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原告側控訴の方針 新潟・福島豪雨訴訟 一部は断念

2018年4月1日
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先にお伝えしたように、2011年7月の新潟・福島豪雨の只見川氾濫の浸水被害は、発電用ダムの堆砂を取り除かなかったことが原因だとして、金山町の住民が東北電力と電源開発の二社を訴えた裁判の判決が3月26日にありました。残念ながら、住民側の敗訴でした。
原告の約半数がこの判決を不服として控訴する方針を固めました。その記事を掲載します。

原告側控訴の方針 新潟・福島豪雨訴訟 一部は断念
(福島民報2018/03/31 09:48)http://www.minpo.jp/news/detail/2018033150413

2011(平成23)年の新潟・福島豪雨で只見川氾濫による浸水被害を受けた住民がダム管理者の東北電力と電源開発に損害賠償を求めた訴訟で、原告は請求棄却の判決を不服として控訴する方針を固めた。30日に金山町で開いた会合で申し合わせた。
原告団34人のうち少なくとも17人が控訴する。残る17人の一部は高齢による体の衰えなどを理由に控訴を断念する意思を示している。
原告団事務局長の黒川広志さん(76)=金山町=は「注意義務違反と水害との因果関係を認めないという判決には納得できない」と話した。
地裁会津若松支部は26日の判決で、東北電力の注意義務違反を認定した一方、浸水被害との因果関係は認められないとして原告の請求を棄却した。

新潟・福島豪雨
只見川ダム訴訟 控訴へ 原告側、1審判決不服で /福島
(毎日新聞福島版2018年4月1日)https://mainichi.jp/articles/20180401/ddl/k07/040/049000c

2011年7月の新潟・福島豪雨で浸水被害を受けた金山町の住民ら34人が只見川氾濫の責任を問いダム管理者の東北電力とJパワー(電源開発)を相手に起こした損害賠償請求訴訟で、原告側は請求を棄却した福島地裁会津若松支部の判決を不服として仙台高裁に控訴する方針を決めた。
30日に町開発センターで開いた集会で表明した。原告団の中には高齢などを理由に訴訟の継続を諦める住民もいるため、控訴の意思を示しているのは34人のうち少なくとも17人という。

熊本県  荒瀬ダム撤去完了 国内初、清流生かし自然再生へ

2018年3月28日
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荒瀬ダムの撤去について毎日新聞と朝日新聞の記事を掲載します。
毎日新聞の記事に書いてあるように、荒瀬ダムの撤去を決めたのは熊本県の潮谷義子前知事です。蒲島郁夫現知事は撤去を取りやめようとしましたが、潮谷前知事が漁協の同意なしでダムの存続ができないように路線を敷いていましたので、蒲島知事はやむなく、撤去を進めることになりました。
荒瀬ダムより10㎞上流に電源開発の瀬戸石ダムがあり、2014年に水利権の更新が行われましたが、蒲島知事はいとも簡単に同意し、ダムの存続を容認しました。また、蒲島知事は必要性がない県営の路木ダム(天草市)の建設を強引に進めました。川辺川ダムに関してもダム中止の世論の盛り上がりで蒲島氏は中止方針を表明しなければならなかったからであって、ダムに関して蒲島氏は問題の多い知事であると思います。

熊本県  荒瀬ダム撤去完了 国内初、清流生かし自然再生へ

(毎日新聞熊本版2018年3月27日 20時07分) http://mainichi.jp/articles/20180328/k00/00m/040/089000c

