水源連:Japan River Keeper Alliance

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「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」の報告

2月4日に「八ツ場あしたの会」の総会があり、嶋津の方から「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」を報告しました。

報告の要点を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

当日使ったスライドは八ツ場ダム問題と全国のダム問題20230204 -4をご覧ください。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」は次の5点で構成されています。

Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること

Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。

Ⅲ 水道等の需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。

Ⅳ ダム問題の経過

Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし

 

八ツ場ダム問題と全国のダム問題

Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること(スライド№2~5)

1 吾妻渓谷の変貌(スライド№3)

2 八ツ場ダム湖の浮遊性藻類の増殖による水質悪化(スライド№3)

3 夏期には貯水位が大きく下がり、観光地としての魅力が乏しくなる八ツ場ダム湖(スライド№4)

写真1 国交省のフォトモンタージュ(打越代替地から見た八ツ場ダム湖)

写真2 2022年7月の八ツ場ダム貯水池の横壁地区の岸壁(湖岸の岩肌が28m以上も剥き出し)

4 八ツ場ダムは堆砂が急速に進行し、長野原町中心部で氾濫の危険性をつくり出す。(スライド№5)

5 ダム湖周辺での地すべり発生の危険性(スライド№5)

 

Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。(スライド№6~19)

1 八ツ場ダムの緊急放流の危険性(スライド№7~8)

2019年10月の台風19号で、八ツ場ダムが本格運用されていれば、緊急放流を行う事態になっていました。

2 ダムの緊急放流の恐さ(スライド№9~13)

ダムは計画を超えた洪水に対しては洪水調節機能を喪失し、流入洪水をそのまま放流します(緊急放流)。

ダム下流の河道はダムの洪水調節効果を前提とした流下能力しか確保しない計画になっているので、ダムが洪水調節機能を失えば、氾濫の危険性が高まります。

しかも、ダムは洪水調節機能を失うと、放流量を急激に増やすため、ダム下流の住民に対して避難する時間をも奪ってしまいます。

3 ダムの効果が小さかった2015年9月の鬼怒川水害(スライド№14~18)

4 治水対策としての八ツ場ダムの問題点(スライド№19)

ダムの治水効果は下流へ行くほど、減衰していくので、八ツ場ダムの治水効果は利根川の中下流部ではかなり減衰すると考えられ、八ツ場ダムは利根川の治水対策としてほとんど意味を持ちません。

地球温暖化に伴って短時間強雨の頻度が増す中、八ツ場ダムに近い距離にあるダム下流の吾妻川では、むしろ、八ツ場ダムの緊急放流による氾濫を恐れなければなりません。

 

Ⅲ 水道等の水需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。(スライド№20~25)

1 八ツ場ダムの利水予定者と参画量(スライド№21)

2 水道用水の需要は縮小の一途(スライド№22~23)

全国の水道の水需要は2000年代になってからは確実な減少傾向となり、その傾向は今後も続いていきます。(減少要因:人口減、節水機器の普及、漏水の減少等)

3 群馬県の例「前橋市等の自己水源(地下水)の削減と水道料金の値上げ」(スライド№24)

4 石木ダム建設の主目的「佐世保市水道の水源確保」の虚構(スライド№25)

 

Ⅳ ダム問題の経過(スライド№26~45)

1 ダムの建設基数の経過(スライド№27)

2 ダム事業見直しの経過(スライド№28~33)

○1996年からダム事業が徐々に中止

○田中康夫・長野県知事の脱ダム宣言

○淀川水系流域委員会の提言(2005年1月)

3 2009年9月からのダム見直しの結(スライド№34~39)

2009年9月に発足した民主党政権は早速、ダム見直しを明言したものの、私たちの期待を裏切る結果になりました。

4 八ツ場ダムの検証結果 事業継続  2011年12月 (スライド№40~41)

八ツ場ダム事業推進の真の目的は約6500億円という超巨額の公費を投入することにあった。

5 ダムの検証状況 (2018年10月1日現在)(スライド№42~44)

中止ダムのほとんどはダム事業者の意向によって中止になったのであって、適切な検証が行われた結果によるものではありませんでした。

6 中止になったダムの建設再開を求める動き(スライド№45)

 

Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし(スライド№46~54)

1 国交省の「流域治水の推進」のまやかし(スライド№47)

流域治水には治水対策としてありうるものがほとんど盛り込まれています。治水ダムの建設・再生、遊水地整備もしっかり入っており、「流域の推進」が従前のダム事業推進の隠れ蓑にもなっています。球磨川がその典型例です。

2 球磨川流域治水プロジェクト(スライド№48~49)

本プロジェクトは流水型ダム(川辺川ダム)の整備、市房ダム再開発、遊水池整備などに、約4336億円という凄まじい超巨額の公費を球磨川に投じていくことになっています。

