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黒部川…去年の連携排砂にかわる放流「周辺環境への大きな影響見られず」 黒部川河口域漁業者らの被害は続く
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1月26日、黒部川の出し平ダム(1985年完成)と宇奈月ダム(2001年完成)の土砂を下流に流し出すための連携排砂に関する黒部川ダム排砂評価委員会が開かれました。
そのニュースを掲載します。
連携排砂は、去年の夏は雨が少なかったため、実施できなかったが、9月に堆積した土砂の腐敗が進むのを防ぐための放流が行われました。
委員会では、この放流によって川の水質や生物への影響を与えるデータに大きな変動はなく、周辺環境への大きな影響はみられなかったと結論付けました。
評価委員会の案内は、「黒部川におけるダムの排砂について」 国土交通省黒部河川事務所 https://www.hrr.mlit.go.jp/kurobe/index.html に掲載されています。
黒部川のダム排砂については長い経過があります。下記の関連資料1,2,3もお読みください。
関西電力の「出し平ダム」から排出されたヘドロ等の有機物が海底に堆積し、黒部川河口以東の海域においてヒラメやワカメが獲れなくなったとして、同海域で操業する漁業者らが、排砂の差止めや損害賠償等を求めた訴訟を起こしました。
2008年11月26日、富山地裁は、関西電力に対し、黒部川河口東の海域で操業するワカメ栽培組合に対して約2,730万円を支払うよう命じる判決を言い渡し、一部勝訴しましたが、ヒラメ等の漁獲減少(=刺し網漁業者の損害)と排砂との因果関係は認めませんでした。(関連資料3)
2011年4月4日、名古屋高裁金沢支部で和解が成立しましたが、原告側が賠償請求を取り下げるかわりに、関電側が排砂の方法について漁業者の意見を聞くことで双方が折り合うというもので、漁業者らの実質敗訴でした。(関連資料2)
1月26日の黒部川ダム排砂評価委員会の結論は国交省の筋書きどおりのものであって、今後も黒部川河口域で操業する漁業者らの被害が続いていくことになります。
黒部川…去年の連携排砂にかわる放流「周辺環境への大きな影響見られず」排砂評価委員会
(富山テレビ 2023年1月26日 木曜 午後8:32) https://www.fnn.jp/articles/-/477051
黒部川の2つのダムに堆積した土砂の腐敗を防ぐために行われた去年の放流で、周辺環境への大きな影響はみられなかったと結論づけられました。
海洋地質学などの専門家でつくる黒部川ダム排砂評価委員会で26日、まとめられたものです。
黒部川の出し平ダムと宇奈月ダムの土砂を下流に流し出すための連携排砂は、去年の夏は雨が少なかったため実施できませんでした。
そのため堆積した土砂の腐敗が進むのを防ごうと、土砂を排出するための専用のゲートを開けて新しい水を送り込む放流が行われました。
委員会では、この放流によって川の水質や生物への影響を与えるデータに大きな変動はなく、周辺環境への大きな影響はみられなかったと結論付けました。
連携排砂を行う国土交通省と関西電力は、この評価を踏まえ、今後はより自然に近い形での連携排砂を目指したいとしています。
(映像より)
宇奈月ダム
黒部川の出し平ダムと宇奈月ダム
関連資料1 黒部川の出し平ダム、宇奈月ダムからの土砂流出が大幅増 連携排砂 (八ツ場あしたの会HP https://yamba-net.org/19665/ より)
2017年1月18日 関連ニュース
富山湾に流れ込む黒部川は、有名な黒部ダムの下流に関西電力の出し平ダム(1985年完成)や国土交通省の宇奈月ダム(2001年完成)があります。
黒部川上流は地質がもろく、ダム計画の想定を超えて各ダムに土砂がたまってきています。ダムにたまる土砂は、ダムの貯水量を減らし、海岸浸食の原因ともなりますので、出し平ダムと宇奈月ダムでは、連携排砂という方法でダムにたまった土砂を下流に流す試みが続けられています。しかし、ダムにたまった土砂はヘドロ化し、富山湾の生態系に深刻なダメージを与えたとして、過去には漁民が裁判に訴える事態も起こりました。
関連資料2 出し平ダム排砂訴訟、漁業者と関電和解 https://blog.goo.ne.jp/kurobegawa/e/c5a4c0c3d2a6d47471e46e427ea76675
2011-04-09
4月4日、名古屋高裁金沢支部で和解が成立しました。
「黒部川の出し平ダムの排砂で漁業被害を受けたとして、河口周辺の漁業者らが、関西電力に排砂の差し止めや約6億2400万円の損害賠償などを求めた訴訟の控訴審は4日、名古屋高裁金沢支部で和解が成立した。原告側が賠償請求を取り下げるかわりに、関電側が排砂の方法について漁業者の意見を聞くことで双方が折り合った。漁業者らにとっては、勝訴の展望が開けないなかで苦渋の決断となった」
「原告団の代表・佐藤宗雄さん(62)は「最後まで立証したかったが、裁判所のハードルを越えるのは難しかった」と残念がった。それでも、「少しでも海が良くなれば、という一心でやってきた。声を上げるのは、死ぬまでやっていきたい」と語った。」
「関電側は「今後も、関係者の意見や要望を反映し、排砂方法の改善や環境調査の充実を進め、自然に近い形で排砂を実施していきたい」とするコメントを発表した。」
「同支部は昨年11月の結審後、双方に和解を勧告していた。原告側によると、話し合いは当初不調に終わったが、同支部が「海の中のことで立証が困難だ」との見解を示したため、双方が歩み寄る形になったという。」
○所感
正直な感想は、何これ?です。
同日、県漁業協同組合連合会を相手取った控訴審も和解が成立し、2つの控訴審がセットで和解しました。このようなケースは非常に特異で、このことからも排砂問題には色々な関係者が絡みあっていることがわかります。
しかし、この和解内容(実質敗訴)を読むと不思議なのは、関電側の歩み寄りがどこに出ているのかわからないことです。朝日の記者は原告側によると人の言葉を掲載しているが、はたして納得して書いているのでしょうか。
もう少し情報がほしいです!