(写真)荒瀬ダムがあった地点の球磨川。右岸の取水口や門柱は遺構として残される=熊本県八代市で2018年3月27日、笠井光俊撮影

国内初の本格的なダムの撤去となった熊本県八代市坂本町の県営荒瀬ダムの工事が終わり27日、現地で撤去完了式典が開かれた。初の撤去事例としてその過程が克明に記録された他、瀬や砂州などかつての清流が復活し、生態系への好影響が期待されている。
荒瀬ダムは球磨川中流に1955年に建設された発電専用ダム(高さ約25メートル、幅約211メートル)。ダム湖にたまった汚泥による環境悪化などから、地元の要望を受けた潮谷義子前知事が2002年に7年後の撤去開始を決めた。
その後、08年4月に就任した蒲島郁夫知事が「撤去費用が存続費用を上回る」と存続に方針転換。しかし、水質悪化で損害を受けたとする漁協が存続に反対したため蒲島知事は再び撤去を決め、12年に撤去工事を開始した。総事業費は約84億円で、うち16億円は国から補助を受けた。
式典で蒲島知事は「国内初の撤去として貴重な財産であり、後世に確実に伝えていく」と述べた。
この日は、ダム湖のあった区間をボートで下るラフティングのイベントもあり、代表の溝口隼平さん(36)は「撤去の終わりが川再生の始まり。再生した川がちゃんと生活の場になることを見てほしい」と話した。
ただ、約10キロ上流に別のダム、河口付近には堰(せき)があり、それらで止められた土砂などの問題が残る。荒瀬ダム撤去を求める住民団体で会長を務めた本田進さん(84)は「昔のように子どもが飛び込んで遊べる川に戻れるか、まだまだいろいろと取り組まねばならない」と気を引き締めた。【笠井光俊】
ことば「荒瀬ダム」
戦後の電力不足に対応するため、熊本県が球磨川の河口から約20キロの中流域に建設したコンクリート製ダム。総貯水量1014万立方メートルで、ダム湖の長さは10キロ近い。約600メートル離れた藤本発電所に送水して発電し、年間供給電力量は約7468万キロワット時。県内での電気供給割合は建設当初約16%だったが、撤去決定前は1%弱まで下がっていた。

熊本)県営荒瀬ダム撤去 戻った球磨川の流れ若者呼ぶ

(朝日新聞熊本版2018年3月28日)

熊本)球磨川再生、途上の声も 荒瀬ダム撤去、今月完了

2018年3月27日
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日本初の本格的なダム撤去となる熊本県・荒瀬ダムの撤去事業がまもなく終了します。その記事を掲載します。
日本では残念ながら、荒瀬ダムに続くダム撤去の話がありません。荒川の中流にある玉淀ダム(埼玉県寄居町)について5年以上前にダム撤去を求める運動がありましたが、その後の情報がありません。

熊本)球磨川再生、途上の声も 荒瀬ダム撤去、今月完了

(朝日新聞熊本版2018年3月27日)

<福島・只見川ダム訴訟>住民の訴え棄却「堆砂」被害否定

2018年3月27日
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2011年7月の新潟・福島豪雨で只見川があふれ、浸水被害を受けたのは、発電用ダムの堆砂を取り除かなかったからだとして、金山町の住民が東北電力と電源開発の二社を訴えた裁判の判決が昨日、ありました。その記事を掲載します。
残念ながら、住民側の敗訴でした。
発電ダムの堆砂がひどく進行して河床が大幅に上昇し、それが氾濫を大きく拡大させたことは明瞭であるのに、その確かな事実を判決は認めませんでした。理解しがたい判決です。
1969年(昭和44年)に2011年の洪水にほぼ匹敵する規模の洪水がありました。その時の痕跡水位を見ると、2011年洪水の痕跡水位より数メートル以上低い状態でした。
(「平成23年7月新潟・福島豪雨での只見川等の災害に関する情報連絡会」http://www.hrr.mlit.go.jp/agagawa/agagawa/saigai/top.html)
ダムが完成してからそれほど長くない1969年の河床が元河床に近い状態であることを考えると、堆砂による河床上昇が2011年洪水の水位を大きく上昇させたことは明らかです。
それにもかかわらず、昨日の判決はそのことを認めませんでした。不可解です。

福島)只見川ダム訴訟、住民側の請求棄却

(朝日新聞福島版2018年3月27日)

 

<福島・只見川ダム訴訟>住民の訴え棄却「堆砂」被害否定
(河北新報2018年03月27日)http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201803/20180327_63016.html

