、本件とは別に県漁連を相手として、受領金員の交付請求訴訟を行っている。
第3  判決の意義・評価
1  漁業行使権を正面から認めたこと
本判決は、漁協が有する「漁業権」とは別に、個々の漁業者の「漁業行使権」(漁業を営む権利)を物権的権利として正面から認めた点で高く評価できる。
これにより、まず、漁業権放棄に対する補償問題との峻別が図られた。
例えば発電所等の温排水により漁業被害を被る海域においては、通常、漁協が漁業権を放棄し、その代償として電力会社から補償金を受領している。ここでは、個々の漁業者の損害填補については漁協内部における補償金の分配問題として処理されてしまう。
本判決は、このような漁業権放棄の場合とは区別して、個々の漁業者の漁業行使権を認め、排砂を漁業行使権の侵害ととらえて不法行為責任・損害賠償請求を正面から認めたものである。
次に、物権的権利としての漁業行使権を認めた点が重要である。
物権的権利としての漁業行使権を認めたことで、損害賠償のみならず侵害行為の差止め・排除請求が基礎づけられることとなった(もっとも、結論的には排砂差止めもヘドロ除去も認めなかったが)。

2  因果関係を一部認めたこと
次に、本判決は、養殖ワカメの不漁と排砂との間の因果関係を認めており、この点も評価できる。判決は、排砂により本件被害海域のうち水深20メートル以浅の浅海域に有機物が堆積し、それが海中に舞い上がりワカメに付着するなどしてワカメが減少・死滅したとした。
このメカニズムが認められたことにより、他の海藻類への同様の悪影響さらには魚類への派生的な悪影響を立証する手がかりを得ることができた。
また、排砂の影響を調査検討する組織として関西電力などが設置した「黒部川ダム排砂評価委員会」(評価委員会)は、これまで、排砂による悪影響はワカメも含めて「ない」と報告してきたが、本判決は、同委員会のこれまでの評価・報告が誤りであることを示すものともなった。
第4  判決の問題点
1  刺し網の漁獲減少との因果関係を認めなかったこと
もっとも、判決は、水深20メートルから100メートル(中深海域)の底質の泥質化を認めず、ヒラメ等の漁獲減少(=刺し網漁業者の損害)と排砂との因果関係は認められないとした。

2  排砂の差止めを認めなかったこと
また、判決は、排砂がワカメ栽培組合の漁業行使権を侵害していることを認めたにもかかわらず、排砂の差止めを認めなかった。判決は、その判断の理由としてワカメ栽培組合が操業を「廃止」したことを挙げ、黒部川出し平ダム排砂影響検討委員会(検討委員会。評価委員会の前身)の提言を尊重して排砂をしていく限り、排砂の差止めまでは必要ないと言う。
しかし、ワカメ栽培組合は操業を「廃止」したのではなく「休止」しているのである。しかも操業できなくなった原因は排砂にあるのであるから、操業していないことは差止めを認めない理由にはならない。また、関西電力は検討委員会の提言に従ってこれまで排砂してきたと主張している。つまり同委員会の提言に従った排砂をしてきたにもかかわらず、浅海域が泥質化しワカメが不漁となったのである。同委員会の提言を尊重すれば排砂してもよいという裁判所の判断には、まったく理由がない。

3  ワカメ栽培組合の逸失利益を限定したこと
また、ワカメ栽培組合の逸失利益を操業休止から5年分(03年まで)しか認めなかった点も問題である。
第5  控訴へ
05年以降、被害海域(黒部川河口の東海域)ではあいかわらずヒラメの不漁が続いているのに対し、河口の西海域では記録的な豊漁となっている。このような顕著な差が生じる原因は、排砂しか考えられない。
原告らは控訴した。関西電力も控訴しており、闘いの舞台は名古屋高裁金沢支部に移された。

 

川辺川ダム「川は死んでしまう」反対派住民が決起集会 (1月22日)

