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熊本県白川・立野ダムの試験湛水、11月以降実施方針 国交省

2023年2月11日
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残念な情報ですが、熊本県民がダム建設反対運動を進めていた熊本県の白川の立野(たての)ダムの工事が進み、試験湛水の時期を11月以降とする方針となりました。その記事、ニュースと関連情報をお送りします。

立野ダムは流水型ダムとして造られつつありますが、立野ダム工事事務所の立野ダム本体工事進捗状況の写真(下記【参考1】)をみると、流水型ダムといっても、「自然に優しい」という話はまゆつばものであることがよくわかります。

立野ダムは見直しの対象でしたが、2012年12月に継続が決まりました(下記【参考2】を参照)。その後、事業費が増額され、1270億円になりました(下記【参考3】を参照)。

立野ダムの諸元は下記【参考4】の通りです

この立野ダムに対して、熊本県民の反対運動が展開されましたが(下記【参考5】を参照)、まことに残念ながら、2023年度完成の予定となりました。

 

立野ダム試験湛水、11月以降実施方針 国交省

(熊本日日新聞  2023年2月9日 10:23)https://kumanichi.com/articles/942343

国土交通省が立野ダムの試験湛水計画について説明した「立野ダム試験湛水検討委員会」の初会合=8日、熊本市中央区

国土交通省九州地方整備局は8日、2023年度の完成に向けて建設中の国営立野ダム(南阿蘇村、大津町)に関し、試験湛水[たんすい]の時期を11月以降とする方針を明らかにした。同日、熊本市中央区のホテルであった「立野ダム試験湛水検討委員会」の初会合で示した。

試験湛水は、最高水位まで水をため、ダム本体や基礎地盤、貯水池周辺の安全性などを確認するダム建設の最終工程。立野ダムは通常時は水をためない「穴あきダム」のため、穴をふさいで水位を上げ、最高水位に達した後に放流する。

試験湛水で国の天然記念物「阿蘇北向谷原始林」の一部が冠水するとの予測があり、整備局は水位の下降速度をできるだけ上げて、原始林への影響を減らす考えを説明した。11月1日にため始めれば水位を元に下げるまでの日数が最長で20日程度となるシミュレーションも示し、試験湛水が可能な期間の中では最も短くなるとした。

検討委はダム工学や河川工学、生物の専門家6人で構成し、国の計画に助言する。8日は京都大防災研究所水資源環境研究センターの角哲也教授を委員長に選出。角氏は「阿蘇、白川の特性を吟味して試験湛水に臨みたい」と述べた。(臼杵大介)

 

立野ダム試験湛水検討委員会が初会合 国が計画案示す【熊本】

(テレビ熊本2023年2月8日 水曜 午後9:00)https://www.fnn.jp/articles/-/483405

白川上流に現在、建設中の国が直轄する初の流水型ダムである立野ダムについて運用開始を前に試験的に水を貯める『試験湛水』の検討委員会の初会合が8日、熊本市で開かれました。

建設中の立野ダムは、ことし4月にはダム本体の設置が完了する予定です。

運用開始を前に試験的に水を貯める、いわゆる『試験湛水』は貯水時のダムや周辺の安全性などを調べるために行われますが、一方、水位が上がることで群生する植物などへの影響が懸念されます。

検討委員会で国土交通省は環境への影響を配慮し、「可能な限り『試験湛水』の期間を短縮したい」と話し、過去20年間のシミュレーションによる計画案を示しました。

案では11月1日から実施した場合、湛水日数は平均14日で最長でも20日と期間も短く、ばらつきも少ないとし、群生する植物も8割から9割の成育が維持されるとしています。

委員からは「植物への影響はしっかりと調査しデータを取ってほしい」「国交省が示した樹木への影響のデータは根拠が弱い。今後のためにもデータの収集が必要」などの意見が挙がりました。

今回の意見を踏まえて再度協議し、11月ごろには『試験湛水』を行う予定です。

 

 

【参考1】立野ダム工事事務所 国土交通省 九州地方整備局 http://www.qsr.mlit.go.jp/tateno/site_files/file/dam/2302_dasetu_sinntyokujyokyo.pdf

【参考2】立野ダム本体工事可能に 国交相、事業継続決定(熊本日日新聞2012年12月07日)http://kumanichi.com/news/local/main/20121207002.shtml