2011年7月末の新潟・福島豪雨の只見川氾濫に伴う浸水被害を巡り、福島県金山町の住民ら34人が流域の発電用ダムを管理する東北電力と電源開発(Jパワー)に約3億3700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福島地裁会津若松支部は26日、原告の請求を棄却した。
判決はダムに堆積した土砂「堆砂」を取り除かなかった東北電の注意義務違反を認めたが、「天災だった」として被害との因果関係を否定した。
佐野信裁判長は、堆砂に伴う河床上昇による被害発生の恐れを認識できたとして「洪水被害があった1969年当時の河床高までしゅんせつすべき義務を負っていた」と東北電の注意義務違反を認定した。
その上で、しゅんせつをしたとしても「被害を回避できたとは認められない。天災の結果というよりほかにない」と結論付けた。
Jパワーのしゅんせつ船が上流のダムから流出し、下流のダムのゲートをふさいで水位を上昇させたとの原告側の主張は「証拠がない」と退けた。
原告団は「憤りを禁じ得ない。2社と国、福島県に浸水被害防止対策を強く要請する」との声明を発表。代理人の市川守弘弁護士は「住民生活を守るにはダム撤去しかない」と述べる一方、堆砂除去の義務を認めた点は「全国初の判決で一つのステップになる」と指摘した。
東北電の担当者は「当社の主張を理解していただいた。地域の安全・安心確保へ対策に取り組む」と話した。Jパワーは「安全第一の発電所運営に努める」などとの談話を出した。
判決によると、2011年7月29、30両日の豪雨で只見川の水位が上昇し、原告の住宅や田畑が浸水した。

<福島・只見川ダム訴訟>「責任明白なのに…」原告団、悔しさにじむ
(河北新報2018年03月27日)http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201803/20180327_63015.html
只見川氾濫に伴う浸水被害で東北電力などの責任を問い続けてきた福島県金山町の原告団は、今年2月に78歳で急逝した元町長の斎藤勇一さんが団長を務めてきた。親族や原告は26日、請求棄却の福島地裁会津若松支部判決に「責任は明白なのに残念。良い報告ができない」と肩を落とした。
斎藤さんの長男の会社員恭範さん(46)=東京都=は父に代わり判決を聞いた。閉廷後の取材に遺影を抱えて「父が一番無念だろう。みんなが『ダムさえなければ』と思っている。(ダムの土砂除去を怠った東北電の)責任は明らかなのに」と悔しさをにじませた。
斎藤さんは訴訟で意見陳述に立ち、電力会社の過失責任を強調。ダムの管理状況を確かめるため、全国で視察を繰り返した。
会津若松市内で記者会見した原告側代理人の市川守弘弁護士は「(斎藤さんは)ダムの撤去に向けた活動にも力を入れていた。今後は撤去のための訴訟も考えなければならない」と語った。
一方、ダムにたまった土砂「堆砂」について、東北電が除去義務を怠ったことを判決が認めた点には、原告から評価の声も。世帯のほぼ半数が半壊した同町西谷地区の黒川広志さん(76)は「安心して住める河川沿いを守るため、判決をてこに、より厳しい管理を事業者などに求める」と強調した。
(写真)斎藤さんの遺影を手に判決について語る恭範さん

只見川ダム訴訟 原告側の請求棄却 「被害は天災の結果」 地裁会津若松支部 /福島
(毎日新聞福島版 2018年3月27日)https://mainichi.jp/articles/20180327/ddl/k07/040/199000c

2011年7月の新潟・福島豪雨で発生した水害は、只見川流域の発電用ダムにたまった土砂を適切に取り除かなかったのが原因だとして、金山町の住民ら34人がダムを管理する東北電力とJパワー(電源開発)に計約3億3800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が26日、福島地裁会津若松支部であった。佐野信裁判長は「被害は天災の結果というよりほかなく、土砂との因果関係は認められない」として原告側の請求を棄却した。【湯浅聖一、宮崎稔樹】
訴訟は、ダムにたまった土砂と水害の因果関係や、電力会社が水害を予見・回避する責任の有無が大きな争点となった。
原告側代理人によると、治水機能を持たない「利水ダム」の土砂処理を巡る司法判断は全国初。原告側は控訴を検討している。
判決で佐野裁判長は、東北電力に水害を予見し、浚渫(しゅんせつ)などで回避する義務があるとして一部過失を指摘したものの、土砂と水害との因果関係については「土砂を除去すれば被害を回避、軽減できたとは認められない」とした。原告側は水害時、本名▽上田(うわだ)▽宮下▽滝--の4ダムの総貯水容量に占める堆積(たいせき)土砂の割合は19~37・7%で、全国平均の8%より高いと指摘していた。
Jパワーの浚渫船が流出して本名ダムの放流ゲートを塞ぎ、上流部にある川の水位を上昇させる要因になったという原告側の主張も「閉塞(へいそく)が生じたと認めるに足りる証拠がない」と退けた。
原告団の市川守弘弁護士は「水害を回避できないのに浚渫を義務づける矛盾した判決。ダム撤去に向けた提訴も考えなくてはいけない」と批判した。

