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球磨川の市房ダムの基本的な問題点

2022年10月25日
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10月21日、球磨川流域の市民団体が、9月の台風14号に伴う大雨で水位が上昇した県営市房ダムの危険性や、流水型川辺川ダムの環境への影響について見解を示すように、熊本県に申し入れを行いました。その記事を掲載します。

市房ダムの基本的な問題点をあらためて下記に整理しておきます。

 市房ダム、危険性説明を 市民団体が県に申し入れ                                     

(熊本日日新聞 2022年10月24日 10:57) https://kumanichi.com/articles/833328

県営市房ダムの危険性や流水型ダムの環境への影響を示すよう県に申し入れる市民団体=21日、県庁

人吉市の「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」など3市民団体は21日、9月の台風14号に伴う大雨で水位が上昇した県営市房ダム(水上村)の危険性や、国が建設を計画する流水型ダムの環境への影響について見解を示すよう、県に申し入れた。

市房ダムによる洪水調節で、大雨時に多良木地点で約0・9メートル、人吉地点で約0・2メートル水位を下げたとする県の説明に対し、「効果ばかり言っているが、ダムが満水になって放流量が流入量を上回った場合のリスクについても説明すべきだ」と指摘した。

台風後、球磨川流域の樅木ダム(八代市泉町)や幸野ダム(湯前町)下流では水の透視度が低かったとする調査結果を示して「ダムは大量の土砂や粘土をため込んで川の濁りを長期化させる」と主張し、流水型ダムが「清流を守る」とする根拠の説明も求めた。(元村彩)

 

 市房ダムの基本的な問題点

(1)球磨川の洪水位の低減に対する寄与はかなり小さい

 今年9月中旬の台風14号に伴う大雨により、市房ダムで9月19日3時から緊急放流が行われました。

下記のグラフは国交省と熊本県のデータを使って、市房ダムの流入量・放流量、および市房ダム下流の球磨川の当時の水位の時間変化を見たものです。、

市房ダムより約9㎞下流の球磨川・多良木地点では、緊急放流の影響で5時頃に水位が少し上がりましたが、

中流の人吉地点では、緊急放流の影響は明確ではなく、むしろ球磨川流域の降雨によって、水位がかなり上昇しました。

このように流域面積が小さい市房ダムの球磨川への影響は元々小さなものであって、人吉あたりではその治水効果をほとんど期待できません。市房ダムは、球磨川の洪水位低減に対する寄与はかなり小さいダムなのです。

(西日本新聞2020/8/12)

 2022年9月18~19日の球磨川の観測水位と市房ダムの流入・放流量の時間変化 (国交省と熊本県のデータを使って作成)

流域面積 市房ダム158㎢  多良木250㎢  人吉1137㎢ (市房ダムは河口から約93㎞)

(2)緊急放流時のダム直下での氾濫が心配される市房ダム

市房ダムはむしろ、緊急放流時のダム直下での氾濫が心配されるダムです。

2020年7月の熊本県の球磨川豪雨では、熊本県営市房ダムが緊急放流寸前のところまでいきました。

その様子を記録した管理所長のメモの内容を伝える記事があります。https://suigenren.jp/news/2021/07/04/14774/

「やばい…280m超える」寸前で回避された緊急放流、緊迫の所長メモが歴史公文書に

(読売新聞2021/06/29)

この記事を読むと、市房ダムは、線状降水帯の停滞がもう少し長ければ、洪水のさなかに水害の危険性を高める緊急放流せざるをえなかったことがわかります。

熊本県は2022年6月から、球磨川上流の県営市房ダムについて、降雨によってダムの貯水容量が半分ほどになった段階で新たに警戒情報を出し、緊急放流せざるを得なくなる事態に備えて、下流域の住民に早めの避難行動を促す運用を始めると発表しました。https://suigenren.jp/news/2022/05/30/16290/

しかし、下流を水害から守るために設置されたはずのダムによって、下流住民はダムからの緊急放流に備えて避難行動をしなければならなくなったのですから、まったくおかしな話です。