羽田雄一郎国土交通相は6日、民主政権のダム事業見直し対象になっていた立野ダム建設事業(南阿蘇村、大津町)について、事業主体の同省九州地方整備局(九地整)が「ダム案が最も有利」とした検証結果を妥当として、事業の継続を決定した。

同ダム建設を容認した国交相の最終判断を受け、同事業は、約2年間凍結されていた本体工事の着手が可能になる。

同ダムをめぐっては、九地整が河道掘削や遊水地など治水策の代替5案をコスト、安全度などで評価・比較し、「ダム案が最も有利」とする検討結果をことし9月に提示。

外部の事業評価監視委員会も、流域7市町村の意向や「ダム案に異存はない」とした蒲島郁夫知事の意見を踏まえ、九地整の「継続」方針を了承していた。

国交相は、国の有識者会議の意見も参考にした上で、「総合評価でダム案が優位であり、事業継続は妥当。検証手続きも国の基準に沿って適切だった」と結論づけた。

同ダム事業には、環境への影響などから見直しを求める意見も強く、九地整が「ダム案が有利」とする検討結果を示した地元公聴会でも、市民団体などから反対、疑問の声が相次いだ。

立野ダムは白川に建設する洪水調整専用の穴あきダムで、1983年に事業着手。総事業費917億円で、残事業は491億円。(渡辺哲也)

 

【参考3】事業費の増額 2022年6月

【参考4】立野ダムの諸元

【参考5】立野ダム容認に抗議文 https://suigenren.jp/news/2012/12/19/3541/

2012年12月18日、「立野ダムによらない自然と生活を守る会」が国交省の「立野ダム事業継続発表」に対して、国交省と熊本県・熊本市へ抗議文を提出しました。

抗議文など国交省記者クラブに配付した資料「国交省記者会配布書類」をご覧ください。 https://suigenren.jp/wp-content/uploads/2012/12/b6e65638486be16d4c77baa07ef444911.pdf

「白川流域の安全を守るために立野ダムより 河川改修を進めましょう」

「世界の阿蘇に立野ダムはいりません!」

「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」の報告

2月4日に「八ツ場あしたの会」の総会があり、嶋津の方から「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」を報告しました。

報告の要点を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

当日使ったスライドは八ツ場ダム問題と全国のダム問題20230204 -4をご覧ください。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」は次の5点で構成されています。

Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること

Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。

Ⅲ 水道等の需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。

Ⅳ ダム問題の経過

Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし

 

八ツ場ダム問題と全国のダム問題

Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること(スライド№2~5)

1 吾妻渓谷の変貌(スライド№3)

2 八ツ場ダム湖の浮遊性藻類の増殖による水質悪化(スライド№3)

3 夏期には貯水位が大きく下がり、観光地としての魅力が乏しくなる八ツ場ダム湖(スライド№4)

写真1 国交省のフォトモンタージュ(打越代替地から見た八ツ場ダム湖)

写真2 2022年7月の八ツ場ダム貯水池の横壁地区の岸壁(湖岸の岩肌が28m以上も剥き出し)

4 八ツ場ダムは堆砂が急速に進行し、長野原町中心部で氾濫の危険性をつくり出す。(スライド№5)

5 ダム湖周辺での地すべり発生の危険性(スライド№5)

 

Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。(スライド№6~19)

1 八ツ場ダムの緊急放流の危険性(スライド№7~8)

2019年10月の台風19号で、八ツ場ダムが本格運用されていれば、緊急放流を行う事態になっていました。

2 ダムの緊急放流の恐さ(スライド№9~13)

ダムは計画を超えた洪水に対しては洪水調節機能を喪失し、流入洪水をそのまま放流します(緊急放流)。

ダム下流の河道はダムの洪水調節効果を前提とした流下能力しか確保しない計画になっているので、ダムが洪水調節機能を失えば、氾濫の危険性が高まります。

しかも、ダムは洪水調節機能を失うと、放流量を急激に増やすため、ダム下流の住民に対して避難する時間をも奪ってしまいます。

3 ダムの効果が小さかった2015年9月の鬼怒川水害(スライド№14~18)

4 治水対策としての八ツ場ダムの問題点(スライド№19)

ダムの治水効果は下流へ行くほど、減衰していくので、八ツ場ダムの治水効果は利根川の中下流部ではかなり減衰すると考えられ、八ツ場ダムは利根川の治水対策としてほとんど意味を持ちません。