また、川辺川ダムはすでに約2200億円の事業費が使われていますので、現段階の川辺川ダムの総事業費は約4900億円にもなる見通しです。

このように、球磨川では2020年7月大水害への対応が必要ということで、球磨川流域治水プロジェクトの名のもとに、凄まじい規模の公費が投じられようとしています。

3 流水型川辺川ダムへの疑問(1)2020年7月球磨川豪雨の再来に対応できない川辺川ダム(スライド№50~51)

川辺川ダムがあっても、2020年7月球磨川水害の死者を救うことができませんでした。球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、支流の氾濫によるものでしたから、川辺川ダムがあっても命を守ることができませんでした。

4 流水型川辺川ダムへの疑問(2)自然に優しくない流水型川辺川ダム(スライド№52~54)

「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されています。既設の流水型ダム5基の実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっています。

 

5 国の流域治水関連法と流域治水プロジェクト(スライド№55)

国交省は2021年5月に「流域治水関連法」をつくり、全国の河川で「流域治水プロジェクト」を進めつつあります。このプロジェクトは施策がとにかく盛沢山で、ダム建設、遊水池整備、霞堤の保全、堤防整備、雨水貯留施設の整備など、治水に関して考えられるものは何でも入っているというもので、実際にどこまで実現性があり、有効に機能するものであるかは分かりません。それは、基本的には従前の河川・ダム事業を「流域治水プロジェクト」の名のもとに続け、河川予算を獲得していくものであって、そこには「脱ダム」の精神が見られません。

その典型例が「球磨川流域治水プロジェクト」です。このプロジェクトは流水型川辺川ダムの建設等に球磨川に超巨額の公費を投入することを目的にしています。そのプロジェクトで流域の人々の安全が確保されるかというと、実際はそうではなく、更に球磨川の自然も大きな影響を受けるものになっています。

 

 

脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし

2023年1月22日
カテゴリー:

手持ち資料と最新データを使って、「脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし」をスライド形式の報告でまとめました。

その報告を水源連のHPにアップしました。脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし 2023年1月25日

詳細はそのスライドで説明しております。

その主な内容を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「「脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし」は次の4点で構成されています。

Ⅰ 「流域治水」を前面に打ち出した国土交通省

Ⅱ 球磨川水系の「流域治水」の現実(流水型川辺川ダム等の推進の隠れ蓑)

Ⅲ 淀川水系における脱ダムへの取組み(本来の「流域治水」は脱ダムの理念から生まれた)

Ⅳ 滋賀県の流域治水推進条例と国の流域治水関連法

 

Ⅰ 「流域治水」を前面に打ち出した国土交通省(スライド№2~13)

Ⅰ-1  国交省「水管理・国土保全局」 2023年度予算(スライド№3~4)

従前の河川・ダム事業は「流域治水の本格的実践」という名称になって予算要求が行われるようになりました。

 Ⅰ-2  国交省の「流域治水施策集」(スライド№5~7)

流域治水には治水対策としてありうるものがほとんど盛り込まれており、治水ダムの建設・再生、遊水地の整備もしっかり入っています。

 Ⅰ-3 流域治水関連法ができたのは2021年5月(スライド№8)

流域治水関連法(「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律」)ができたのは、2021年5月で、内容は多岐にわたっています。

流域水害対策計画の策定、雨水貯留浸透施設の整備計画の認定、貯留機能保全区域の指定、浸水被害防止地域の指定と建築物の規制、河川法の改正(利水ダムの事前放流の拡大)、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

流域治水関連法は大変わかりづらい法律です。国交省がその後、同法を従前の河川事業を推進する隠れ蓑にしたことは改正当時の予想を超えるものがありました。

 Ⅰ-4 利水ダムの事前放流について(スライド№9~11)

流域治水関連法の関連で位置づけられた「利水ダムの事前放流」は法改正前の2020年度から国土交通省の通達で始まっています。実際にダムの事前放流がどれほどの効果があるかは、疑問です。事前放流をするためには、豪雨の数日前から予測する必要がありますが、気象予測は進歩しているとはいえ、正確な予測はそれほど易しいことではありません。2022年も台風14号に備えて、ダムの事前放流が数多くのダムで行われましたが、ほとんどが空振りであったようです。

 Ⅰ-5  流域治水プロジェクト(2021年3月~)(スライド№12~13)

国が始めた「流域治水プロジェクト」は施策がとにかく盛沢山で、ダム建設、遊水池整備、霞堤の保全、堤防整備、雨水貯留施設の整備など、考えられるものは何でも入っているというもので、実際にどこまで実現性があり、有効に機能するものであるかは分かりません。

時にはダム建設をカモフラージュするための隠れ蓑にもなり、また、住民に移転を迫る遊水地の建設を推進するものにもなっています。

 