関連資料3 黒部川排砂被害訴訟 報告 http://www.kogai-net.com/sokai-document/document38/38-200/38-2a2/
黒部川排砂被害訴訟弁護団
弁護士 坂本義夫
第1 一審判決
2008年11月26日、富山地裁は、関西電力株式会社に対し、黒部川河口東の海域で操業するワカメ栽培組合に対して約2,730万円を支払うよう命じる判決を言い渡した。
第2 事件の概要
1 本件は、関西電力が黒部川上流部に建設した「出し平ダム」から排出されたヘドロ等の有機物が海底に堆積し、黒部川河口以東の海域においてヒラメやワカメが獲れなくなったとして、同海域で操業する漁業者らが、排砂の差止めや損害賠償等を求めた訴訟である。
2 出し平ダムは、ダム湖底の土砂を排出(排砂)する機能を備えた全国的にも珍しいダムである。関西電力は、91年12月から08年7月までほぼ毎年のように計16回の排砂を行い、これまでに、東京ドーム5.5杯分にものぼる合計679万立方メートル(ただし関西電力発表値であり、実際はもっと多い)の土砂・ヘドロその他の有機物を排出してきた。なお、01年からは、国交省が下流に建設した排砂ゲート付の「宇奈月ダム」と連携して排砂を行っている。排出された有機物は、東向きの海流にのって黒部川河口以東の海域(被害海域)に流れて堆積し、海底を泥質化させた。
3 被害海域は、水深30~40メートル以内の遠浅が黒部川河口から北へ1~1.5キロメートル、東へ約15キロメートルにわたって帯のように続く場所であり、かつては全域にわたって砂地の好漁場であった。遠浅の先は急激に落ち込む谷となり、漁業者らはこれを「ヒラメの通り道」と呼んでいる。
排砂による泥質化の影響を特に受けたのは、ヒラメなどの底物を対象魚とする「刺し網」漁業とワカメ養殖であった。刺し網漁業者はヒラメ、クルマエビ等の漁獲が激減して減収を余儀なくされ、ワカメ栽培組合は壊滅的打撃を受けて98年以降操業を休止している。
4 刺し網漁業者13名とワカメ栽培組合は、02年12月4日、関西電力を被告として、排砂の差止めと海底のヘドロ等の除去、損害賠償を求める訴訟を富山地裁に提起した。
富山地裁は04年8月、排砂と漁業被害との因果関係を調査するため、公害等調整委員会(公調委)に原因裁定を嘱託した。これを受け公調委は07年3月、①刺し網漁業(魚類)の不漁は出し平ダムの排砂の影響によるものとは認められないが、②養殖ワカメの不漁は出し平ダムの排砂がワカメの生育環境を悪化させたことによるものである、とする原因裁定を行った。
富山地裁は、公調委の裁定を是認する形で前述の判決をし、ワカメ栽培組合の損害賠償請求の一部は認めたが、排砂差止め・ヘドロ除去の請求と刺し網漁業者の損害賠償請求を棄却した。
5 なお、本件訴訟と表裏の関係にあり争点の1つにもなった重要問題として、富山県漁業協同組合連合会(県漁連)による関西電力からの漁業被害補償金受領問題がある。県漁連は、初回排砂直後の92年から数年間にわたり関西電力との間で漁業被害補償にかかる交渉を行って合意を得、96年に一時金として29億8,000万円!を受領し、95年以降毎年7,000万円の年金を関西電力から受領している(一時金と年金の総額は、08年までで39億6,000万円!)。
このうち、漁業被害の補償に回されたのはわずか4億8,000万円にすぎず、県漁連は、その余の34億8,000万円について、「富山県全体の漁業振興対策費であり、排砂の被害補償金ではない」として、被害漁業者に支払おうとしない。そこで本件の原告らは、本件とは別に県漁連を相手として、受領金員の交付請求訴訟を行っている。
第3 判決の意義・評価
1 漁業行使権を正面から認めたこと
本判決は、漁協が有する「漁業権」とは別に、個々の漁業者の「漁業行使権」(漁業を営む権利)を物権的権利として正面から認めた点で高く評価できる。
これにより、まず、漁業権放棄に対する補償問題との峻別が図られた。
例えば発電所等の温排水により漁業被害を被る海域においては、通常、漁協が漁業権を放棄し、その代償として電力会社から補償金を受領している。ここでは、個々の漁業者の損害填補については漁協内部における補償金の分配問題として処理されてしまう。
本判決は、このような漁業権放棄の場合とは区別して、個々の漁業者の漁業行使権を認め、排砂を漁業行使権の侵害ととらえて不法行為責任・損害賠償請求を正面から認めたものである。
次に、物権的権利としての漁業行使権を認めた点が重要である。
物権的権利としての漁業行使権を認めたことで、損害賠償のみならず侵害行為の差止め・排除請求が基礎づけられることとなった(もっとも、結論的には排砂差止めもヘドロ除去も認めなかったが)。
2 因果関係を一部認めたこと
次に、本判決は、養殖ワカメの不漁と排砂との間の因果関係を認めており、この点も評価できる。判決は、排砂により本件被害海域のうち水深20メートル以浅の浅海域に有機物が堆積し、それが海中に舞い上がりワカメに付着するなどしてワカメが減少・死滅したとした。
このメカニズムが認められたことにより、他の海藻類への同様の悪影響さらには魚類への派生的な悪影響を立証する手がかりを得ることができた。
また、排砂の影響を調査検討する組織として関西電力などが設置した「黒部川ダム排砂評価委員会」(評価委員会)は、これまで、排砂による悪影響はワカメも含めて「ない」と報告してきたが、本判決は、同委員会のこれまでの評価・報告が誤りであることを示すものともなった。
第4 判決の問題点
1 刺し網の漁獲減少との因果関係を認めなかったこと
もっとも、判決は、水深20メートルから100メートル(中深海域)の底質の泥質化を認めず、ヒラメ等の漁獲減少(=刺し網漁業者の損害)と排砂との因果関係は認められないとした。
2 排砂の差止めを認めなかったこと
また、判決は、排砂がワカメ栽培組合の漁業行使権を侵害していることを認めたにもかかわらず、排砂の差止めを認めなかった。判決は、その判断の理由としてワカメ栽培組合が操業を「廃止」したことを挙げ、黒部川出し平ダム排砂影響検討委員会(検討委員会。評価委員会の前身)の提言を尊重して排砂をしていく限り、排砂の差止めまでは必要ないと言う。