地球温暖化に伴って短時間強雨の頻度が増す中、八ツ場ダムに近い距離にあるダム下流の吾妻川では、むしろ、八ツ場ダムの緊急放流による氾濫を恐れなければなりません。

 

Ⅲ 水道等の水需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。(スライド№20~25)

1 八ツ場ダムの利水予定者と参画量(スライド№21)

2 水道用水の需要は縮小の一途(スライド№22~23)

全国の水道の水需要は2000年代になってからは確実な減少傾向となり、その傾向は今後も続いていきます。(減少要因:人口減、節水機器の普及、漏水の減少等)

3 群馬県の例「前橋市等の自己水源(地下水)の削減と水道料金の値上げ」(スライド№24)

4 石木ダム建設の主目的「佐世保市水道の水源確保」の虚構(スライド№25)

 

Ⅳ ダム問題の経過(スライド№26~45)

1 ダムの建設基数の経過(スライド№27)

2 ダム事業見直しの経過(スライド№28~33)

○1996年からダム事業が徐々に中止

○田中康夫・長野県知事の脱ダム宣言

○淀川水系流域委員会の提言(2005年1月)

3 2009年9月からのダム見直しの結(スライド№34~39)

2009年9月に発足した民主党政権は早速、ダム見直しを明言したものの、私たちの期待を裏切る結果になりました。

4 八ツ場ダムの検証結果 事業継続  2011年12月 (スライド№40~41)

八ツ場ダム事業推進の真の目的は約6500億円という超巨額の公費を投入することにあった。

5 ダムの検証状況 (2018年10月1日現在)(スライド№42~44)

中止ダムのほとんどはダム事業者の意向によって中止になったのであって、適切な検証が行われた結果によるものではありませんでした。

6 中止になったダムの建設再開を求める動き(スライド№45)

 

Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし(スライド№46~54)

1 国交省の「流域治水の推進」のまやかし(スライド№47)

流域治水には治水対策としてありうるものがほとんど盛り込まれています。治水ダムの建設・再生、遊水地整備もしっかり入っており、「流域の推進」が従前のダム事業推進の隠れ蓑にもなっています。球磨川がその典型例です。

2 球磨川流域治水プロジェクト(スライド№48~49)

本プロジェクトは流水型ダム(川辺川ダム)の整備、市房ダム再開発、遊水池整備などに、約4336億円という凄まじい超巨額の公費を球磨川に投じていくことになっています。

また、川辺川ダムはすでに約2200億円の事業費が使われていますので、現段階の川辺川ダムの総事業費は約4900億円にもなる見通しです。

このように、球磨川では2020年7月大水害への対応が必要ということで、球磨川流域治水プロジェクトの名のもとに、凄まじい規模の公費が投じられようとしています。

3 流水型川辺川ダムへの疑問(1)2020年7月球磨川豪雨の再来に対応できない川辺川ダム(スライド№50~51)

川辺川ダムがあっても、2020年7月球磨川水害の死者を救うことができませんでした。球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、支流の氾濫によるものでしたから、川辺川ダムがあっても命を守ることができませんでした。

4 流水型川辺川ダムへの疑問(2)自然に優しくない流水型川辺川ダム(スライド№52~54)

「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されています。既設の流水型ダム5基の実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっています。

 

5 国の流域治水関連法と流域治水プロジェクト(スライド№55)

国交省は2021年5月に「流域治水関連法」をつくり、全国の河川で「流域治水プロジェクト」を進めつつあります。このプロジェクトは施策がとにかく盛沢山で、ダム建設、遊水池整備、霞堤の保全、堤防整備、雨水貯留施設の整備など、治水に関して考えられるものは何でも入っているというもので、実際にどこまで実現性があり、有効に機能するものであるかは分かりません。それは、基本的には従前の河川・ダム事業を「流域治水プロジェクト」の名のもとに続け、河川予算を獲得していくものであって、そこには「脱ダム」の精神が見られません。

その典型例が「球磨川流域治水プロジェクト」です。このプロジェクトは流水型川辺川ダムの建設等に球磨川に超巨額の公費を投入することを目的にしています。そのプロジェクトで流域の人々の安全が確保されるかというと、実際はそうではなく、更に球磨川の自然も大きな影響を受けるものになっています。

 

 