判決を受け、原告団は会津若松市内で記者会見した。副団長の横田正男さん(66)は「被害を軽くみられたような判決だ」と批判。
「あれだけの土砂があって水害にならないわけがない。因果関係が認められないとは、常識とかけ離れている」と指摘した。
会見には原告団長を務め、先月78歳で亡くなった元金山町長・斎藤勇一さんの長男恭範(やすのり)さん(46)=東京都品川区在住=も出席した。
勇一さんは「住民の安全な暮らしを実現することが大事」が口癖で、原告団の精神的支柱だった。恭範さんは「地域のために闘った父の遺志を引き継ぎ、控訴するのであれば協力したい」と話した。

「想定外では済まされない」自宅や田畑が水没 長谷川義晴さん
「水害は自然災害ではなく、電力会社がダムの管理を怠った人為的災害だ」。原告の一人で、新潟・福島豪雨により、自宅1階や田畑が水没した金山町越川の長谷川義晴さん(77)は法廷でそう訴えてきた。だが、26日の判決は、原告側の請求棄却となり、「このままで安全安心な生活ができるのか疑問だ」と悔しさをにじませた。
自宅は本名ダムの上流約2キロの只見川沿いにある。豪雨時は「大したことない」と思っていたが、川の水位は次第に上昇。町の避難勧告を受けて近くの神社に避難した。翌朝、集落一帯は水浸しになっており、自宅は床上約2メートルまで浸水。1階は家財道具がめちゃくちゃで、厚さ20~30センチの泥もたまっていた。ぼうぜんとするしかなかった。
本名ダム建設に伴って、現在の場所に転居を余儀なくされたのが1953年。事業者の東北電力に「安全」と言われたという。
2014年の提訴以来、毎回、裁判を傍聴した。15年9月には電力会社の過失を訴える意見陳述もした。初めての経験で、法廷に立つ前は、自宅で妻澄子さんを前に何度も練習した。「裁判長の前でうまく話せたらいいね」と励ましてくれたのがうれしかった。
その澄子さんは昨年12月に逝去。豪雨以降、心労もあってか体調を崩しがちだったという。勝訴を期待していただけに「判決を聞けず残念だっただろう」と思いやった。
提訴から約4年。原告団には高齢で亡くなる人や、負担の大きさを考えて訴訟の継続を諦める声も出始めている。だが、長谷川さんは決意を新たにする。「想定外の災害では済まされない。電力会社の過失が認められるまで闘いたい。理解してくれるよな」。妻の墓前でそう報告するつもりだ。【湯浅聖一】

只見川ダム訴訟判決骨子
・水害は天災の結果で、土砂と水害との因果関係は認められない
・浚渫船がダムの放流ゲートを塞いだと認める証拠がない
■ことば
新潟・福島豪雨
2011年7月27~30日に新潟・福島両県で発生した豪雨災害。只見町で24時間降水量が観測史上最大となる527ミリを記録し、三島、柳津、南会津3町の150世帯511人に避難指示、喜多方、只見、金山など7市町の2571世帯6486人に避難勧告が出た。只見川の氾濫で住宅や道路、JR只見線などが損壊。金山町の住宅被害は全壊23棟、大規模半壊33棟など計104棟に上った。豪雨災害を巡っては、只見町の住民も15年2月に国や県、Jパワーなどを相手取り、計約7億1600万円の損害賠償を求める訴えを福島地裁会津若松支部に起こしている。

(写真)妻澄子さんの遺影を手に水害当時を振り返る長谷川義晴さん=金山町越川で

 

大滝ダムからの取水低調  流域自治体、事業費負担で得た「枠」余る

2018年3月24日
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2013年に完成した大滝ダム(総貯水容量が近畿地方で最大)の開発水の大半が使われていないという記事を掲載します。
それも、流域自治体が自己水源の使用量を極力減らし、大滝ダムの開発水を優先して利用してもそのような状態であると推測されます。
大滝ダムといえば、試験湛水の最中に深刻な地すべりを引き起こして、ダム湖周辺の集落(白屋地区)が移転を余儀なくされたダムとして、よく知られています。
この地すべり対策で、大滝ダムの完成は約9年延びました。