しかし、ワカメ栽培組合は操業を「廃止」したのではなく「休止」しているのである。しかも操業できなくなった原因は排砂にあるのであるから、操業していないことは差止めを認めない理由にはならない。また、関西電力は検討委員会の提言に従ってこれまで排砂してきたと主張している。つまり同委員会の提言に従った排砂をしてきたにもかかわらず、浅海域が泥質化しワカメが不漁となったのである。同委員会の提言を尊重すれば排砂してもよいという裁判所の判断には、まったく理由がない。
3 ワカメ栽培組合の逸失利益を限定したこと
また、ワカメ栽培組合の逸失利益を操業休止から5年分(03年まで)しか認めなかった点も問題である。
第5 控訴へ
05年以降、被害海域(黒部川河口の東海域)ではあいかわらずヒラメの不漁が続いているのに対し、河口の西海域では記録的な豊漁となっている。このような顕著な差が生じる原因は、排砂しか考えられない。
原告らは控訴した。関西電力も控訴しており、闘いの舞台は名古屋高裁金沢支部に移された。
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川辺川ダム「川は死んでしまう」反対派住民が決起集会 (1月22日)
2020年7月上旬の熊本豪雨で、球磨川が大氾濫し、凄まじい被害をもたらしました。
球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、支流の氾濫によるものでした。
球磨村と人吉市の犠牲のほとんどは、球磨川の支川(小川、山田川等)の氾濫が球磨川本川の氾濫よりかなり早く進行したことによるものでしたから、当時、川辺川ダムがあって本川の水位上昇を仮に小さくできたとしても犠牲者の命を救うことはできませんでした。
しかし、2022年8月策定の球磨川水系河川整備計画では小川は河川改修の対象外であり、山田川は0~0.5㎞についての改修が簡単に記されているだけです。川辺川ダムで本川の水位を下げれば、支川の水位も下がるという考えによるものですが、その考えは2020年7月水害の実態とかけ離れています。
そして、「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されていますが、既設の流水型ダム(5基)の実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっており、流水型川辺川ダムが川辺川、球磨川の自然に大きなダメージを与えることは必至です。
球磨川流域治水プロジェクトにより、球磨川ではこれから流水型川辺川ダムを中心に約3636億円以上いう凄まじい超巨額の公費が投じられていくことになっています。
流域住民・熊本県民の声に耳を傾けることなく、国土交通省と熊本県は2022年8月に流水型川辺川ダムを中心に据えた河川整備計画を策定し、ダム建設に向けた手続きを進め、球磨川で超巨額の公共事業を推進しようとしています。
そこで、流域住民は2023年の初頭、球磨川豪雨災害の真実を多くの人に伝え、行政の嘘を許さず、熊本県民や全国の様々な問題に取り組む人たちと手を携えて、ダムを中止に追い込むための新年決起集会を開催しました。
その集会案内と集会の記事を掲載します。
続きを見る
計画決定から39年の川辺川利水事業、完了へ 「同意取得に違法性」、ダム水源案頓挫 対象3590→198ヘクタールに大幅縮小
川辺川ダムは2022年8月に流水型ダムとして事業を強引に推進することになりましたが、2008年には川辺川ダム中止の判断が示されました。
その判断の重要な要因となったのは、2007年の川辺川利水事業の休止です。同事業に対して「国はダムの水を押しつけるため無理やり農家の同意を集めた」と農家が提訴し、2003年、同意取得に違法性があったとする福岡高裁判決が確定し、事業はつまずきました。
その後、川辺川利水事業は規模を大幅に縮小して(対象3590→198ヘクタールに大幅縮小)、川辺川からの取水を断念し、井戸やファームポンド(貯水槽)の整備で対応することにして続けられてきました。
この川辺川利水事業の完工式が2023年1月21日に開かれました。それらの記事を掲載します。
迷走続けた大型公共事業、翻弄された地元農家 計画決定から39年の川辺川利水事業、完了へ 「同意取得に違法性」、ダム水源案頓挫 対象3590→198ヘクタールに大幅縮小
(熊本日日新聞 2023年1月21日 12:29) https://kumanichi.com/articles/921539
(写真)人吉市上原田地区の農地でホウレンソウを収穫する尾﨑正光さん。川辺川利水事業が大幅縮小して収束することを残念がる=18日、同市
(写真)川辺川利水事業で人吉市上原田地区に整備されたファームポンド=20日、同市
人吉球磨の農地に農業用水を送る計画で始まった国営川辺川総合土地改良事業(利水事業)の関連工事が3月で完了する。計画決定から39年。対象面積3590ヘクタールだった大型事業は旧川辺川ダムを水源とするか否かで迷走した末、198ヘクタールに大幅縮小して収束を迎えた。待ち望んだ水を喜ぶ農家がいる一方、「事業が縮小せず早く実現していれば、地域の農業はもっと発展したはず」とため息をつく関係者もいる。
「ようやく安定した水が手当てされ、安心して営農できる」。あさぎり町須恵の農地でナシやカキを作る男性(62)は、利水事業で水が確保されたことに安堵[あんど]の表情を浮かべる。
九州農政局川辺川農業水利事業所(人吉市)によると、対象農地は人吉球磨6市町村で造成、区画整理した34団地・計198ヘクタール。川辺川からは送水せず、地下水をくみ上げる井戸とファームポンド(貯水槽)を各14カ所に整備し、総事業費は約252億円の見込み。