2023年1月26日
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2020年7月上旬の熊本豪雨で、球磨川が大氾濫し、凄まじい被害をもたらしました。

球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、支流の氾濫によるものでした。

球磨村と人吉市の犠牲のほとんどは、球磨川の支川(小川、山田川等)の氾濫が球磨川本川の氾濫よりかなり早く進行したことによるものでしたから、当時、川辺川ダムがあって本川の水位上昇を仮に小さくできたとしても犠牲者の命を救うことはできませんでした。

しかし、2022年8月策定の球磨川水系河川整備計画では小川は河川改修の対象外であり、山田川は0~0.5㎞についての改修が簡単に記されているだけです。川辺川ダムで本川の水位を下げれば、支川の水位も下がるという考えによるものですが、その考えは2020年7月水害の実態とかけ離れています。

そして、「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されていますが、既設の流水型ダム(5基)の実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっており、流水型川辺川ダムが川辺川、球磨川の自然に大きなダメージを与えることは必至です。

球磨川流域治水プロジェクトにより、球磨川ではこれから流水型川辺川ダムを中心に約3636億円以上いう凄まじい超巨額の公費が投じられていくことになっています。

流域住民・熊本県民の声に耳を傾けることなく、国土交通省と熊本県は2022年8月に流水型川辺川ダムを中心に据えた河川整備計画を策定し、ダム建設に向けた手続きを進め、球磨川で超巨額の公共事業を推進しようとしています。

そこで、流域住民は2023年の初頭、球磨川豪雨災害の真実を多くの人に伝え、行政の嘘を許さず、熊本県民や全国の様々な問題に取り組む人たちと手を携えて、ダムを中止に追い込むための新年決起集会を開催しました。

その集会案内と集会の記事を掲載します。

計画決定から39年の川辺川利水事業、完了へ 「同意取得に違法性」、ダム水源案頓挫 対象3590→198ヘクタールに大幅縮小

2023年1月22日
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川辺川ダムは2022年8月に流水型ダムとして事業を強引に推進することになりましたが、2008年には川辺川ダム中止の判断が示されました。

その判断の重要な要因となったのは、2007年の川辺川利水事業の休止です。同事業に対して「国はダムの水を押しつけるため無理やり農家の同意を集めた」と農家が提訴し、2003年、同意取得に違法性があったとする福岡高裁判決が確定し、事業はつまずきました。

その後、川辺川利水事業は規模を大幅に縮小して(対象3590→198ヘクタールに大幅縮小)、川辺川からの取水を断念し、井戸やファームポンド(貯水槽)の整備で対応することにして続けられてきました。

この川辺川利水事業の完工式が2023年1月21日に開かれました。それらの記事を掲載します。

 

迷走続けた大型公共事業、翻弄された地元農家 計画決定から39年の川辺川利水事業、完了へ 「同意取得に違法性」、ダム水源案頓挫 対象3590198ヘクタールに大幅縮小

(熊本日日新聞  2023年1月21日 12:29) https://kumanichi.com/articles/921539

(写真)人吉市上原田地区の農地でホウレンソウを収穫する尾﨑正光さん。川辺川利水事業が大幅縮小して収束することを残念がる=18日、同市

(写真)川辺川利水事業で人吉市上原田地区に整備されたファームポンド=20日、同市

人吉球磨の農地に農業用水を送る計画で始まった国営川辺川総合土地改良事業(利水事業)の関連工事が3月で完了する。計画決定から39年。対象面積3590ヘクタールだった大型事業は旧川辺川ダムを水源とするか否かで迷走した末、198ヘクタールに大幅縮小して収束を迎えた。待ち望んだ水を喜ぶ農家がいる一方、「事業が縮小せず早く実現していれば、地域の農業はもっと発展したはず」とため息をつく関係者もいる。

「ようやく安定した水が手当てされ、安心して営農できる」。あさぎり町須恵の農地でナシやカキを作る男性(62)は、利水事業で水が確保されたことに安堵[あんど]の表情を浮かべる。