川辺川ダム「川は死んでしまう」反対派住民が決起集会 (1月22日)

2023年1月26日
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2020年7月上旬の熊本豪雨で、球磨川が大氾濫し、凄まじい被害をもたらしました。

球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、支流の氾濫によるものでした。

球磨村と人吉市の犠牲のほとんどは、球磨川の支川(小川、山田川等)の氾濫が球磨川本川の氾濫よりかなり早く進行したことによるものでしたから、当時、川辺川ダムがあって本川の水位上昇を仮に小さくできたとしても犠牲者の命を救うことはできませんでした。

しかし、2022年8月策定の球磨川水系河川整備計画では小川は河川改修の対象外であり、山田川は0~0.5㎞についての改修が簡単に記されているだけです。川辺川ダムで本川の水位を下げれば、支川の水位も下がるという考えによるものですが、その考えは2020年7月水害の実態とかけ離れています。

そして、「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されていますが、既設の流水型ダム(5基)の実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっており、流水型川辺川ダムが川辺川、球磨川の自然に大きなダメージを与えることは必至です。

球磨川流域治水プロジェクトにより、球磨川ではこれから流水型川辺川ダムを中心に約3636億円以上いう凄まじい超巨額の公費が投じられていくことになっています。

流域住民・熊本県民の声に耳を傾けることなく、国土交通省と熊本県は2022年8月に流水型川辺川ダムを中心に据えた河川整備計画を策定し、ダム建設に向けた手続きを進め、球磨川で超巨額の公共事業を推進しようとしています。

そこで、流域住民は2023年の初頭、球磨川豪雨災害の真実を多くの人に伝え、行政の嘘を許さず、熊本県民や全国の様々な問題に取り組む人たちと手を携えて、ダムを中止に追い込むための新年決起集会を開催しました。

その集会案内と集会の記事を掲載します。

計画決定から39年の川辺川利水事業、完了へ 「同意取得に違法性」、ダム水源案頓挫 対象3590→198ヘクタールに大幅縮小

2023年1月22日
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川辺川ダムは2022年8月に流水型ダムとして事業を強引に推進することになりましたが、2008年には川辺川ダム中止の判断が示されました。

その判断の重要な要因となったのは、2007年の川辺川利水事業の休止です。同事業に対して「国はダムの水を押しつけるため無理やり農家の同意を集めた」と農家が提訴し、2003年、同意取得に違法性があったとする福岡高裁判決が確定し、事業はつまずきました。

その後、川辺川利水事業は規模を大幅に縮小して(対象3590→198ヘクタールに大幅縮小)、川辺川からの取水を断念し、井戸やファームポンド(貯水槽)の整備で対応することにして続けられてきました。

この川辺川利水事業の完工式が2023年1月21日に開かれました。それらの記事を掲載します。

 

迷走続けた大型公共事業、翻弄された地元農家 計画決定から39年の川辺川利水事業、完了へ 「同意取得に違法性」、ダム水源案頓挫 対象3590198ヘクタールに大幅縮小

(熊本日日新聞  2023年1月21日 12:29) https://kumanichi.com/articles/921539

(写真)人吉市上原田地区の農地でホウレンソウを収穫する尾﨑正光さん。川辺川利水事業が大幅縮小して収束することを残念がる=18日、同市

(写真)川辺川利水事業で人吉市上原田地区に整備されたファームポンド=20日、同市

人吉球磨の農地に農業用水を送る計画で始まった国営川辺川総合土地改良事業(利水事業)の関連工事が3月で完了する。計画決定から39年。対象面積3590ヘクタールだった大型事業は旧川辺川ダムを水源とするか否かで迷走した末、198ヘクタールに大幅縮小して収束を迎えた。待ち望んだ水を喜ぶ農家がいる一方、「事業が縮小せず早く実現していれば、地域の農業はもっと発展したはず」とため息をつく関係者もいる。

「ようやく安定した水が手当てされ、安心して営農できる」。あさぎり町須恵の農地でナシやカキを作る男性(62)は、利水事業で水が確保されたことに安堵[あんど]の表情を浮かべる。

九州農政局川辺川農業水利事業所(人吉市)によると、対象農地は人吉球磨6市町村で造成、区画整理した34団地・計198ヘクタール。川辺川からは送水せず、地下水をくみ上げる井戸とファームポンド(貯水槽)を各14カ所に整備し、総事業費は約252億円の見込み。