当初計画は農水省が1984年に決定。国交省が建設する川辺川ダムから幹線水路で広く送水する計画だった。後に減反など農業情勢の変化を背景に計画変更した際、「国はダムの水を押しつけるため無理やり農家の同意を集めた」と農家が提訴。2003年、同意取得に違法性があったとする福岡高裁判決が確定し、事業はつまずいた。
国は面積を狭めて計画を作り直すため、県や市町村、農家団体との「事前協議」を重ねたが、ダムを水源とするかどうかで難航し、07年度に事業を休止。その後、ダムに依存せず川辺川から取水する案も、地元で合意に至らなかった。国は18年、農業用水を送る計画を廃止し、既に造成などを終えた農地にだけ代替水源を整備する計画に大幅縮小した。
水を待ち続けた農家は翻弄[ほんろう]され、高齢化した。人吉市上原田地区では02年にいち早く貯水槽が整備され、モデル事業として貯めた井戸水を一部エリアに給水してきたが、地区の大半は事業縮小で対象から外れた。
「時間がかかりすぎた。農業をやめた者もいる。早く水が来ていれば希望を持って続けられたはず」。同地区でホウレンソウなど野菜を手がける尾﨑正光さん(82)は歯がみする。自身の農地も一部を除いて対象から外れ、代わりに県営事業での送水を待つという。
かつて6市町村でつくる事業組合(解散)の組合長を務めた内山慶治山江村長も表情は晴れない。「ダム建設反対の動きも絡み、事業が進まなかったことは残念。川辺川から送水できていれば、一帯の農業は大きく変わっていただろう」
事業休止でいったん閉じた川辺川農業水利事業所は15年に再開され、事業完了へ作業を進めてきた。「整備した給水設備が地域の農業振興に寄与すると期待している」と担当者。同事業所は3月末で撤退する。(中村勝洋)
計画決定から39年、国営川辺川利水事業が完工式 熊本県あさぎり町
(熊本日日新聞 2023年1月21日 12:32)https://kumanichi.com/articles/922711
(写真)国営川辺川総合土地改良事業の完工式であいさつする宮﨑敏行九州農政局長=21日、あさぎり町
人吉球磨6市町村の農地に農業用水を手当てする国営川辺川総合土地改良事業(利水事業)の完工式が21日、あさぎり町の商工コミュニティセンター・ポッポー館であった。当初3590ヘクタールだった対象面積は198ヘクタールに大幅縮小され、事業は3月に完了する。
式には農水省や6市町村の関係者ら約100人が出席。宮﨑敏行・九州農政局長が「地域の農業がさらに発展し、豊かな農村社会が形成されることを祈念する」とあいさつし、事業経過が報告された。
農水省は1984年の当初計画で旧川辺川ダムからの送水を見込んでいたが、計画変更手続きを巡り農家が起こした訴訟で敗訴。その後、新たな計画策定も難航し、地元で合意に至らなかった。18年、農地に送水するかんがい事業は廃止。対象面積を198ヘクタールに大幅縮小し、井戸やファームポンド(貯水槽)を整備した。総事業費は約252億円の見込み。(中村勝洋)
川辺川利水完了 地元複雑…完工式 着手から40年、大幅縮小「当初計画の10分の1満たず」
(読売新聞2023/01/22 08:13) https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20230122-OYTNT50007/
熊本県南部の6市町村に農業用水を供給する国の川辺川利水事業が今年度末で完了する。水源となるはずだった川辺川ダムの建設が中断し、利水事業はダム計画と切り離されて大幅に縮小された。事業開始から約40年がたち、総事業費は250億円を超える見通し。地元では21日、完工式があり、出席者は複雑な思いを巡らせた。(内村大作)
「(規模は)当初計画の10分の1に満たない。うれしさは3割で、7割は残念な思い」。同県あさぎり町で開かれた式で謝辞を述べた森本完一・錦町長は終了後の取材に、そう悔しさをにじませた。
利水事業は、農林水産省が1983年に着手した。人吉市、錦町、あさぎり町、多良木町、相良村、山江村が対象。当初の計画では、川辺川ダムを水源として農業用の水路網を整備する用排水事業や農地造成などで3590ヘクタールに水を送る予定だった。
しかし、対象面積を縮小する計画変更の有効性を巡り、一部農家が起こした訴訟で、2003年に国側が敗訴し、事業は事実上の休止に追い込まれた。その後、農水省はダムを活用した利水事業から離脱。ダム以外の水源を模索したが地元の合意が得られず、18年に計画を大幅に縮小した。新たな計画では対象面積が198ヘクタールに絞られた。対象農家も約4000人から約330人まで減少。完成した農地に水を供給するのはダムではなく、掘削した14か所の井戸となった。総事業費は252億円という。
あさぎり町で梨を栽培する五嶋政一さん(74)は暫定の井戸では水量が足りず、農家同士で水を譲り合ってきた。この日、受益農家でつくる土地改良区の副理事長として式に出席した後、「梨をつくるための必要な水量はようやく確保できた。けじめはついたが、ダムの水が来ると聞いてから何十年もかかった」と複雑な心境を語った。
利水に揺れた40年の歴史に幕 川辺川総合土地改良事業が完工式 あさぎり /熊本
(毎日新聞熊本版 2023/1/22)https://mainichi.jp/articles/20230122/ddl/k43/040/230000c
(写真)地元国会議員や知事らも参加した事業の完工式
熊本県南部の人吉球磨地方に農業用水を供給する「国営川辺川総合土地改良事業」の完工式が21日、同県あさぎり町であった。1983年に事業に着手したが、反対派農家が起こした訴訟で2003年に国が敗訴。建設予定だった川辺川ダムからの取水を断念し、井戸など代替水源施設の整備を続けてきた。農業利水の在り方を巡って揺れた事業は40年の歴史に幕を閉じた。
完工式は、あさぎり町商工コミュニティセンターであり、蒲島郁夫知事や地元国会議員、市町村関係者ら約100人が出席した。宮崎敏行・九州農政局長は式辞で「整備された農地と施設が適切に利用され、豊かな農村社会が形成されるよう祈ります」と述べた。