ダムがなければ、ダムを前提としない河川改修が行われてきたはずですが、ダムがあるためにそれが行われないため、下流住民は危険にさらされるのです。ダムを前提とした河川行政に終止符を打つべきです。

 

(3)市房ダムの環境への影響(ダム下流河床の軟岩露出)

下記の写真は15年以上前の写真ですが、市房ダム下流の球磨川の河床を撮影したものです。市房ダムによって土砂の供給が遮られたため、市房ダム下流の河床は侵食が進んで、軟岩が露出しており、河川環境が悪化しています。ダムによる軟岩露出は、河床掘削による軟岩露出とは異なり、土砂の供給そのものを永続的に大幅にカットしてしまうから、何年経っても軟岩の上に砂礫が堆積していくことはありません。市房ダムができてから、軟岩が露出した状態が続いているのです。

なお、市房ダムは1970年3月完成で、貯水容量4020万㎥、発電容量2880万㎥、洪水調節容量630~1830万㎥のダムです。

計画堆砂量510万㎥に対して2019年度末の実績堆砂量が499万㎥にもなっています(国交省の開示資料による)。

市房ダムは2022年8月策定の球磨川水系河川整備計画により、再開発が計画されていますが、上記(1)、(2)、(3)の基本的な問題点を踏まえれば、むしろ撤去を計画すべきダムなのです。

 

多摩川の治水計画見直しへ  計画洪水流量をはるかに超えた2019年台風19号洪水

2022年10月12日
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東京都、神奈川県を流れる多摩川の治水計画についての記事が掲載されました。

2019年10月の台風19号で、多摩川中流部の洪水ピーク流量が計画値を上回ったことから、治水計画の見直しが行われるという記事です。

この記事は、下記の「第3回多摩川河川整備計画有識者会議(令和4年10月3日)」の資料3をベースにしています。

資料3の一部を下記に貼り付けておきます。

驚かされるのは、この洪水では中流部のピーク流量(石原地点)が最大7000㎥/秒になり、多摩川の河川整備計画の河道目標流量4500㎥/秒(戦後最大洪水を想定)をはるかに上回り、200年に1回の洪水を想定した河川整備基本方針の計画高水流量6500㎥/秒をも超えたことです。多摩川の河川整備基本方針と河川整備計画の流量配分図を末尾に示します。

河川整備基本方針では石原地点の基本高水流量は8700㎥/秒で、洪水調節施設で6500㎥/秒に下げることになっていますが、その洪水調節施設については基本方針に「なお、 2,200m /sec3にに見合った洪水調節施設の具体的な施設については、さらに、詳細な技術的、社会的、経済的見地から検討した上で決定する」と書かれているだけで、具体的な計画はありません(https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/pdf/tama-2.pdf)。なお、上流にある小河内ダムは東京都の水道用の貯水池であって、治水機能はありません。

このように、主に東京都を流れる多摩川の治水計画でも現実の洪水に対応できないものになっており、国等が策定している治水計画とは一体何なのかと思わざるをえません。

石木ダム等のダム事業の推進では錦の御旗として掲げられる河川整備計画が本当にとこまで意味があるのかを問い直すことが必要だと思います。

 

【補】台風19号の多摩川氾濫の被害(東京新聞2020年9月30日 https://www.tokyo-np.co.jp/article/58674 )

都側の左岸では、東急田園都市線二子玉川駅に近い世田谷区玉川で溢水が発生。周辺の0.7ヘクタールで家屋約40戸が浸水するなど、世田谷、大田両区で計約1万7000人が避難した。

右岸の川崎市でも支流の平瀬川が氾濫し、高津区のマンション1階の住民男性が水死。市内では計3カ所で計25ヘクタールの浸水被害が発生した。川崎市市民ミュージアム(中原区)は地下収蔵庫が水没し、収蔵品が大きな被害を受けた。

 

多摩川の治水計画見直しへ 想定超の流量、温暖化も考慮

(カナロコ 神奈川新聞2022/10/10 05:40) https://www.msn.com/ja-jp/news/national/e5-a4-9a-e6-91-a9-e5-b7-9d-e3-81-ae-e6-b2-bb-e6-b0-b4-e8-a8-88-e7-94-bb-e8-a6-8b-e7-9b-b4-e3-81-97-e3-81-b8-e6-83-b3-e5-ae-9a-e8-b6-85-e3-81-ae-e6-b5-81-e9-87-8f-e3-80-81-e6-b8-a9-e6-9a-96-e5-8c-96-e3-82-82-e8-80-83-e6-85-ae/ar-AA12LVCI