九州農政局川辺川農業水利事業所(人吉市)によると、対象農地は人吉球磨6市町村で造成、区画整理した34団地・計198ヘクタール。川辺川からは送水せず、地下水をくみ上げる井戸とファームポンド(貯水槽)を各14カ所に整備し、総事業費は約252億円の見込み。

当初計画は農水省が1984年に決定。国交省が建設する川辺川ダムから幹線水路で広く送水する計画だった。後に減反など農業情勢の変化を背景に計画変更した際、「国はダムの水を押しつけるため無理やり農家の同意を集めた」と農家が提訴。2003年、同意取得に違法性があったとする福岡高裁判決が確定し、事業はつまずいた。

国は面積を狭めて計画を作り直すため、県や市町村、農家団体との「事前協議」を重ねたが、ダムを水源とするかどうかで難航し、07年度に事業を休止。その後、ダムに依存せず川辺川から取水する案も、地元で合意に至らなかった。国は18年、農業用水を送る計画を廃止し、既に造成などを終えた農地にだけ代替水源を整備する計画に大幅縮小した。

水を待ち続けた農家は翻弄[ほんろう]され、高齢化した。人吉市上原田地区では02年にいち早く貯水槽が整備され、モデル事業として貯めた井戸水を一部エリアに給水してきたが、地区の大半は事業縮小で対象から外れた。

「時間がかかりすぎた。農業をやめた者もいる。早く水が来ていれば希望を持って続けられたはず」。同地区でホウレンソウなど野菜を手がける尾﨑正光さん(82)は歯がみする。自身の農地も一部を除いて対象から外れ、代わりに県営事業での送水を待つという。

かつて6市町村でつくる事業組合(解散)の組合長を務めた内山慶治山江村長も表情は晴れない。「ダム建設反対の動きも絡み、事業が進まなかったことは残念。川辺川から送水できていれば、一帯の農業は大きく変わっていただろう」

事業休止でいったん閉じた川辺川農業水利事業所は15年に再開され、事業完了へ作業を進めてきた。「整備した給水設備が地域の農業振興に寄与すると期待している」と担当者。同事業所は3月末で撤退する。(中村勝洋)

 

計画決定から39年、国営川辺川利水事業が完工式 熊本県あさぎり町

(熊本日日新聞  2023年1月21日 12:32)https://kumanichi.com/articles/922711

(写真)国営川辺川総合土地改良事業の完工式であいさつする宮﨑敏行九州農政局長=21日、あさぎり町

人吉球磨6市町村の農地に農業用水を手当てする国営川辺川総合土地改良事業(利水事業)の完工式が21日、あさぎり町の商工コミュニティセンター・ポッポー館であった。当初3590ヘクタールだった対象面積は198ヘクタールに大幅縮小され、事業は3月に完了する。

式には農水省や6市町村の関係者ら約100人が出席。宮﨑敏行・九州農政局長が「地域の農業がさらに発展し、豊かな農村社会が形成されることを祈念する」とあいさつし、事業経過が報告された。

農水省は1984年の当初計画で旧川辺川ダムからの送水を見込んでいたが、計画変更手続きを巡り農家が起こした訴訟で敗訴。その後、新たな計画策定も難航し、地元で合意に至らなかった。18年、農地に送水するかんがい事業は廃止。対象面積を198ヘクタールに大幅縮小し、井戸やファームポンド(貯水槽)を整備した。総事業費は約252億円の見込み。(中村勝洋)

 

 川辺川利水完了 地元複雑完工式 着手から40年、大幅縮小「当初計画の10分の1満たず」

(読売新聞2023/01/22 08:13) https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20230122-OYTNT50007/

熊本県南部の6市町村に農業用水を供給する国の川辺川利水事業が今年度末で完了する。水源となるはずだった川辺川ダムの建設が中断し、利水事業はダム計画と切り離されて大幅に縮小された。事業開始から約40年がたち、総事業費は250億円を超える見通し。地元では21日、完工式があり、出席者は複雑な思いを巡らせた。(内村大作)