40年に及ぶ事業の中で節目となったのが、国の計画に地元農家864人がノーを突きつけた川辺川利水訴訟だった。原告農家の主張を認めた2003年の福岡高裁判決をきっかけに、計画はいったん白紙へ。原告団長の茂吉(もよし)隆典さん(78)=熊本県相良村=に聞いた。
「水は必要だ。でもダムの水はいらない」というのが私たちの訴えだった。さらに農家をだまして、亡くなった人の計画同意の印鑑まで集める国のやり方に反発したのが出発点だった。水源井戸の確保など水が必要な農家に国が最後まで対応した点は評価したい。ただ、事業に伴う高額な農家負担や後継者難などを考えれば、当初の事業実施は難しかったと思う。
脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし
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手持ち資料と最新データを使って、「脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし」をスライド形式の報告でまとめました。
その報告を水源連のHPにアップしました。脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし 2023年1月25日
詳細はそのスライドで説明しております。
その主な内容を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。
スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。
今回の報告「「脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし」は次の4点で構成されています。
Ⅰ 「流域治水」を前面に打ち出した国土交通省
Ⅱ 球磨川水系の「流域治水」の現実(流水型川辺川ダム等の推進の隠れ蓑)
Ⅲ 淀川水系における脱ダムへの取組み(本来の「流域治水」は脱ダムの理念から生まれた)
Ⅳ 滋賀県の流域治水推進条例と国の流域治水関連法
Ⅰ 「流域治水」を前面に打ち出した国土交通省(スライド№2~13)
Ⅰ-1 国交省「水管理・国土保全局」 2023年度予算(スライド№3~4)
従前の河川・ダム事業は「流域治水の本格的実践」という名称になって予算要求が行われるようになりました。
Ⅰ-2 国交省の「流域治水施策集」(スライド№5~7)
流域治水には治水対策としてありうるものがほとんど盛り込まれており、治水ダムの建設・再生、遊水地の整備もしっかり入っています。
Ⅰ-3 流域治水関連法ができたのは2021年5月(スライド№8)
流域治水関連法(「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律」)ができたのは、2021年5月で、内容は多岐にわたっています。
流域水害対策計画の策定、雨水貯留浸透施設の整備計画の認定、貯留機能保全区域の指定、浸水被害防止地域の指定と建築物の規制、河川法の改正(利水ダムの事前放流の拡大)、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
流域治水関連法は大変わかりづらい法律です。国交省がその後、同法を従前の河川事業を推進する隠れ蓑にしたことは改正当時の予想を超えるものがありました。
Ⅰ-4 利水ダムの事前放流について(スライド№9~11)
流域治水関連法の関連で位置づけられた「利水ダムの事前放流」は法改正前の2020年度から国土交通省の通達で始まっています。実際にダムの事前放流がどれほどの効果があるかは、疑問です。事前放流をするためには、豪雨の数日前から予測する必要がありますが、気象予測は進歩しているとはいえ、正確な予測はそれほど易しいことではありません。2022年も台風14号に備えて、ダムの事前放流が数多くのダムで行われましたが、ほとんどが空振りであったようです。
Ⅰ-5 流域治水プロジェクト(2021年3月~)(スライド№12~13)
国が始めた「流域治水プロジェクト」は施策がとにかく盛沢山で、ダム建設、遊水池整備、霞堤の保全、堤防整備、雨水貯留施設の整備など、考えられるものは何でも入っているというもので、実際にどこまで実現性があり、有効に機能するものであるかは分かりません。
時にはダム建設をカモフラージュするための隠れ蓑にもなり、また、住民に移転を迫る遊水地の建設を推進するものにもなっています。
Ⅱ 球磨川の「流域治水」の現実 川辺川ダム等の推進の隠れ蓑(スライド№14~35)
Ⅱ-1 球磨川流域治水プロジェクトの内容(スライド№15~17)
本プロジェクトには流水型ダム(川辺川ダム)の整備、市房ダム再開発、遊水池整備もしっかり入っています。
その対策費用はロードマップに河川対策約1636億円と記されていますが、流水型ダムの費用は含まれていません。
流水型川辺川ダムの残事業費は約2700億円ですので、上述の1636億円と合わせると、これから球磨川には約4336億円という凄まじい超巨額の公費が投じられていくことになります。
そして、市房ダム再開発は内容がまだ決まっていないということで、その再開発の事業費は含まれていません。
また、川辺川ダムはすでに約2200億円の事業費が使われていますので、現段階の川辺川ダムの総事業費は約4900億円にもなる見通しです。
このように、球磨川では2020年7月大水害への対応が必要ということで、球磨川流域治水プロジェクトの名のもとに、凄まじい規模の公費が投じられようとしています。
それによって、流域の人々の安全が確保されるかというと、実際はそうではなく、一方で、このプロジェクトは球磨川の自然に大きな影響を与え、住民に移転を迫る遊水地の建設を推進するものにもなっています。
Ⅱ-2 流水型川辺川ダムへの疑問(1)(2020年7月球磨川豪雨の再来に対応できない川辺川ダム)(スライド№18~23)