東日本台風の被害を教訓とした緊急対策で、しゅんせつや河道の掘削、樹木の伐採などが進む多摩川=川崎市幸区

記録的豪雨となった2019年10月の台風19号(東日本台風)で、増水した多摩川のピーク流量が中流部で毎秒7千立方メートル(推定値)に上り、国の治水計画の想定値を上回っていたことが、国土交通省京浜河川事務所の試算で分かった。同台風では川崎市や東京都世田谷区などで深刻な水害が起きただけに、国交省は既存の計画に基づいて河川改修を進めても、気候変動で今後さらに激しさを増す雨を安全に流せないと判断。治水計画を見直し、抜本的な対策を検討する考えだ。

流量の試算結果は、今月3日に開かれた多摩川河川整備計画有識者会議で報告された。公表まで3年近くを要した理由について、同事務所は「慎重に検討したため」と説明した。

東日本台風が伊豆半島へ上陸した19年10月12日を中心に、多摩川の上流部では観測史上最多の雨量を記録。激流によって中流部の水位計は流失した。そのためピーク時の詳細な水位を把握できていなかったが、流されずに残っていた予備の水位計の記録を基に当時の流量を試算したという。

 

国交省関東地方整備局

第3回多摩川河川整備計画有識者会議(令和4年10月3日)https://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000456.html

会議資料

1.資料目録  2.議事次第   3.委員名簿  4.座席表  5.資料-1 多摩川河川整備計画有識者会議規則  6.資料-2 多摩川河川整備計画有識者会議運営要領

7.資料-3 令和元年東日本台風(台風第19号)を踏まえた対応についてhttps://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000840783.pdf

 

多摩川水系河川整備計画【直轄管理区間編】平成13年3月(平成29年3月変更) https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000669666.pdf

戦後最大規模の洪水を安全に流すことを目標とする。(戦後最大規模の洪水とは、多摩川では昭和 49 年9月の台風 16 号、浅川では、昭和 57 年9月の台風 18 号を指す。)

 

多摩川水系河川整備基本方針  https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/pdf/tama-1.pdf

https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/pdf/tama-2.pdf

①多摩川は、首都圏の中枢部を流れており、その氾濫区域内には、首都機能を確保するための大動脈となる港湾、鉄道、国道及び空港等が多数存在しており、その重要度等を考慮して、計画の規模を1/200と設定

 

 

2022年9月の台風14号では九州地方と中国地方の9ダムで緊急放流

2022年10月1日
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今年(2022年)9月18~20日の台風14号では九州地方と中国地方の9ダムで緊急放流が行われました。

1 緊急放流を行ったダム

事前にダムの水位を下げる事前放流を行ったダムは国土交通省のHPに載っているのですが

(「台風第14号による被害状況等について(第11報)」https://www.mlit.go.jp/common/001514738.pdf 事前放流を実施 128ダム(うち、利水ダム77))、

氾濫を起こす危険性がある緊急放流を行ったダムについてはその情報が国土交通省本省のHPには掲載されていません。

そこで、国交省の河川環境課流水管理室に聞きました。

次の9ダムでした。

九州地方

○ 市房ダム(球磨川水系、熊本県)

○ 松尾ダム(小丸川水系、宮崎県)

○ 渡川(どかわ)ダム(小丸川水系、宮崎県)

○ 綾北ダム(大淀川水系、宮崎県)

○ 立花ダム(一ツ瀬川水系、宮崎県)

○ 祝子(ほうり)ダム(五ヶ瀬川水系、宮崎県)

○ 北川ダム(五ヶ瀬川水系、大分県)

中国地方

○ 向道ダム(錦川水系、山口・広島県)

○ 小瀬川ダム(小瀬川水系、山口・広島県)

 