Ⅱ 球磨川の「流域治水」の現実 川辺川ダム等の推進の隠れ蓑(スライド№14~35)

Ⅱ-1 球磨川流域治水プロジェクトの内容(スライド№15~17)

本プロジェクトには流水型ダム(川辺川ダム)の整備、市房ダム再開発、遊水池整備もしっかり入っています。

その対策費用はロードマップに河川対策約1636億円と記されていますが、流水型ダムの費用は含まれていません。

流水型川辺川ダムの残事業費は約2700億円ですので、上述の1636億円と合わせると、これから球磨川には約4336億円という凄まじい超巨額の公費が投じられていくことになります。

そして、市房ダム再開発は内容がまだ決まっていないということで、その再開発の事業費は含まれていません。

また、川辺川ダムはすでに約2200億円の事業費が使われていますので、現段階の川辺川ダムの総事業費は約4900億円にもなる見通しです。

このように、球磨川では2020年7月大水害への対応が必要ということで、球磨川流域治水プロジェクトの名のもとに、凄まじい規模の公費が投じられようとしています。

それによって、流域の人々の安全が確保されるかというと、実際はそうではなく、一方で、このプロジェクトは球磨川の自然に大きな影響を与え、住民に移転を迫る遊水地の建設を推進するものにもなっています。

 Ⅱ-2 流水型川辺川ダムへの疑問(1)(2020年7月球磨川豪雨の再来に対応できない川辺川ダム)(スライド№18~23)

球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民でした。球磨村と人吉市の犠牲のほとんどは、球磨川の支川(小川、山田川等)の氾濫が球磨川本川の氾濫よりかなり早く進行したことによるものでしたから、当時、川辺川ダムがあって本川の水位上昇を仮に小さくできたとしても犠牲者の命を救うことはできませんでした。

2020年7月豪雨による球磨川大氾濫の最大の要因は球磨川本川と支川の河床掘削があまり実施されてこなかったことにあります。

国交省は川辺川ダム事業の必要性が損なわれないように、すなわち、川辺川ダムの推進のために、球磨川は高い河床高の状態が据え置かれてきました。そのことが主たる要因になって、2020年7月洪水で球磨川が大氾濫し、凄まじい災厄がもたらされました。

 Ⅱ-3 流水型川辺川ダムへの疑問(2)(自然に優しくない流水型川辺川ダム)(スライド№24~29)

「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されています。現時点で既設の流水型ダムは5基ですが、それらの実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっています。

  1.  生物にとっての連続性の遮断
  2.  ダム貯水域は流入土砂、土石が堆積した荒れ放題の野原へ
  3.  ダム下流河川の河床の泥質化、瀬や淵の構造の衰退
  4.  河川水の濁りが長期化
  5.  けた違いに大きい流水型川辺川ダム

Ⅱ-4 「遊水地の整備」への疑問 (スライド№30~31)

先祖代々の土地、現在の生活、コミュニティを喪失させる遊水地は安易につくるべきではありません。遊水地の洪水調節容量は合わせて約600万㎥ですから、その治水効果は小さなものです。そのために90世帯も移転しなければならないのでしょうか。

 Ⅱー5 「市房ダム再開発」への疑問(スライド№32)

市房ダムは再開発ではなく、環境問題(下流河床の軟岩露出)と緊急放流の常態化問題から考えて撤去すべきダムです。

 Ⅱー6 問題だらけの球磨川流域治水プロジェクトは根本からの見直しが必要(スライド№33)

球磨川流域治水プロジェクトは、「流域治水」を名乗っているものの、必要性が疑わしい流水型川辺川ダムの整備などに超巨額の公費を投入するというもので、大規模河川事業が中心になっており、「流域治水」という言葉が受けるイメージとは大きく異なるものになっています。

このプロジェクトの最大の目的は、2020年7月熊本豪雨の再来に対して人々の命を守ることであるはずなのに、超巨額の公費を球磨川に投入すること自体がこのプロジェクトの目的になってしまっています。

そして、これらの大規模河川事業によって、球磨川の自然が損なわれることは必至であり、そして、流域住民の生活も多大な影響を与えるものになっています。

私たちは「流域治水」という言葉に惑わされることなく、球磨川において流域住民の命と生活を守る真に有効な治水対策、球磨川と川辺川の自然を損なわない治水対策を追求していかなければなりません。

【参考】蒲島郁夫・熊本県知事と潮谷義子・前知事(スライド№34~35)

蒲島郁夫・熊本県知事は2008年に川辺川ダムの白紙撤回を求めた知事として評価されていますが、もともと、蒲島氏は決して脱ダム派の知事ではありません。蒲島氏は当時、推進の方向に舵を切ろうと考えていたと思われますが、その見解を発表する前に、ダムサイト予定地の相良村長と、ダムの最大の受益地とされていた人吉市長が川辺川ダムの白紙撤回を表明したことにより、蒲島氏は予定を変え、「球磨川は県民の宝であるから、川辺川ダムの白紙撤回を求める」との見解を発表したと推測されます。