球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民でした。球磨村と人吉市の犠牲のほとんどは、球磨川の支川(小川、山田川等)の氾濫が球磨川本川の氾濫よりかなり早く進行したことによるものでしたから、当時、川辺川ダムがあって本川の水位上昇を仮に小さくできたとしても犠牲者の命を救うことはできませんでした。
2020年7月豪雨による球磨川大氾濫の最大の要因は球磨川本川と支川の河床掘削があまり実施されてこなかったことにあります。
国交省は川辺川ダム事業の必要性が損なわれないように、すなわち、川辺川ダムの推進のために、球磨川は高い河床高の状態が据え置かれてきました。そのことが主たる要因になって、2020年7月洪水で球磨川が大氾濫し、凄まじい災厄がもたらされました。
Ⅱ-3 流水型川辺川ダムへの疑問(2)(自然に優しくない流水型川辺川ダム)(スライド№24~29)
「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されています。現時点で既設の流水型ダムは5基ですが、それらの実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっています。
- 生物にとっての連続性の遮断
- ダム貯水域は流入土砂、土石が堆積した荒れ放題の野原へ
- ダム下流河川の河床の泥質化、瀬や淵の構造の衰退
- 河川水の濁りが長期化
- けた違いに大きい流水型川辺川ダム
Ⅱ-4 「遊水地の整備」への疑問 (スライド№30~31)
先祖代々の土地、現在の生活、コミュニティを喪失させる遊水地は安易につくるべきではありません。遊水地の洪水調節容量は合わせて約600万㎥ですから、その治水効果は小さなものです。そのために90世帯も移転しなければならないのでしょうか。
Ⅱー5 「市房ダム再開発」への疑問(スライド№32)
市房ダムは再開発ではなく、環境問題(下流河床の軟岩露出)と緊急放流の常態化問題から考えて撤去すべきダムです。
Ⅱー6 問題だらけの球磨川流域治水プロジェクトは根本からの見直しが必要(スライド№33)
球磨川流域治水プロジェクトは、「流域治水」を名乗っているものの、必要性が疑わしい流水型川辺川ダムの整備などに超巨額の公費を投入するというもので、大規模河川事業が中心になっており、「流域治水」という言葉が受けるイメージとは大きく異なるものになっています。
このプロジェクトの最大の目的は、2020年7月熊本豪雨の再来に対して人々の命を守ることであるはずなのに、超巨額の公費を球磨川に投入すること自体がこのプロジェクトの目的になってしまっています。
そして、これらの大規模河川事業によって、球磨川の自然が損なわれることは必至であり、そして、流域住民の生活も多大な影響を与えるものになっています。
私たちは「流域治水」という言葉に惑わされることなく、球磨川において流域住民の命と生活を守る真に有効な治水対策、球磨川と川辺川の自然を損なわない治水対策を追求していかなければなりません。
【参考】蒲島郁夫・熊本県知事と潮谷義子・前知事(スライド№34~35)
蒲島郁夫・熊本県知事は2008年に川辺川ダムの白紙撤回を求めた知事として評価されていますが、もともと、蒲島氏は決して脱ダム派の知事ではありません。蒲島氏は当時、推進の方向に舵を切ろうと考えていたと思われますが、その見解を発表する前に、ダムサイト予定地の相良村長と、ダムの最大の受益地とされていた人吉市長が川辺川ダムの白紙撤回を表明したことにより、蒲島氏は予定を変え、「球磨川は県民の宝であるから、川辺川ダムの白紙撤回を求める」との見解を発表したと推測されます。
一方、前知事、潮谷義子さんは川辺川ダムを中止させるため、2001年から懸命の努力を続けました。川辺川ダムに対して懐疑的な姿勢をとり続け、荒瀬ダム撤去の路線を敷いた潮谷義子・前知事は信念の人であると思いますが、蒲島氏はそうではなく、所詮はオポチュニストではないでしょうか。
Ⅲ 淀川水系における脱ダムへの取組み(本来の「流域治水」は脱ダムから生まれた)(スライド№36~57)
Ⅲ-1 淀川水系流域委員会の脱ダムへの取組み(スライド№37~40)
淀川水系の脱ダムへの取り組みは、宮本博司氏が中心になって進められました。宮本氏は国交省近畿地方整備局淀川河川事務所長として淀川水系流域委員会(2001年~)の立ち上げに尽力し、2006年に退職してからは、新淀川水系流域委員会(2007~2009年)には一市民として応募し、委員長に就任しました。
淀川水系流域委員会は2005年1月に淀川水系の五つの新規ダム計画(大戸川(だいどがわ)ダム、丹生(にう)ダム、川上ダム、余野川ダム)を原則として中止することを求める提言をまとめました。
さらに、新淀川水系流域委員会が2008年4月に、国交省が中止を決定した余野川ダムを除く4ダムについて原則中止を提言しました。
Ⅲ-2 4府県知事、大戸川ダム反対の共同意見を発表(共同意見を主導したのは滋賀県の嘉田由紀子知事)(スライド№41~42)
淀川水系流域委員会の提言がベースになって、大阪、京都、滋賀、三重の4府県知事は2008年11月、大戸川ダムを「計画に位置づける必要はない」とする共同意見を発表しました。
4府県知事の大戸川ダム反対の共同意見を主導したのは滋賀県の嘉田由紀子知事(現・参議院議員)です。嘉田さんは環境問題に取り組む研究者として、淀川水系におけるダム建設の見直しを主導しました。
【参考】淀川水系5ダムのその後(スライド№43~46)
淀川水系流域委員会が中止を求めた5ダムのうち、余野川ダムは2008年に、丹生ダムは2016年に中止されました。しかし、残りの3ダムは中止されませんでした。
大戸川ダムについては嘉田氏の後継として滋賀県知事となった三日月大造氏が2019年4月、淀川水系の大戸川ダムの建設を容認する方針を正式発表しました。
天ヶ瀬ダム再開発と川上ダムに対しては住民による反対運動が続けられてきました。残念ながら、両ダムとも事業が進められ、終盤の段階になっています。