「(規模は)当初計画の10分の1に満たない。うれしさは3割で、7割は残念な思い」。同県あさぎり町で開かれた式で謝辞を述べた森本完一・錦町長は終了後の取材に、そう悔しさをにじませた。

利水事業は、農林水産省が1983年に着手した。人吉市、錦町、あさぎり町、多良木町、相良村、山江村が対象。当初の計画では、川辺川ダムを水源として農業用の水路網を整備する用排水事業や農地造成などで3590ヘクタールに水を送る予定だった。

しかし、対象面積を縮小する計画変更の有効性を巡り、一部農家が起こした訴訟で、2003年に国側が敗訴し、事業は事実上の休止に追い込まれた。その後、農水省はダムを活用した利水事業から離脱。ダム以外の水源を模索したが地元の合意が得られず、18年に計画を大幅に縮小した。新たな計画では対象面積が198ヘクタールに絞られた。対象農家も約4000人から約330人まで減少。完成した農地に水を供給するのはダムではなく、掘削した14か所の井戸となった。総事業費は252億円という。

あさぎり町で梨を栽培する五嶋政一さん(74)は暫定の井戸では水量が足りず、農家同士で水を譲り合ってきた。この日、受益農家でつくる土地改良区の副理事長として式に出席した後、「梨をつくるための必要な水量はようやく確保できた。けじめはついたが、ダムの水が来ると聞いてから何十年もかかった」と複雑な心境を語った。

 

 利水に揺れた40年の歴史に幕 川辺川総合土地改良事業が完工式 あさぎり /熊本

(毎日新聞熊本版 2023/1/22)https://mainichi.jp/articles/20230122/ddl/k43/040/230000c

(写真)地元国会議員や知事らも参加した事業の完工式

熊本県南部の人吉球磨地方に農業用水を供給する「国営川辺川総合土地改良事業」の完工式が21日、同県あさぎり町であった。1983年に事業に着手したが、反対派農家が起こした訴訟で2003年に国が敗訴。建設予定だった川辺川ダムからの取水を断念し、井戸など代替水源施設の整備を続けてきた。農業利水の在り方を巡って揺れた事業は40年の歴史に幕を閉じた。

完工式は、あさぎり町商工コミュニティセンターであり、蒲島郁夫知事や地元国会議員、市町村関係者ら約100人が出席した。宮崎敏行・九州農政局長は式辞で「整備された農地と施設が適切に利用され、豊かな農村社会が形成されるよう祈ります」と述べた。

事業は当初、川辺川ダム建設を前提に、同県人吉市など球磨川流域6市町村の農地3590ヘクタールに川辺川から水を引く計画だった。ところが農家の同意を巡る不正な水増しなどが訴訟で明らかになり、国は03年に福岡高裁で敗訴。計画は白紙となった。その後の新たな利水計画も農家負担を巡って一部自治体の同意が得られず、国はダムからの取水を断念。18年にはかんがい事業の廃止と農地造成、区画整理の縮小を決定し、代替水源が必要な農地137ヘクタールへの水源施設整備を続けていた。【西貴晴】

 茂吉隆典さん茂吉隆典さん

40年に及ぶ事業の中で節目となったのが、国の計画に地元農家864人がノーを突きつけた川辺川利水訴訟だった。原告農家の主張を認めた2003年の福岡高裁判決をきっかけに、計画はいったん白紙へ。原告団長の茂吉(もよし)隆典さん(78)=熊本県相良村=に聞いた。

「水は必要だ。でもダムの水はいらない」というのが私たちの訴えだった。さらに農家をだまして、亡くなった人の計画同意の印鑑まで集める国のやり方に反発したのが出発点だった。水源井戸の確保など水が必要な農家に国が最後まで対応した点は評価したい。ただ、事業に伴う高額な農家負担や後継者難などを考えれば、当初の事業実施は難しかったと思う。

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