大滝ダムからの取水低調  流域自治体、事業費負担で得た「枠」余る
完成まで半世紀、人口減や節水普及が影響

(日本経済新聞 電子版2018/3/23 16:00) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28485110T20C18A3LKA000/

紀ノ川水系の治水や利水を目的に建設され、近畿最大の総貯水量を誇る大滝ダム(奈良県川上村)が23日で完成から5年を迎えた。流域の自治体は建設費など事業費や毎年かかる維持管理費を負担して河川から水をくみ上げる(取水)権利を得たものの、権利の枠を使い切れず、水余りになっている。和歌山県橋本市は水道水が計画の2割、奈良県の水道水と和歌山市の工業用水は同5割しか使えていないことが各自治体への聞き取りで分かった。大滝ダムは1959年の伊勢湾台風で起きた紀ノ川洪水対策として62年の計画発表から2013年3月23日の完成まで50年以上を要したが、その間に人口減や節水機器の普及などが進み、見込んでいた水需要が減ったことが響いている。

(写真)総貯水量が近畿最大の大滝ダム(奈良県川上村)

ダムは洪水対策のために建設されるケースが多いが、ダムに水をためて計画的に放流すれば下流で取水しても川が枯れる恐れがなくなる。このため、自治体は確保したい取水量に応じてダムの事業費の一部を負担し、水をくむ権利を確保する。大滝ダムの場合、事業費3640億円のうち約757億円を取水する自治体などが負担した。自治体はこのほかにも毎年、国土交通省がダムを維持管理する費用や、立地する川上村への交付金を負担している。
橋本市は事業費106億円を負担して1日当たり8万6400立方メートルを取水する権利を確保した。しかし、16年度に市民へ給水した量は1日平均で約1万7000立方メートルにとどまる。高度成長期以降に市内各地でニュータウンが計画され水需要も伸びると見込んだが、人口減に加えて洗濯機、トイレなど節水型機器の普及で当てが外れた。
市は給水するにあたって取得した権利を行使していない。和歌山県が保有する取水権(1日3万8800立方メートル)の一部(同2万4192立方メートル)を「譲って」もらっているのだ。市の権利を行使した場合は規定によって川上村に毎年、平均約4千万円(市の試算)の交付金を支払わなければならないが、取水権を持て余す県から融通してもらっているため、市として交付金を払う義務は生じない。県が支払うべき交付金やダムの維持管理費を肩代わりするものの、差し引きで年間約1千万円の負担軽減になるという。
県はダム維持管理費や交付金の負担がゼロになり、市・県ともメリットが生まれている。取水権の融通はもともと想定されていなかったが、「特殊なケースで、近畿ではこの1件のみ」を近畿地方整備局が認めた。自治体の財政負担への配慮もあったとみられる。
奈良県は370億円を負担して流域自治体で最大の1日約30万立方メートルの取水権を得て、奈良市を含む奈良県北中部へ水道水を供給している。16年度の1日平均給水量は約14万立方メートルと権利の半分しか使っていないが、取得した権利が大きいためにダム維持管理費は年間8996万円、川上村への交付金は同1億3796万円と流域自治体で最大だ。「高度成長期にダムが計画され、水道水需要も急増すると見込んでいたが、節水技術の進展で水需要は伸びなかった。人口減よりも節水の普及の影響の方が大きい」と県水道局ではみる。
和歌山市は1日13万3000立方メートルの水道水を取水する権利に対して1日平均9万3998立方メートルを給水しており水余りは少ない方だが、工業用水は1日4万4千立方メートルの半分しか使っていない。雑賀崎工業団地への工場立地などを見込んでいたが、進出企業が増えず工業用水の使用量が低調なのが原因だ。
大滝ダムは完成まで半世紀を要したダムとして知られており、52年に調査を始め、2015年に本体工事に着手したばかりの八ツ場ダム(群馬県長野原町)と並び称せられることがある。八ツ場ダムの水利権を使う埼玉県、東京都、千葉県、群馬県、茨城県などは大滝ダム下流域の自治体と人口や財政規模が異なるものの、水余りが起きた場合の対応を考える上で参考になるのかもしれない。

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