一方、前知事、潮谷義子さんは川辺川ダムを中止させるため、2001年から懸命の努力を続けました。川辺川ダムに対して懐疑的な姿勢をとり続け、荒瀬ダム撤去の路線を敷いた潮谷義子・前知事は信念の人であると思いますが、蒲島氏はそうではなく、所詮はオポチュニストではないでしょうか。

 

Ⅲ 淀川水系における脱ダムへの取組み(本来の「流域治水」は脱ダムから生まれた)(スライド№36~57)

Ⅲ-1 淀川水系流域委員会の脱ダムへの取組み(スライド№37~40)

淀川水系の脱ダムへの取り組みは、宮本博司氏が中心になって進められました。宮本氏は国交省近畿地方整備局淀川河川事務所長として淀川水系流域委員会(2001年~)の立ち上げに尽力し、2006年に退職してからは、新淀川水系流域委員会(2007~2009年)には一市民として応募し、委員長に就任しました。

淀川水系流域委員会は2005年1月に淀川水系の五つの新規ダム計画(大戸川(だいどがわ)ダム、丹生(にう)ダム、川上ダム、余野川ダム)を原則として中止することを求める提言をまとめました。

さらに、新淀川水系流域委員会が2008年4月に、国交省が中止を決定した余野川ダムを除く4ダムについて原則中止を提言しました。

 Ⅲ-2 4府県知事、大戸川ダム反対の共同意見を発表(共同意見を主導したのは滋賀県の嘉田由紀子知事)(スライド№41~42)

淀川水系流域委員会の提言がベースになって、大阪、京都、滋賀、三重の4府県知事は2008年11月、大戸川ダムを「計画に位置づける必要はない」とする共同意見を発表しました。

4府県知事の大戸川ダム反対の共同意見を主導したのは滋賀県の嘉田由紀子知事(現・参議院議員)です。嘉田さんは環境問題に取り組む研究者として、淀川水系におけるダム建設の見直しを主導しました。

 【参考】淀川水系5ダムのその後(スライド№43~46)

淀川水系流域委員会が中止を求めた5ダムのうち、余野川ダムは2008年に、丹生ダムは2016年に中止されました。しかし、残りの3ダムは中止されませんでした。

大戸川ダムについては嘉田氏の後継として滋賀県知事となった三日月大造氏が2019年4月、淀川水系の大戸川ダムの建設を容認する方針を正式発表しました。

天ヶ瀬ダム再開発と川上ダムに対しては住民による反対運動が続けられてきました。残念ながら、両ダムとも事業が進められ、終盤の段階になっています。

 Ⅲ-3 流域治水の推進で模範となるのは滋賀県の条例 (嘉田由紀子知事が制定)(スライド№47~59)

流域治水の推進に関して模範となるのは、2014年3月に制定された「流域治水の推進に関する条例」(当時の知事は嘉田由紀子・現参議院議員)です。

この流域治水は流域全体で洪水を受け止め、水害を最小限にしていく治水対策を進めなければならないという理念のもとに、河川整備だけでなく、土地利用や建築の規制によって、地域の浸水被害の低減を図るものです。

この流域治水推進条例で特筆すべきことは、浸水警戒区域(200年確率の降雨が生じた場合に、想定浸水深がおおむね3mを超える土地の区域)を指定し、住居の用に供する等の建築物を建築しようとする建築主は、あらかじめ、知事の許可を受ける必要があるとしたことです。この指定区域が徐々に増えてきています。

そして、浸水警戒区域内で既存住宅を建て替える場合、2階が浸水しないようにするための嵩上げなどの費用の一部を支援・助成する制度が2017年6月につくられました。400万円を上限として、嵩上げなどの費用の1/2を県が補助するもので、この補助制度も画期的なものです。

浸水警戒区域の指定は、滋賀県の「地先の安全度マップ」に基づいて行われています。「地先の安全度マップ」は「頻繁に想定される大雨(1/10)」から「計画規模を超える(一級河川整備の将来目標を超える)降雨規模(1/100, 1/200)」までを想定し、降雨規模1/10、1/100、1/200の三つがつくられています。そのうちの1/200の「地先の安全度マップ」の範囲が浸水警戒区域の指定対象になります。

「地先の安全度マップ」は滋賀県が独自に➀ 複数の河川の同時はん濫を考慮、② 内水はん濫を考慮、➂未完成堤防の破堤条件を厳しく考慮して作成した画期的なもので、国、他の自治体も大いに参考にすべきです。

滋賀県の上記の浸水警戒区域への取組みに対して、国の流域治水関連法の浸水被害防止区域の記述は極めてあいまいであり、実効性が不明です。

 