九州地方の7ダムの緊急放流は九州地方整備局のHP https://www.qsr.mlit.go.jp/site_files/file/bousai2209220201%281%29.pdf に掲載されましたが、中国地方整備局のHPには見当たりませんでした。

ダムの恐ろしさは計画規模を超える洪水が来ると、調節機能を失ってしまって緊急放流を行うことです。

ダム下流はダムの洪水調節を前提とした治水計画になっているので、氾濫の危険性が高まります。特にダム直下の住民は緊急放流で命の危険にさらされることになります。

2018年7月の西日本豪雨では愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムが緊急放流を行い、深刻な洪水被害を引き起こしました。野村ダムの下流では、ダムの放流により、5人が死亡し、約650戸が浸水しました。鹿野川ダムの下流でもダムの放流により、3人が死亡し、約4600戸が浸水しました。

今年9月の台風14号では幸いなことに9ダムの緊急放流で人の命が奪われることはなかったようですが、ダム緊急放流の恐ろしさを伝えるニュースが流れました。

 

2 球磨川・市房ダムの緊急放流

国土交通省八代河川国道事務所が9月29日に次の発表を行い、NHKが下記の通り、報じました。

その要点は、9月の台風14号において市房ダムの緊急放流を1時間遅らせたことにより、市房ダムに最も近い多良木町の観測所では氾濫危険水位を38センチ上回るところ、氾濫危険水位を超えなかったということです。

球磨川流域住民のダムへの不信感に対応するため、市房ダムが効果を発揮したことを伝えることを目的にした発表のようです。

しかし、果たしてどうでしょうか。

下記のグラフは国交省と熊本県のデータを使って、多良木、人吉の当日の水位、および市房ダムの流入量・放流量の時間変化を見たものです。、

市房ダムより約9㎞下流の球磨川・多良木地点では、緊急放流の影響で5時頃に水位が少し上がっただけでした。

中流の人吉地点では、緊急放流の影響は明確ではなく、球磨川流域の降雨によって、水位がかなり上昇しました。

流域面積が小さい市房ダムの治水効果は元々小さなものであって、人吉あたりではほとんど期待できません。市房ダムはむしろ、緊急放流時のダム直下での氾濫が心配されるダムです。

ダムを前提としない河道整備をきちんと行うことに力を注ぐべきです。

 

令 和 4 年 9 月 2 9 日    八代河川国道事務所 熊本県

台風第14号洪水における市房ダムの効果について《速報値》 http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/site_files/file/news/r4/20220929kisya.pdf

 

球磨川上流の市房ダム 緊急放流遅らせ下流の水位上昇抑える
(NHK熊本放送局2022/09/29 09:52) https://www3.nhk.or.jp/lnews/k/kumamoto/20220929/5000017111.html

今月中旬に熊本県に接近した台風14号に伴う大雨を受け、球磨川の上流にある市房ダムで行われた「緊急放流」について、国などが分析したところ、県が当初の予定よりも1時間放流を遅らせたことで、氾濫危険水位を超えることなく下流の水位を抑えられたことがわかりました。
今月18日から19日にかけて熊本県に接近した台風14号の影響で、球磨川上流にある水上村の市房ダム周辺では、おととしの記録的な豪雨を上回る雨が降って大量の水がダムに流れ込み、27年ぶりに緊急放流が行われました。
緊急放流は、放流を段階的に増やし、最終的にはダムに流入する水と同じ程度の量を流す緊急的な操作で、たまった水を一気に流すわけではありませんが、下流の水位が増すため、雨量などに応じた調整が必要とされます。
県は当初、市房ダムの緊急放流について今月19日の午前2時から行う予定でしたが、下流の水位が上昇していたことなどから、1時間遅らせて午前3時に放流を始めました。
この判断について、国と県が分析したところ、市房ダムに最も近い多良木町の観測所では、緊急放流を当初の予定通りに実施していた場合、氾濫危険水位を38センチ上回る3メートル98センチまで水位が上昇したとみられるということです。
緊急放流を1時間遅らせた結果、観測所の水位は氾濫危険水位を超えず、水位の抑制につながったとみられるということです。

 