当初計画は農水省が1984年に決定。国交省が建設する川辺川ダムから幹線水路で広く送水する計画だった。後に減反など農業情勢の変化を背景に計画変更した際、「国はダムの水を押しつけるため無理やり農家の同意を集めた」と農家が提訴。2003年、同意取得に違法性があったとする福岡高裁判決が確定し、事業はつまずいた。

国は面積を狭めて計画を作り直すため、県や市町村、農家団体との「事前協議」を重ねたが、ダムを水源とするかどうかで難航し、07年度に事業を休止。その後、ダムに依存せず川辺川から取水する案も、地元で合意に至らなかった。国は18年、農業用水を送る計画を廃止し、既に造成などを終えた農地にだけ代替水源を整備する計画に大幅縮小した。

水を待ち続けた農家は翻弄[ほんろう]され、高齢化した。人吉市上原田地区では02年にいち早く貯水槽が整備され、モデル事業として貯めた井戸水を一部エリアに給水してきたが、地区の大半は事業縮小で対象から外れた。

「時間がかかりすぎた。農業をやめた者もいる。早く水が来ていれば希望を持って続けられたはず」。同地区でホウレンソウなど野菜を手がける尾﨑正光さん(82)は歯がみする。自身の農地も一部を除いて対象から外れ、代わりに県営事業での送水を待つという。

かつて6市町村でつくる事業組合(解散)の組合長を務めた内山慶治山江村長も表情は晴れない。「ダム建設反対の動きも絡み、事業が進まなかったことは残念。川辺川から送水できていれば、一帯の農業は大きく変わっていただろう」

事業休止でいったん閉じた川辺川農業水利事業所は15年に再開され、事業完了へ作業を進めてきた。「整備した給水設備が地域の農業振興に寄与すると期待している」と担当者。同事業所は3月末で撤退する。(中村勝洋)

 

計画決定から39年、国営川辺川利水事業が完工式 熊本県あさぎり町

(熊本日日新聞  2023年1月21日 12:32)https://kumanichi.com/articles/922711

(写真)国営川辺川総合土地改良事業の完工式であいさつする宮﨑敏行九州農政局長=21日、あさぎり町

人吉球磨6市町村の農地に農業用水を手当てする国営川辺川総合土地改良事業(利水事業)の完工式が21日、あさぎり町の商工コミュニティセンター・ポッポー館であった。当初3590ヘクタールだった対象面積は198ヘクタールに大幅縮小され、事業は3月に完了する。

式には農水省や6市町村の関係者ら約100人が出席。宮﨑敏行・九州農政局長が「地域の農業がさらに発展し、豊かな農村社会が形成されることを祈念する」とあいさつし、事業経過が報告された。

農水省は1984年の当初計画で旧川辺川ダムからの送水を見込んでいたが、計画変更手続きを巡り農家が起こした訴訟で敗訴。その後、新たな計画策定も難航し、地元で合意に至らなかった。18年、農地に送水するかんがい事業は廃止。対象面積を198ヘクタールに大幅縮小し、井戸やファームポンド(貯水槽)を整備した。総事業費は約252億円の見込み。(中村勝洋)

 

 川辺川利水完了 地元複雑完工式 着手から40年、大幅縮小「当初計画の10分の1満たず」

(読売新聞2023/01/22 08:13) https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20230122-OYTNT50007/

熊本県南部の6市町村に農業用水を供給する国の川辺川利水事業が今年度末で完了する。水源となるはずだった川辺川ダムの建設が中断し、利水事業はダム計画と切り離されて大幅に縮小された。事業開始から約40年がたち、総事業費は250億円を超える見通し。地元では21日、完工式があり、出席者は複雑な思いを巡らせた。(内村大作)

「(規模は)当初計画の10分の1に満たない。うれしさは3割で、7割は残念な思い」。同県あさぎり町で開かれた式で謝辞を述べた森本完一・錦町長は終了後の取材に、そう悔しさをにじませた。

利水事業は、農林水産省が1983年に着手した。人吉市、錦町、あさぎり町、多良木町、相良村、山江村が対象。当初の計画では、川辺川ダムを水源として農業用の水路網を整備する用排水事業や農地造成などで3590ヘクタールに水を送る予定だった。