Ⅳ 滋賀県の流域治水推進条例と国の流域治水関連法(スライド№60)

滋賀県の流域治水推進条例はダム等に頼らずに、流域全体で洪水を受け止め、水害を最小限にしていく治水対策を進めなければならないという理念のもとに策定されたものです。

一方、国の流域治水関連法は基本的には従前の河川・ダム事業を「流域治水プロジェクト」の名のもとに続け、河川予算を獲得していくものであって、そこには「脱ダム」の精神が見られません。だからこそ、浸水被害防止区域の記述は極めてあいまいであり、実効性が不明になっているのです。

 

以上です。

最も基本となる治水対策「河道整備」

2022年12月18日
カテゴリー:

手持ち資料と最新データを使って、「最も基本となる治水対策「河道整備」」をスライド形式の報告でまとめました。

その報告を水源連のHPにアップしました。

最も基本となる治水対策「河道整備」2

その主な内容を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「最も基本となる治水対策「河道整備」は次の三つで構成されています。

Ⅰ 破堤・溢水の危険性のある箇所を早急に改善

Ⅱ 計画河床高を確保するための河床掘削の実施

Ⅲ 越流による破堤の危険性がある箇所へ耐越水堤防の導入

洪水を流域全体で受け止めて氾濫を防ぐ「流域治水」の導入も必要ですが、何よりも優先すべきは「河道整備」です。国が2021年度から始めた「流域治水」は施策が盛沢山で、どこまで有効なものなのか、分からないものです。そして、時にはダム建設をカモフラージュするための隠れ蓑にもなり、また、住民に移転を迫る遊水地の建設を推進するものにもなっています。この現在の国の「流域治水」の問題点は別稿で述べることにします。

 

Ⅰ ダム偏重の河川行政が引き起こした鬼怒川水害、鬼怒川下流ではダムの治水効果が減衰していた(スライド№4~13)

(1)2015年9月の鬼怒川下流の大氾濫(スライド№4~6)

破堤・溢水の危険性のある箇所が長年放置されてきている河川が少なくありません。その端的な例が2015年9月の「関東・東北豪雨」で大氾濫した利根川水系の鬼怒川下流部です。この洪水では鬼怒川の左岸25㎞付近で大規模な溢水があり、左岸21㎞地点で堤防が決壊しました。鬼怒川下流部の左岸25㎞付近、左岸21㎞付近は左岸、右岸を通じて、現況堤防高が周辺より一段と低く、大規模溢水や堤防決壊の危険性が最も高い場所であり、2015年9月水害では溢水、破堤が現実のものとなりました。

(2)鬼怒川水害訴訟(スライド№7~10) 

2018年8月7日、国を被告として、住民らが「鬼怒川水害」国家賠償請求訴訟を提訴しました。

2022年7月22日、茨城県常総市の鬼怒川水害訴訟において国の責任を認める判決が水戸地裁でありました。水害裁判で国に賠償を命じる判決は極めて異例で、画期的でしたが、判決が認めた国の瑕疵は若宮戸の溢水だけであって、上三坂の堤防決壊については国の瑕疵を認めておらず、合点がいかない判決でした。原告の一部と国は2022年8月4日、国の責任を一部認めた水戸地裁判決を不服として東京高裁に控訴しました。

2015年9月の大水害後、44㎞地点まで鬼怒川の大改修が行われました(。鬼怒川中下流部が安全な河道に変わったことは喜ばしいことですが、今回の緊急対策プロジェクトの事業費約780億円のほんの一部を使って、最も危ない上三坂と若宮戸の改修が早期に実施されていれば、2015年9月水害の被災者が塗炭の苦しみを受けることがなかったのにと思われてなりません。

(3)鬼怒川下流部の現状 (「鬼怒川緊急対策プロジェクト」2015年12月~2021年5月)(スライド№11~12) 

2015年9月の大水害後、44㎞地点まで鬼怒川の大改修が行われました。鬼怒川中下流部が安全な河道に変わったことは喜ばしいことですが、今回の緊急対策プロジェクトの事業費約780億円のほんの一部を使って、最も危ない上三坂と若宮戸の改修が早期に実施されていれば、2015年9月水害の被災者が塗炭の苦しみを受けることがなかったのにと思われてなりません。

(4)全国の河川で破堤・溢水の危険性の高い箇所の改善措置が急務(スライド№13)

鬼怒川下流部のように破堤・溢水の危険性のある箇所が長年放置されてきている河川が少なくないと思います。

全国の河川の堤防の状態をきちんと調査して、破堤・溢水の危険性の高い箇所をピックアップして、改善措置を講じることが急務です。

 

Ⅱ 計画河床高を確保するための河床掘削の実施(スライド№14~26)

(1)治水計画に表示されなくなった計画河床高(スライド№14~18)