2022年9月18~19日の球磨川の観測水位と市房ダムの流入・放流量の時間変化 (国交省と熊本県のデータを使って作成)

流域面積 市房ダム158㎢  多良木250㎢  人吉1137㎢ (市房ダムは河口から約93㎞)

田んぼダムについての情報のまとめ

2022年10月1日
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最近、田んぼダムについての記事、ニュースが多いので、田んぼダムについての情報をまとめておきます。

 

1 田んぼダムの主たる考案者である吉川夏樹氏の説明

  • 田んぼダムの適切な装置の設計 新潟大学農学部 吉川夏樹

https://www.bing.com/videos/search?&q=%e7%94%b0%e3%82%93%e3%81%bc%e3%83%80%e3%83%a0+%e4%bb%95%e7%b5%84%e3%81%bf&view=detail&mid=1D8E39191BB5F1CD07711D8E39191BB5F1CD0771&form=VDQVAP&ru=%2Fvideos%2Fsearch%3Fq%3D%25e7%2594%25b0%25e3%2582%2593%25e3%2581%25bc%25e3%2583%2580%25e3%2583%25a0%2B%25e4%25bb%2595%25e7%25b5%2584%25e3%2581%25bf%26qpvt%3D%25e7%2594%25b0%25e3%2582%2593%25e3%2581%25bc%25e3%2583%2580%25e3%2583%25a0%2B%25e4%25bb%2595%25e7%25b5%2584%25e3%2581%25bf%26FORM%3DVDRE&rvsmid=D213EA59A70AE798F464D213EA59A70AE798F464&ajaxhist=0

約30分の映像による説明があります。

また、次の説明もあります。

近年、毎年のように大規模な水害が発生していますが、その原因として、雨の降り方の変化をはじめ、農地転用や、耕作放棄地の増加などが考えられます。
水田のあぜは、雨水を一時的にため込む機能がありますが、水田が減少すれば、この機能も弱体化し、水が一気に河川に流れ込み、氾濫につながります。
明治以降の河川整備は、水の流れを押しとどめるために、堤防設置などが主流でしたが、ここへきて異なる動きが見られます。私が専門とする「田んぼダム」も、そのひとつ。
「田んぼダム」は水田の排水口の口径を狭める「仕掛け」を設置して、大雨が降ったときに水田から排水されるピーク時の流出量を少なくする仕組みです。
遊水地のように河川の水を水田に導いて貯水するのではなく、水田に降った雨水を、一時的にとどめる仕組みです。排水口からの水量を調整する「適切な仕掛け」を設置すれば、水田から水があふれるリスクを低くできます。
排水口を完全にふさいで、全降水量を水田にためてしまった場合、300mmの雨が降れば、水田の水深は30cmになりますが、田んぼダムは排水しながら雨水をためるので、水深はもっと浅くなります。私が開発した仕掛けは、30年に1度の大雨(170mm/日)が降った場合でも、排水量を7割程度カットできるように設計しています。
新潟県で記録された1日あたり180ミリという、50年に1度クラスの大雨が降ったても、ピーク時の水深は11cm程度。田植え直後ならイネが水没しますが、水害が起こりやすい梅雨以降であれば、稲も水没しない程度に成長しています。
新潟県や農協とともに、水田への影響を検討した結果、仮に1年に1回、11cm程度の深さの水に浸かっても、生育にはほとんど影響がないことがわかりました。
しかし、最近では「不適切な仕掛け」を使った装置も出回っているので、注意が必要です。私の設計した装置では、排水口に取り付ける「堰(せき)板A」とは別に、内側にもう1枚、穴が空いた板Bを設置できる仕組みになっています。
水深を調節するには、排水マスの前面にある堰板Aで行いますが、水田から水を抜く中干し時には、これを外して水を抜いたのち、これとは別に、マスの内側に、穴があいたもう1枚の板Bを設置します。
この装置だと、小雨程度では田んぼダムを実施しても、雨水は常に排水されっぱなしになるので、水田にはたまりません。
大雨で水深が増えて、排水マスに流入する水量が、堰板の穴から排出できる水量を上回ったときに初めて、田んぼダムの効果を発揮します。要するに、大雨が降った場合だけ効果が現れるので、通常の中干し期の管理と変わりません。
一方、堰板の構造が異なる不適切な装置の場合、小雨であっても、水田に水がたまってしまううえ、中干し期には水を抜けない状況が起こりやすくなるので要注意です。
田んぼダムは「適切な仕掛け」を採用すれば、イネへの影響はほとんどありません。ここに田んぼダムを推進してきた新潟市が発行するパンフレットがありますので、ご参照ください。