しかし、対象面積を縮小する計画変更の有効性を巡り、一部農家が起こした訴訟で、2003年に国側が敗訴し、事業は事実上の休止に追い込まれた。その後、農水省はダムを活用した利水事業から離脱。ダム以外の水源を模索したが地元の合意が得られず、18年に計画を大幅に縮小した。新たな計画では対象面積が198ヘクタールに絞られた。対象農家も約4000人から約330人まで減少。完成した農地に水を供給するのはダムではなく、掘削した14か所の井戸となった。総事業費は252億円という。

あさぎり町で梨を栽培する五嶋政一さん(74)は暫定の井戸では水量が足りず、農家同士で水を譲り合ってきた。この日、受益農家でつくる土地改良区の副理事長として式に出席した後、「梨をつくるための必要な水量はようやく確保できた。けじめはついたが、ダムの水が来ると聞いてから何十年もかかった」と複雑な心境を語った。

 

 利水に揺れた40年の歴史に幕 川辺川総合土地改良事業が完工式 あさぎり /熊本

(毎日新聞熊本版 2023/1/22)https://mainichi.jp/articles/20230122/ddl/k43/040/230000c

(写真)地元国会議員や知事らも参加した事業の完工式

熊本県南部の人吉球磨地方に農業用水を供給する「国営川辺川総合土地改良事業」の完工式が21日、同県あさぎり町であった。1983年に事業に着手したが、反対派農家が起こした訴訟で2003年に国が敗訴。建設予定だった川辺川ダムからの取水を断念し、井戸など代替水源施設の整備を続けてきた。農業利水の在り方を巡って揺れた事業は40年の歴史に幕を閉じた。

完工式は、あさぎり町商工コミュニティセンターであり、蒲島郁夫知事や地元国会議員、市町村関係者ら約100人が出席した。宮崎敏行・九州農政局長は式辞で「整備された農地と施設が適切に利用され、豊かな農村社会が形成されるよう祈ります」と述べた。

事業は当初、川辺川ダム建設を前提に、同県人吉市など球磨川流域6市町村の農地3590ヘクタールに川辺川から水を引く計画だった。ところが農家の同意を巡る不正な水増しなどが訴訟で明らかになり、国は03年に福岡高裁で敗訴。計画は白紙となった。その後の新たな利水計画も農家負担を巡って一部自治体の同意が得られず、国はダムからの取水を断念。18年にはかんがい事業の廃止と農地造成、区画整理の縮小を決定し、代替水源が必要な農地137ヘクタールへの水源施設整備を続けていた。【西貴晴】

 茂吉隆典さん茂吉隆典さん

40年に及ぶ事業の中で節目となったのが、国の計画に地元農家864人がノーを突きつけた川辺川利水訴訟だった。原告農家の主張を認めた2003年の福岡高裁判決をきっかけに、計画はいったん白紙へ。原告団長の茂吉(もよし)隆典さん(78)=熊本県相良村=に聞いた。

「水は必要だ。でもダムの水はいらない」というのが私たちの訴えだった。さらに農家をだまして、亡くなった人の計画同意の印鑑まで集める国のやり方に反発したのが出発点だった。水源井戸の確保など水が必要な農家に国が最後まで対応した点は評価したい。ただ、事業に伴う高額な農家負担や後継者難などを考えれば、当初の事業実施は難しかったと思う。

球磨川の市房ダムの基本的な問題点

2022年10月25日
カテゴリー:

10月21日、球磨川流域の市民団体が、9月の台風14号に伴う大雨で水位が上昇した県営市房ダムの危険性や、流水型川辺川ダムの環境への影響について見解を示すように、熊本県に申し入れを行いました。その記事を掲載します。

市房ダムの基本的な問題点をあらためて下記に整理しておきます。

 市房ダム、危険性説明を 市民団体が県に申し入れ                                     

(熊本日日新聞 2022年10月24日 10:57) https://kumanichi.com/articles/833328

県営市房ダムの危険性や流水型ダムの環境への影響を示すよう県に申し入れる市民団体=21日、県庁

人吉市の「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」など3市民団体は21日、9月の台風14号に伴う大雨で水位が上昇した県営市房ダム(水上村)の危険性や、国が建設を計画する流水型ダムの環境への影響について見解を示すよう、県に申し入れた。