計画河床高とは、各治水計画において確保すべき各地点の河床高であって、河床掘削によって達成する目標の河床高です。ところが、現在策定されている各水系の河川整備基本方針にも河川整備計画にも計画河床高までの掘削が図示されなくなっています。

しかし、かつて策定されていた各水系の直轄河川改修計画書では計画河床高の値が明記され、工事実施基本計画では計画河床高までの掘削が図示されていました。

計画河床高が治水計画に書かれなくなったのは今から20年くらい前のことで、その真の理由は、ダム事業推進に障害となるものを排除することにあったのではないかと推測されます。

(2)球磨川の現在の河床高は計画河床高よりかなり高い(スライド№19~20)

球磨川の2016年度平均河床高を見ると、計画河床高より1.5~2m程度高くなっているところが多いので、球磨川は計画河床高までの河床掘削が行われていれば、2020年7月洪水の最高水位が1.5~2m程度低くなっていた可能性が高いと考えられます。

(3)2020年7月球磨川水害の死者のほとんどは支川の氾濫によるもの(スライド№21~24)

2020年7月洪水の球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、そのほとんどは小川や山田川などの氾濫によるものでした。

球磨村や人吉市で支川が本川より先に氾濫して多数の死者が出たのは、球磨川およびその支川の河床高が高いまま放置されてきたからではないかと考えられ、球磨川と支川の河床掘削が本来の計画通りに実施していれば、2020年7月洪水の氾濫をかなり抑止できたのではないでしょうか。

(4)2022年策定の球磨川水系河川整備計画では2020年7月の球磨川洪水の再来に対応できるのか?(スライド№25)

流水型川辺川ダムの建設を中心とする治水計画では2020年7月の球磨川洪水の再来に対応できません。

国交省や熊本県は流水型川辺川ダムで本川の水位を下げれば、本川からのバックウォーター現象による支川の水位上昇を抑止できると説明していますが、2020年7月の球磨川水害はこのバックウォーター現象で支川が氾濫したのではありません。

小川や小田川などの支川について河床掘削などの対策をきちんと講じないと、2020年7月の球磨川水害の再来に対応できないにもかかわらず、2022年8月策定の球磨川水系河川整備計画は支川の治水対策がおろそかにされています。小川については何の改修もしないことになっています。

(5)総務省の緊急浚渫推進事業費の創設(スライド№26)

都道府県管理の地方河川について河川やダムの土砂浚渫費を総務省が支援する仕組みが2020年度に創設されました。

5年間の制度で浚渫費の70%を地方交付税で措置するもので、2020年度900億円、5年間で4900億円の予定です。

地方河川だけなく、国の河川についても同様な制度を設け、しかも、5年間ではない永続的な制度とし、全国の河川の河床掘削をどんどん推進すべきです。

 

Ⅲ 越流による破堤の危険性がある箇所へ耐越水堤防の導入(スライド№27~28)

別稿「耐越水堤防の経過と現状(封印が解かれつつある耐越水堤防工法)」で述べたように、耐越水堤防は比較的安価な費用で堤防を強化し、洪水時の越水による破堤を防ぐ工法です。

国交省は2000年代になって川辺川ダム等のダム事業推進の障壁になると考え、耐越水堤防の普及にストップをかけ、耐越水堤防工法は長らく実施されませんでした。

その後、耐越水堤防工法は20年間近く封印されてきましたが、2019年10月の台風19号水害で破堤した千曲川の穂保(ほやす)(長野市)などで耐越水堤防工法が導入され、封印が解かれつつあります。

現在の河川は、堤防の高さが確保されたとしても、河道掘削等の遅延により、計画規模以下の洪水であっても容易に計画高水位を上回り、さらには越水する可能性を否定することはできない状況となっています。

堤防決壊の7~8割以上は越水による破堤ですので、越水しても簡単に破堤しない堤防に強化することが急務です。

私たちは国交省等の河川管理者に各河川での耐越水堤防工法の早期実施を働きかけていく必要があります。

 

Ⅳ 「最も基本となる治水対策「河道整備」 小括(スライド№29)

(1)  鬼怒川鬼怒川下流部のように破堤・溢水の危険性のある箇所が長年放置されてきている河川が少なくないと思います。

全国の河川の堤防の状態をきちんと調査して、破堤・溢水の危険性の高い箇所をピックアップして、改善措置を講じることが急務です。

(2)計画河床高とは、各治水計画において確保すべき各地点の河床高であって、河床掘削によって達成する目標の河床高ですが、現在策定されている各水系の治水計画では計画河床高が明記されず、河床掘削がおろそかにされています。2020年7月の球磨川水害は河床掘削がきちんと実施されなかったことが水害激化の大きな要因になりました。各河川で本来の計画河床高を目指した河床掘削を推進することが重要です。