Ⅲ-3 流域治水の推進で模範となるのは滋賀県の条例 (嘉田由紀子知事が制定)(スライド№47~59)
流域治水の推進に関して模範となるのは、2014年3月に制定された「流域治水の推進に関する条例」(当時の知事は嘉田由紀子・現参議院議員)です。
この流域治水は流域全体で洪水を受け止め、水害を最小限にしていく治水対策を進めなければならないという理念のもとに、河川整備だけでなく、土地利用や建築の規制によって、地域の浸水被害の低減を図るものです。
この流域治水推進条例で特筆すべきことは、浸水警戒区域(200年確率の降雨が生じた場合に、想定浸水深がおおむね3mを超える土地の区域)を指定し、住居の用に供する等の建築物を建築しようとする建築主は、あらかじめ、知事の許可を受ける必要があるとしたことです。この指定区域が徐々に増えてきています。
そして、浸水警戒区域内で既存住宅を建て替える場合、2階が浸水しないようにするための嵩上げなどの費用の一部を支援・助成する制度が2017年6月につくられました。400万円を上限として、嵩上げなどの費用の1/2を県が補助するもので、この補助制度も画期的なものです。
浸水警戒区域の指定は、滋賀県の「地先の安全度マップ」に基づいて行われています。「地先の安全度マップ」は「頻繁に想定される大雨(1/10)」から「計画規模を超える(一級河川整備の将来目標を超える)降雨規模(1/100, 1/200)」までを想定し、降雨規模1/10、1/100、1/200の三つがつくられています。そのうちの1/200の「地先の安全度マップ」の範囲が浸水警戒区域の指定対象になります。
「地先の安全度マップ」は滋賀県が独自に➀ 複数の河川の同時はん濫を考慮、② 内水はん濫を考慮、➂未完成堤防の破堤条件を厳しく考慮して作成した画期的なもので、国、他の自治体も大いに参考にすべきです。
滋賀県の上記の浸水警戒区域への取組みに対して、国の流域治水関連法の浸水被害防止区域の記述は極めてあいまいであり、実効性が不明です。
Ⅳ 滋賀県の流域治水推進条例と国の流域治水関連法(スライド№60)
滋賀県の流域治水推進条例はダム等に頼らずに、流域全体で洪水を受け止め、水害を最小限にしていく治水対策を進めなければならないという理念のもとに策定されたものです。
一方、国の流域治水関連法は基本的には従前の河川・ダム事業を「流域治水プロジェクト」の名のもとに続け、河川予算を獲得していくものであって、そこには「脱ダム」の精神が見られません。だからこそ、浸水被害防止区域の記述は極めてあいまいであり、実効性が不明になっているのです。
以上です。
最も基本となる治水対策「河道整備」
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手持ち資料と最新データを使って、「最も基本となる治水対策「河道整備」」をスライド形式の報告でまとめました。
その報告を水源連のHPにアップしました。
その主な内容を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。
スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。
今回の報告「最も基本となる治水対策「河道整備」は次の三つで構成されています。
Ⅰ 破堤・溢水の危険性のある箇所を早急に改善
Ⅱ 計画河床高を確保するための河床掘削の実施
Ⅲ 越流による破堤の危険性がある箇所へ耐越水堤防の導入
洪水を流域全体で受け止めて氾濫を防ぐ「流域治水」の導入も必要ですが、何よりも優先すべきは「河道整備」です。国が2021年度から始めた「流域治水」は施策が盛沢山で、どこまで有効なものなのか、分からないものです。そして、時にはダム建設をカモフラージュするための隠れ蓑にもなり、また、住民に移転を迫る遊水地の建設を推進するものにもなっています。この現在の国の「流域治水」の問題点は別稿で述べることにします。
Ⅰ ダム偏重の河川行政が引き起こした鬼怒川水害、鬼怒川下流ではダムの治水効果が減衰していた(スライド№4~13)
(1)2015年9月の鬼怒川下流の大氾濫(スライド№4~6)
破堤・溢水の危険性のある箇所が長年放置されてきている河川が少なくありません。その端的な例が2015年9月の「関東・東北豪雨」で大氾濫した利根川水系の鬼怒川下流部です。この洪水では鬼怒川の左岸25㎞付近で大規模な溢水があり、左岸21㎞地点で堤防が決壊しました。鬼怒川下流部の左岸25㎞付近、左岸21㎞付近は左岸、右岸を通じて、現況堤防高が周辺より一段と低く、大規模溢水や堤防決壊の危険性が最も高い場所であり、2015年9月水害では溢水、破堤が現実のものとなりました。
(2)鬼怒川水害訴訟(スライド№7~10)
2018年8月7日、国を被告として、住民らが「鬼怒川水害」国家賠償請求訴訟を提訴しました。
2022年7月22日、茨城県常総市の鬼怒川水害訴訟において国の責任を認める判決が水戸地裁でありました。水害裁判で国に賠償を命じる判決は極めて異例で、画期的でしたが、判決が認めた国の瑕疵は若宮戸の溢水だけであって、上三坂の堤防決壊については国の瑕疵を認めておらず、合点がいかない判決でした。原告の一部と国は2022年8月4日、国の責任を一部認めた水戸地裁判決を不服として東京高裁に控訴しました。
2015年9月の大水害後、44㎞地点まで鬼怒川の大改修が行われました(。鬼怒川中下流部が安全な河道に変わったことは喜ばしいことですが、今回の緊急対策プロジェクトの事業費約780億円のほんの一部を使って、最も危ない上三坂と若宮戸の改修が早期に実施されていれば、2015年9月水害の被災者が塗炭の苦しみを受けることがなかったのにと思われてなりません。
(3)鬼怒川下流部の現状 (「鬼怒川緊急対策プロジェクト」2015年12月~2021年5月)(スライド№11~12)
