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報道

ラオスのダム決壊1年 農業再開進まず 中国資本進出に農薬汚染の懸念も

2019年7月11日
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昨年7月にラオス南部でダムの決壊事故があり、死者40人が超え、1万人以上が被害を受けました。被災地の現状についての記事を掲載します。。

ラオスのダム決壊1年 農業再開進まず 中国資本進出に農薬汚染の懸念も
(Sankeibiz 2019.7.11 05:00( http://www.sankeibiz.jp/macro/news/190711/mcb1907110500005-n1.htm

死者40人超、1万人以上が被害を受けたラオス南部アッタプー県にあるダムの決壊事故から間もなく1年。ラオス政府は合弁事業で建設工事を担当した韓国大手財閥SKグループ傘下のSK建設などとともに被災者の救済に当たってきたが、いまなお多くの農民たちは家屋や田畑を失ったまま将来の見えない不自由な生活を余儀なくされている。一方、土砂で埋め尽くされるなど被害の甚大だった地域の周囲では、中国資本が土地の使用許可を得てバナナ農園の開設を表明するなど「復興」に向けた動きも始まっている。本格的な雨期のシーズンを迎えた6月下旬、被災地近郊を訪ねた。
(写真)アッタプー県で、田おこしのため水田に向かうポームさん一家。末っ子のプー君(手前)も喜んで手伝う。
(写真)未舗装路が続き、雨期になるとあちこちで寸断される

◆原因は人為的?
「この辺りは水の被害は少なかったけど、しばらくは田植えはできなかった。今、こうして農業ができることに感謝しているよ」。そう話すポームさん一家の水田は、決壊事故のあったチャムパーサック県パクソン郡の水力発電用ダム「セーピアン・セーナムノイダム」の下流、アッタプー県サナームサイ郡にある。同郡は最も被害の大きかった地域で、6つの村で7000世帯が家を失い、基幹産業である農業や林業は大打撃を受けた。ポームさんのように仕事を再開できた人は少ない。
事故は昨年7月23日夜に起こった。建設中だった同ダムが台風による増水であえなく決壊し、鉄砲水が下流の村々を襲った。翌朝までに7つの村が冠水し、田畑や牛、馬などの多くの家畜が流された。政府は国家緊急災害に指定。行方不明者の発見や被災者の保護に当たったが、今でも正確な死者・行方不明者数が分からないばかりか、被災に伴う精神的ショックや衛生面の問題から体調不良を訴える人は後を絶たない。
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地下資源や目立った産業を持たない内陸国のラオスでは、豊富な水を使った水力発電による電力輸出が国家総輸出額の3割を担う。2017年末現在で計46の水力発電所が稼働。なお54カ所が建設あるいは計画中だ。タイや中国へ電力を輸出するための送電施設も新たに50カ所以上で工事が進められている。セーピアン・セーナムノイダムによる発電事業では、タイのラーチャブリー発電が送電を担当。多くがタイに輸出されることになっていた。
決壊は当初指摘された「予想を超えた雨量が原因」(SK建設)ではなく、強度の不足など人為的なミスが引き起こしたとの見方が広がっている。ダム技術を通じて水資源利用の国際的指導的役割を果たしてきた国際大ダム会議(本部パリ)の独立専門家委員会は、SK側が主張してきた「天災」や「不可抗力」を否定する明確な見解を打ち出している。今後は人為性の具体的な検証が行われる。

◆強者が弱者縛る構図
一方、被害の大きかった6つの村では、いまなお土砂が住宅地や田畑を覆い、住民は仮設の住居などで先の見えない不安な生活を送っている。こうした中、中国資本がラオス政府から許可を得て、比較的被害の少なかった被災地周辺でバナナ農園を新設する動きが広がっている。被災した地元住民の雇用を名目としている。
このうち、サナームサイ郡ピンドン村では約2000ヘクタールの使用が新たに認められ、農園で働く労働者の募集が始まった。また、地理的にベトナム寄りのサーマッキーサイ郡にあるベトナム資本のバナナ園では、中国資本が参加して約3000ヘクタールだった農地を約1万ヘクタールにまで拡張する整地が続けられている。同地にはこれまでゴム園が広がっていたが、ゴムの国際価格の下落から転作が決まり、伐採されることになった。
こうしたバナナ農園では100~200人単位の被災した住民が新規で雇用されているが、多くの人々は応じようとはしない。彼らが求めるのは農業の再開であり、口々に懸念を示すのは中国式バナナ農法による汚染だ。稲作農家のポームさんも、そうした中国資本の進出を疑問視する一人。「中国の農法は農薬を多用する。その結果、土地は痩せ、われわれが住むこの地域の水は汚染が深刻化してしまう。われわれは農業を再開したいだけなのに」と語る。

ラオス南部のアッタプー県ではかつて砂金が取れ、ちょっとしたゴールドラッシュに沸いた時期があった。2000年代半ばのことだ。この時も、中国資本とベトナム資本が先を争うように現地に入り、川底の土砂をさらった。砂金1グラム当たり、掘り返される土砂は1トンにも上る。アッタプーの自然環境は激変し、周囲に住む村々では呼吸器や皮膚に異常を訴える子供たちが続出するようになった。
予期せぬ人災のダム決壊事故から1年。ようやく復興が始まったのもつかの間、現地の人々は中国やベトナム資本によるかつての悪夢に再び苦しめられようとしている。被災者の補償もほとんど行われていない。いつまでも続けられる強者が弱者を思いのままにしようとする構図に、国際社会はもう少し目を向けたほうがいい。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)

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