(3)堤防決壊の7~8割以上は越水による破堤ですので、越水しても簡単に破堤しない堤防に強化することが急務です。越水に対して一定の安全性を有する堤防に変える耐越水堤防工法を実施する必要があります。国交省等の河川管理者に各河川での耐越水堤防工法の早期実施を働きかけていく必要があります。

ダムの治水効果の幻想

2022年12月16日
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手持ち資料と最新データを使って、「ダムの治水効果の幻想」をスライド形式の報告でまとめました。

その報告を水源連のHPにアップしました。ダムの治水効果の幻想 2022年12月

その主な内容を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「ダムの治水効果の幻想」は次の三つで構成されています。

Ⅰ ダム偏重の河川行政が引き起こした鬼怒川水害、鬼怒川下流ではダムの治水効果は減衰していた

Ⅱ 2019年10月の台風19号で八ツ場ダムが利根川の氾濫を防いだという話は本当か?

Ⅲ ダム緊急放流の下流への影響は? 2022年9月の市房ダム(球磨川)緊急放流の下流への影響を検証する

 

Ⅰ ダム偏重の河川行政が引き起こした鬼怒川水害、鬼怒川下流ではダムの治水効果が減衰していた(スライド№2~23)

(1)2015年9月の鬼怒川下流の大氾濫(スライド№2)

2015年9月の「関東・東北豪雨」で鬼怒川下流部が大氾濫し、茨城県常総市などで多くの住宅等が全壊や大規模半壊などの被害を受けました。災害関連死と認定された12人を含む14人が死亡しました。

(2)鬼怒川ではダム優先の河川事業が行われてきた(スライド№3~5) 

鬼怒川では上流部に治水目的がある大型ダムが4基もあり、鬼怒川上流では屋上屋を架すように大型ダムが建設されてきました。最新の湯西川ダムは2012年に完成したばかりです。

4ダムの治水容量は八ツ場ダムの治水容量6,500万㎥の約2倍もあり、2015年の洪水ではルール通りの洪水調節が行われました。しかも、鬼怒川では4ダムの集水面積が全流域面積の1/3を占めています。

しかし、鬼怒川下流では堤防が決壊し、大規模な溢水がありました。ダムでは流域住民の安全を守ることができませんでした。

(3)国交省の報告書の数字を使って、2015年9月洪水における鬼怒川下流部でのダムの治水効果を検証する(スライド№6~10)

国交省の計算値を使って検証すると、上流4ダムの洪水調節は下流部では洪水ピーク流量4,180㎥/秒を4,000㎥/秒へ、約180㎥/秒、すなわち、5%弱引き下げただけでした。

一方、ダム地点の洪水ピークの削減量は2,000㎥/秒以上ありました。

このように、上流4ダムによる削減効果は下流では1/10以下へ低減していました。

(4)ダムによる洪水ピークの削減量が下流で激減する理由(スライド№11~13)

ダムによる洪水ピークの削減量が下流で激減する理由は次の二つが考えられます。

  1.  ダム地点の洪水ピークと下流部の洪水ピークの時間的なずれ

② 勾配がゆるい河道では河道での貯留効果が働いてピークの突出が小さくなり、ダム地点のピークカット量の効果も小さくなる

(5)2015年9月洪水では鬼怒川水系4ダムの一つ、川治ダムで緊急放流の危険性もあった(スライド№14~15)

2015年9月洪水では鬼怒川水系4ダムの一つ、川治ダムで緊急放流の危険性があって、日光市藤原地区の約140戸が一時避難しました。

(6)鬼怒川ではダム偏重の河川行政が行われ、河川改修がなおざりにされてきた(スライド№16)

近年では湯西川ダムに巨額の河川予算(1,840億円)が投入される一方で、河川改修の予算は毎年度10億円程度にとどめられてきました。

(7)鬼怒川氾濫は25㎞付近の大規模溢水と21㎞地点の決壊で起きた(スライド№17~20)

鬼怒川下流部の氾濫は若宮戸での大規模溢水(25.35km地点と24.75km地点)、上三坂の決壊(21km地点)で引き起こされました。

(8)鬼怒川水害訴訟(スライド№21~23)

2018年8月7日、国を被告として、住民らが「鬼怒川水害」国家賠償請求訴訟を提訴しました。

2022年7月22日、茨城県常総市の鬼怒川水害訴訟において国の責任を認める判決が水戸地裁でありました。水害裁判で国に賠償を命じる判決は極めて異例で、画期的でした。

しかし、上三坂の堤防決壊については国の瑕疵を認めておらず、このことについては全く合点がいかない判決でした。

原告の一部と国は2022年8月4日、国の責任を一部認めた水戸地裁判決を不服として東京高裁に控訴しました。東京高裁に舞台を移して、裁判での新たな闘いが始まりました。

 

 201910月の台風19号で八ツ場ダムが 利根川の氾濫を防いだという話は本当か?(スライド№24~33)

2019年10月の台風19号で試験湛水中の八ツ場ダムが利根川の氾濫を防いだという話が一部報道されましたが、それは事実でしょうか?