吉川氏は、田んぼダムは適切な仕掛けにしなければ効果がないと、強く指摘しています。田んぼダムは下図の通り、流量調整版を新たに設ける機能分離型と、そうではない機能一体型があり、一般には後者の方が多いようですが、吉川氏は前者でなければ効果がなく、持続しないと指摘しています。


2 スマート田んぼダム

最近実用化されているのは、スマート田んぼダムです。田んぼの排水門に通信機能をつけて、スマートフォンやパソコンから遠隔操作するものです。

大雨が予想されるときには、市町村の職員がスマートフォンやパソコンで排水門を遠隔操作して、田んぼに張ってあった水をあらかじめすべて外に排水して水位を下げ、排水門を閉鎖して雨水を貯留し、降雨後に排水門を遠隔操作で開けて水位を下げるものです。

スマート田んぼダムについてはすでに9月9日のメール「浸水対策のカギにぎる?“田んぼ”が秘める可能性」

(NHK2022年9月8日 17時30分) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220908/k10013808881000.html でお知らせしました。

スマート田んぼダムを導入した兵庫県たつの市では、農家の協力を得て市内24か所、約9haの水田に遠隔操作のできる排水門を設置し、すべての田んぼで排水すれば、約9000トンの雨水をためることができることになっています。

「スマホで簡単に水管理ができる! 田んぼのダム化に対応する自動排水制御装置とは?」株式会社 笑農和)(アグリジャーナル) https://agrijournal.jp/renewableenergy/58384/ という情報もあります。

通常の田んぼは稲作の時期によって水深が確保されていますので、田んぼダムで貯留できる雨水は10㎝程度ではないかと思いますが、スマート田んぼダムは事前に排水するので、貯留できる雨水の量をもっと大きくすることができます。

田んぼの畔の高さは約30cmですので、最大で20cm程度、雨量と同様に単位をmmで示せば、最大で200mm程度までの雨水貯留ができるのではないでしょうか。

スマート田んぼダムがこれからどんどん普及していくことを私は期待します。

 

3 農林水産省の動き

農林水産省も田んぼダムの普及に向けての動きを示しています。

2021年4月に流域治水関連法が成立したことを受けて、

農林水産省農村振興局のHP 6.農業用水 流域治水への取組み https://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/kurasi_agwater/ryuuiki_tisui.html

に田んぼダムの情報が次のように掲載されています。

○「田んぼダム」の手引き (概要版) 平成4年4月  農林水産省 農村振興局 整備部

https://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/kurasi_agwater/attach/pdf/ryuuiki_tisui-66.pdf

○「田んぼダム」の手引き  平成4年4月  農林水産省 農村振興局 整備部

https://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/kurasi_agwater/attach/pdf/ryuuiki_tisui-67.pdf

○「田んぼダム」の手引き 参考資料

https://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/kurasi_agwater/attach/pdf/ryuuiki_tisui-65.pdf

その中に上記のスマート田んぼダムの情報も掲載されています。

 

自然と人々の生活に大きな影響を与えるダム建設をやめて、田んぼダムなどの本来の流域治水が進められていくことを強く期待します。

 

最高裁、人権侵害認めず 石木ダム工事継続差止訴訟

2022年9月21日
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2022年9月16日付で、最高裁は石木ダム工事継続差止訴訟上告審で「上告・上告受理申立 却下」を決定しました。

人権侵害・憲法違反を認めない、いわゆる「三行(みくだり)決定」です。

最高裁がこれほど酷い石木ダム事業の実態を直視できずに、人権擁護の立場に立てないのは何故か? 深刻な問題です。

「最高裁決定」とマスコミ報道を下記に掲載しましたので、参照願います。
2022年9月16日 決定

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