市房ダムによる洪水調節で、大雨時に多良木地点で約0・9メートル、人吉地点で約0・2メートル水位を下げたとする県の説明に対し、「効果ばかり言っているが、ダムが満水になって放流量が流入量を上回った場合のリスクについても説明すべきだ」と指摘した。

台風後、球磨川流域の樅木ダム(八代市泉町)や幸野ダム(湯前町)下流では水の透視度が低かったとする調査結果を示して「ダムは大量の土砂や粘土をため込んで川の濁りを長期化させる」と主張し、流水型ダムが「清流を守る」とする根拠の説明も求めた。(元村彩)

 

 市房ダムの基本的な問題点

(1)球磨川の洪水位の低減に対する寄与はかなり小さい

 今年9月中旬の台風14号に伴う大雨により、市房ダムで9月19日3時から緊急放流が行われました。

下記のグラフは国交省と熊本県のデータを使って、市房ダムの流入量・放流量、および市房ダム下流の球磨川の当時の水位の時間変化を見たものです。、

市房ダムより約9㎞下流の球磨川・多良木地点では、緊急放流の影響で5時頃に水位が少し上がりましたが、

中流の人吉地点では、緊急放流の影響は明確ではなく、むしろ球磨川流域の降雨によって、水位がかなり上昇しました。

このように流域面積が小さい市房ダムの球磨川への影響は元々小さなものであって、人吉あたりではその治水効果をほとんど期待できません。市房ダムは、球磨川の洪水位低減に対する寄与はかなり小さいダムなのです。

(西日本新聞2020/8/12)

 2022年9月18~19日の球磨川の観測水位と市房ダムの流入・放流量の時間変化 (国交省と熊本県のデータを使って作成)

流域面積 市房ダム158㎢  多良木250㎢  人吉1137㎢ (市房ダムは河口から約93㎞)

(2)緊急放流時のダム直下での氾濫が心配される市房ダム

市房ダムはむしろ、緊急放流時のダム直下での氾濫が心配されるダムです。

2020年7月の熊本県の球磨川豪雨では、熊本県営市房ダムが緊急放流寸前のところまでいきました。

その様子を記録した管理所長のメモの内容を伝える記事があります。https://suigenren.jp/news/2021/07/04/14774/

「やばい…280m超える」寸前で回避された緊急放流、緊迫の所長メモが歴史公文書に

(読売新聞2021/06/29)

この記事を読むと、市房ダムは、線状降水帯の停滞がもう少し長ければ、洪水のさなかに水害の危険性を高める緊急放流せざるをえなかったことがわかります。

熊本県は2022年6月から、球磨川上流の県営市房ダムについて、降雨によってダムの貯水容量が半分ほどになった段階で新たに警戒情報を出し、緊急放流せざるを得なくなる事態に備えて、下流域の住民に早めの避難行動を促す運用を始めると発表しました。https://suigenren.jp/news/2022/05/30/16290/

しかし、下流を水害から守るために設置されたはずのダムによって、下流住民はダムからの緊急放流に備えて避難行動をしなければならなくなったのですから、まったくおかしな話です。

ダムがなければ、ダムを前提としない河川改修が行われてきたはずですが、ダムがあるためにそれが行われないため、下流住民は危険にさらされるのです。ダムを前提とした河川行政に終止符を打つべきです。

 

(3)市房ダムの環境への影響(ダム下流河床の軟岩露出)

下記の写真は15年以上前の写真ですが、市房ダム下流の球磨川の河床を撮影したものです。市房ダムによって土砂の供給が遮られたため、市房ダム下流の河床は侵食が進んで、軟岩が露出しており、河川環境が悪化しています。ダムによる軟岩露出は、河床掘削による軟岩露出とは異なり、土砂の供給そのものを永続的に大幅にカットしてしまうから、何年経っても軟岩の上に砂礫が堆積していくことはありません。市房ダムができてから、軟岩が露出した状態が続いているのです。

なお、市房ダムは1970年3月完成で、貯水容量4020万㎥、発電容量2880万㎥、洪水調節容量630~1830万㎥のダムです。

計画堆砂量510万㎥に対して2019年度末の実績堆砂量が499万㎥にもなっています(国交省の開示資料による)。

市房ダムは2022年8月策定の球磨川水系河川整備計画により、再開発が計画されていますが、上記(1)、(2)、(3)の基本的な問題点を踏まえれば、むしろ撤去を計画すべきダムなのです。

 

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