2015年9月の大水害後、44㎞地点まで鬼怒川の大改修が行われました。鬼怒川中下流部が安全な河道に変わったことは喜ばしいことですが、今回の緊急対策プロジェクトの事業費約780億円のほんの一部を使って、最も危ない上三坂と若宮戸の改修が早期に実施されていれば、2015年9月水害の被災者が塗炭の苦しみを受けることがなかったのにと思われてなりません。
(4)全国の河川で破堤・溢水の危険性の高い箇所の改善措置が急務(スライド№13)
鬼怒川下流部のように破堤・溢水の危険性のある箇所が長年放置されてきている河川が少なくないと思います。
全国の河川の堤防の状態をきちんと調査して、破堤・溢水の危険性の高い箇所をピックアップして、改善措置を講じることが急務です。
Ⅱ 計画河床高を確保するための河床掘削の実施(スライド№14~26)
(1)治水計画に表示されなくなった計画河床高(スライド№14~18)
計画河床高とは、各治水計画において確保すべき各地点の河床高であって、河床掘削によって達成する目標の河床高です。ところが、現在策定されている各水系の河川整備基本方針にも河川整備計画にも計画河床高までの掘削が図示されなくなっています。
しかし、かつて策定されていた各水系の直轄河川改修計画書では計画河床高の値が明記され、工事実施基本計画では計画河床高までの掘削が図示されていました。
計画河床高が治水計画に書かれなくなったのは今から20年くらい前のことで、その真の理由は、ダム事業推進に障害となるものを排除することにあったのではないかと推測されます。
(2)球磨川の現在の河床高は計画河床高よりかなり高い(スライド№19~20)
球磨川の2016年度平均河床高を見ると、計画河床高より1.5~2m程度高くなっているところが多いので、球磨川は計画河床高までの河床掘削が行われていれば、2020年7月洪水の最高水位が1.5~2m程度低くなっていた可能性が高いと考えられます。
(3)2020年7月球磨川水害の死者のほとんどは支川の氾濫によるもの(スライド№21~24)
2020年7月洪水の球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、そのほとんどは小川や山田川などの氾濫によるものでした。
球磨村や人吉市で支川が本川より先に氾濫して多数の死者が出たのは、球磨川およびその支川の河床高が高いまま放置されてきたからではないかと考えられ、球磨川と支川の河床掘削が本来の計画通りに実施していれば、2020年7月洪水の氾濫をかなり抑止できたのではないでしょうか。
(4)2022年策定の球磨川水系河川整備計画では2020年7月の球磨川洪水の再来に対応できるのか?(スライド№25)
流水型川辺川ダムの建設を中心とする治水計画では2020年7月の球磨川洪水の再来に対応できません。
国交省や熊本県は流水型川辺川ダムで本川の水位を下げれば、本川からのバックウォーター現象による支川の水位上昇を抑止できると説明していますが、2020年7月の球磨川水害はこのバックウォーター現象で支川が氾濫したのではありません。
小川や小田川などの支川について河床掘削などの対策をきちんと講じないと、2020年7月の球磨川水害の再来に対応できないにもかかわらず、2022年8月策定の球磨川水系河川整備計画は支川の治水対策がおろそかにされています。小川については何の改修もしないことになっています。
(5)総務省の緊急浚渫推進事業費の創設(スライド№26)
都道府県管理の地方河川について河川やダムの土砂浚渫費を総務省が支援する仕組みが2020年度に創設されました。
5年間の制度で浚渫費の70%を地方交付税で措置するもので、2020年度900億円、5年間で4900億円の予定です。
地方河川だけなく、国の河川についても同様な制度を設け、しかも、5年間ではない永続的な制度とし、全国の河川の河床掘削をどんどん推進すべきです。
Ⅲ 越流による破堤の危険性がある箇所へ耐越水堤防の導入(スライド№27~28)
別稿「耐越水堤防の経過と現状(封印が解かれつつある耐越水堤防工法)」で述べたように、耐越水堤防は比較的安価な費用で堤防を強化し、洪水時の越水による破堤を防ぐ工法です。
国交省は2000年代になって川辺川ダム等のダム事業推進の障壁になると考え、耐越水堤防の普及にストップをかけ、耐越水堤防工法は長らく実施されませんでした。
その後、耐越水堤防工法は20年間近く封印されてきましたが、2019年10月の台風19号水害で破堤した千曲川の穂保(ほやす)(長野市)などで耐越水堤防工法が導入され、封印が解かれつつあります。
現在の河川は、堤防の高さが確保されたとしても、河道掘削等の遅延により、計画規模以下の洪水であっても容易に計画高水位を上回り、さらには越水する可能性を否定することはできない状況となっています。
堤防決壊の7~8割以上は越水による破堤ですので、越水しても簡単に破堤しない堤防に強化することが急務です。
私たちは国交省等の河川管理者に各河川での耐越水堤防工法の早期実施を働きかけていく必要があります。
Ⅳ 「最も基本となる治水対策「河道整備」 小括(スライド№29)
(1) 鬼怒川鬼怒川下流部のように破堤・溢水の危険性のある箇所が長年放置されてきている河川が少なくないと思います。
全国の河川の堤防の状態をきちんと調査して、破堤・溢水の危険性の高い箇所をピックアップして、改善措置を講じることが急務です。
(2)計画河床高とは、各治水計画において確保すべき各地点の河床高であって、河床掘削によって達成する目標の河床高ですが、現在策定されている各水系の治水計画では計画河床高が明記されず、河床掘削がおろそかにされています。2020年7月の球磨川水害は河床掘削がきちんと実施されなかったことが水害激化の大きな要因になりました。各河川で本来の計画河床高を目指した河床掘削を推進することが重要です。
(3)堤防決壊の7~8割以上は越水による破堤ですので、越水しても簡単に破堤しない堤防に強化することが急務です。越水に対して一定の安全性を有する堤防に変える耐越水堤防工法を実施する必要があります。国交省等の河川管理者に各河川での耐越水堤防工法の早期実施を働きかけていく必要があります。