(1)八ツ場ダム治水効果の推測計算 利根川中流部の最高水位を17㎝下げただけ(スライド№24~32)

この洪水の八ツ場ダムの治水効果については国交省が計算結果を示していないので、国交省の過去の報告書のデータを使って本洪水への八ツ場ダムの効果を推測計算しました。

2019年10月から試験湛水が始まった八ツ場ダムでは、貯水量が10月12日9時から13日6時までに7,500万㎥も一挙に増加しました。そのことから、八ツ場ダムが大きな役割を果たした話が出回ったのですが、事実はどうでしょうか?

まず、2019年10月台風19号で、利根川中流部の最高水位は9.67mまで上昇し、計画高水位9.90mに近づきましたが、堤防高に対してまだ余裕があり、氾濫するような状況ではありませんでした。

国交省が2009年に行った詳細な計算結果によれば、栗橋の近傍地点(江戸川上流端)での八ツ場ダムの洪水最大流量の削減率は50年に1回から100年に1回の洪水規模では3%程度です。2019年10月台風19号洪水は50~100年の規模の洪水と考えられるので、この3%の削減率を使って、八ツ場ダムがない場合の本洪水の最高水位を計算します。

このデータから八ツ場ダムがない場合の本洪水の最高水位を推測計算すると、9.84mになります。

実績の9.67mより17㎝高くなりますが、堤防高との差は2m以上あり、八ツ場ダムがなくても、氾濫するような状況ではありませんでした。

このように、2019年10月の台風19号で八ツ場ダムが利根川の氾濫を防いだという話はフェイクニュースにすぎません。

利根川の水位が計画高水位の近くまで上昇した重要な要因として、適宜実施すべき河床掘削作業が十分に行われず、そのために利根川中流部の河床が上昇してきていることがあります。

(2)国交省による本洪水の八ツ場ダムの治水効果は未検証(スライド№33)

国交省は本洪水について7ダムの治水効果として八斗島地点で約1mの水位低下があったと発表しましたが、各ダムの効果は未検証としており、八ツ場ダムの効果も示していません。

 

Ⅲ ダム緊急放流の下流への影響は? 2022年9月の市房ダム(球磨川)の緊急放流を検証する(スライド№34~37)

上述の通り、鬼怒川水系4ダムと八ツ場ダムの例から見て、ダムの治水効果というものはダムの近くではあっても、下流に行くにつれて、次第に減衰し、ダムからの距離が大きくなると、かなり小さくなっています。

このことの裏返しの現象として、ダムの緊急放流の影響も下流に行くにつれて次第に小さくなっていくと考えられます。

(1)2022年9月中旬の台風14号における市房ダムの緊急放流(スライド№35)

2022年9月中旬の台風14号に伴う大雨により、球磨川の市房ダム(熊本県)で9月19日3時から緊急放流が2時間行われました。

(2)ダムの緊急放流の影響も下流に行くにつれて減衰(スライド№36~37)

この緊急放流の下流への影響がどうであったかを実績データで見ると、市房ダムより約9㎞下流の約24下流の一武(いちぶ)地点では市房ダム緊急放流による流量増加の傾向そのものが見られなくなっています。

下流でのダムの治水効果減衰の裏返しの現象として、ダムの緊急放流の影響も下流に行くにつれて次第に小さくなっていました。

 

Ⅳ 「ダムの治水効果の幻想」小括(スライド№38)

(1) 利根川水系鬼怒川では上流部に4基の大型ダムを建設するダム偏重の河川行政が進められてきました。2015年9月の鬼怒川水害では上流ダム群の治水効果は下流では大きく減衰しており、改修がなおざりにされてきた下流部で大氾濫が起きました。

(2) 2019年10月の台風19号で試験湛水中の八ツ場ダムが利根川の氾濫を防いだという話が一部報道されましたが、国交省の過去の報告書のデータを使って推計すると、利根川中流部に対する本洪水の八ツ場ダムの水位低減効果は小さなものでした。また、利根川中流部は当時、氾濫するような状況ではありませんでした。

(3) 2022年9月の市房ダム(球磨川)の緊急放流による下流への影響を国交省等のデータで検証すると、約24km下流の一武地点では市房ダム緊急放流に流量増加の傾向そのものは見られなくなっていました。ダムの治水効果減衰の裏返しの現象として、ダムの緊急放流の影響も下流に行くにつれて次第に小さくなると考えられます。

もちろん、ダムの緊急放流はダム下流の住民にとって恐ろしい現象ですので、その問題は別稿で述べることにします。

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